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かねごと










ーー走る。走る。走る。








木々を避けて、草を蹴って。
ただひたすら、背後の者たちから逃げるため。



胸が苦しい。

息が上がる。




つい先日訪れた、思い出の場所も早足に。




弁解の暇もなかった。

石を当てられた右肩が痛む。



もう、嫌だ。なんでこんなことに。



泣き言は多々浮かぶけれど、手から伝わる温もりにそれをぐっと押し込んだ。





肌で感じる空の熱は、今日も相変わらずの晴天で。
憎々しいほどの清々しさに思わず天を睨み付ける。





だけれど、苦しさは変わらずあって。




膝ががくん、と力を失った。
足が絡まり、身体が傾く。
視界の端、広がるのは奈落の底。





あぁ、落ちる。





そう思って、




咄嗟に、繋がる手を振りほどく。

強い風に煽られて、離れたはずの手がまた繋がる。




駄目なのに。駄目なのに。



泣きそうな顔で彼を見つめれば、その細い腕に抱きとめられる。

近くで見た彼の顔は、やはり誰よりも何よりも綺麗で。




ごめんなさい。ごめんなさい。

心のなかで何度も謝る。





俺はどうなったっていいから。

死んだっていいから。




だから、どうか彼を助けてください。





頬が濡れる。泣いてるみたいに。








彼は、大丈夫と微笑んだ。









あきゅろす。
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