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「あー、もー。」


音を立てて閉まったドアを背にして、胸のあたりを握り座りこむ。


ドキドキ、と心臓がうるさい。

身体があつい。


「もー、なんなんだ。これ。」


あんな笑顔、この俺に見せてどうしたいんだよ。


もっと、俺を惚れさせたいのか。


それとも。


自然と高鳴る心臓の音ともに身体を回るのは、それとは違う重く暗い一つの感情。


あの日から、感じるようになった罪悪感。



伊瀬を騙している、と。



もう一人の俺が俺に囁く。


「くるしい。」


そう、くるしい。

伊瀬を騙しているという自分が苦しい。


だけど、昨日決めたじゃないか。


俺は伊瀬に、嫌われたくない。



こんなの狡いってわかってるけど、俺はーーーー。





「はぁ。」

ひとつ、深呼吸のあと、両足に力を入れて立ち上がる。


とりあえず飲み物を取ってこないと。


寄りかかっていた背中を離して、階段に向け爪先を合わせ、


「っ、あっ......!」


背中に、衝撃。


「あれ、南条? あ、とっ。」


斜めに逸れていく視界のなか、暖かなものに包まれた感触。


「............伊瀬。」


ドアップな彼の顔。


「おい、大丈夫か? 南条。」

「あ、えっ、あ、あ。」


問いかけられている内容は理解できるのに、何を話したらいいのか分からない。


彼の腕のなかにいるという状況に、あたまがぐちゃぐちゃに混乱した。



「南条?」

「あ。い、い、......せ。」



酷く優しげに頬へと触れてくる彼に、心がいたい。

それに、まだ嫌われていないと、安心する自分もいて。



優しげな低い声。
戸惑いに揺れる漆黒。



それが、酷く心地よくて。



そしてきっと、愛しい。






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