6 長い前髪に隠された目は相変わらず見えないけど、その表情は明らかに怒っていて。 俺が彼になにかをしただろうか。 こんな感情をぶつけられるなにかをしただろうか。 頬が痛い。じんじんと熱をもって。 口のなかは変わらず血の味で。 「ちょっとあんたっ。桜庭様の言うこと聞きなよっ! それに会長様が迷惑されてるのは本当だし!」 「嘘つけ!! そんな訳ないだろっ! 理巧は本当は俺が好きなんだ! でも恥ずかしくて言えないだけなんだっ。お、おれだって理巧がっ、すーー、」 「ーー黙って。」 無意識に、口から言葉が飛び出した。 驚いたように俺を見上げてくる彼を、その場で見下ろす。黒髪の隙間から見える大きな目が、酷く邪魔で仕方ない。 「あのさ。」 「ぇ、......あ」 「君は、......君はいいよね。なにもしなくても会長に好かれてて、それで。......それで、君も好きなら両想いってやつじゃないの。お、れは、全然そんなの。」 目頭が熱い。 床がぐるぐると回る。止まらない。 ただ、好きなのに。 「だからさ。もう、さっさと。......付き合っ」 「桜庭っ!」 声の鋭さに肩が震えた。 一瞬、誰の声か分からず聞こえた方へ顔を向ける。そこには、 「............冬至。」 携帯を握りしめて、こちらへ走ってくる冬至の姿。その後ろには慎悟くんもいて。 「おいっ!」 急速に力の抜ける身体。 傾く視界。 俺を見つけてくれたことのお礼が言いたいのに、もう瞼を開けるのも面倒で。 おやすみ、と。 小さく呟いた気がした。 [*前へ][次へ#] [戻る] |