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そう、あれは一ヶ月前。
世の学生たちが、春休みなるものに突入して直ぐのことだった。
その日、赤林は最高に体調が悪かった。
頭をひっきりなしにグーで殴られているような頭痛。身体は、本当に自分の身体かと疑うほどに重かった。
それでも、朝開いた冷蔵庫の中身はすっからかん。足は自然と近くのコンビニへ向いていた。
そして目的地まであと100歩を切るだろう公園で。
後をつけられていることに気づかなかった。自分を見つけた他校の制服を着た男たちが、携帯電話で仲間を呼び出していることも。
ふと、気づいたら囲まれていた。
大体20人くらいだろうか。自分と違い、相手の目はギランギランに輝いている。対して自分は。
つい先ほどよりも、確実に顔色が悪くなっているだろうことは、更に強くなる頭痛が親切にも教えてくれた。
「おいおい。赤林さんよぉー。今日はえらい体調がわるそうで」
「......うるせぇ」
頭がガンガンと痛い。加えてこのねっとりとした喋り方に複数の笑い声。視線がうぜぇ。声がうるさい。
赤林の視線は、目の前で笑う男たちを飛び越えて自然と空中へ追いやられていた。それが、よそ見をしているように見えたのか、否か。
「てめぇっ。よそ見してんじゃねぇ!」
そう叫びながら、唐突に殴りかかってきた男を左に避けて、顔面に一発拳を降り下ろす。
「ぐぁ!?」
落ちていく男を見ながら思うのは、腕が重い。足がだるい。
それが、いけなかったのか。
「死ねえ!!」
パサついた、枯れた声。それに気づいた時にはもう遅く。降り下ろされる金属の塊に、腕をあげたまま覚悟して目を閉じた。
だが、
「......ぇ、」
すぐに訪れるはずの、衝撃はこない。思わず目を開いた、先。
「すいませんけど、ここで喧嘩すんのやめてもらえます? 子供が怯えてるんで」
ひとりの男の背中が、自分を守るようにして立っていた。
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