王様のナミダ
「会長っ!」
木々が風に揺れた。
普段は立ち入り禁止のこの場所で、声の限り叫ぶ。
顔は見えない。表情も分からない。
だけど、きっと。
会長はまだ泣いている。
「......さく、らば」
「会長、」
「......くるな。」
「会長。」
「くるなっ!!」
1歩踏み出せば届く距離にある背中。聞こえた声は震えていて。
伸ばしかけていた手を下ろす。
俺に聞かれたくないのか、声を押し殺して背を向ける会長の背中は酷く小さく見えて。
「会長。なんで泣いてるの。なにが悲しいの。」
「......さく、らば。」
「もし、さっきのことで会長が泣いてるんだったら違うから。俺は別に家のために会長に近づいたんじゃない。」
「っ、」
「ただ俺は、」
そう。ただ俺は、
改めてポケットを探る。
やはりハンカチは見当たらない。
だから。
だから仕方ないのだ。
ハンカチを忘れてしまったから。
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