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「おわったー!」


学校中に響く授業終わりのチャイムとともに席を立つ。鞄を忘れず肩にかけて、伊瀬の席へと近づく。


「いーせー。」


まだこちらに気づいていないような彼の名前を呼び、椅子に座ったままの彼を見下ろす。

普段、高くて見えない彼のつむじが、左巻きに発見できた。


「あぁ、南条。」

「うん、早くいこうぜー。」


こちらに顔を上げた伊瀬を急かし、腰を上げさせる。

クラスメイトへ適当に挨拶を返し、二人揃って教室を出た。


「お前、なんか嬉しそうだな。」


1階に降りる階段に差し掛かった、隣を歩く伊瀬に声をかけられる。

その表情を伺えば、若干の呆れが見てとれた。

「え、なにが?」

「ほら、その顔。教室出てからずっと緩みっぱなし。」

「えっ、マジで!」


伊瀬の指摘を受け、顔をぺたぺたと触ってみる。




今日は、昨日あいつらと計画した伊瀬を家に呼んで交流を深めよう作戦の実行日だ。


今日突然、挨拶以外で伊瀬に話しかけたからか、クラスのみんなは驚いてた。まぁ、そりゃあ驚くだろう。片や、彼女を奪われたやつと。片や、彼女を奪ったやつだ。

リカちゃんも微妙な顔してたし。

でも伊瀬はなぜか普通で、それがなんでか嬉しくて。

挨拶だけでも、地道に交流を図ってきたかいあってか、今日伊瀬を家に誘うことに成功した。



これで上手く仲良くなれれば、俺はまだ居ない伊瀬の友達の座をゲットできるかもしれないのだっ。



なのに、伊瀬の前でニヤニヤはいけないだろう、俺。


気持ち悪いなんて言われて、伊瀬に嫌われてしまったら、俺はきっと生きていけない。


と、考えれば考えるだけブルーになっていく気持ちのままうつ向けば、先ほどよりも幾分か呆れを滲ませた声が、俺の耳に届いた。


「顔いくら触ったってわかんねぇだろ。もうにやけてねぇし。」

「あ、そうなの? もうなおってる? ならいいや。」


平然を装いながら、普段通りの伊瀬の態度に安心する。
久しぶりの会話に高鳴る心臓を誤魔化すたえに、近くの手すりを掴む。


夏特有の暑い空気のなか、それは手のひらを伝い、身体全体に冷たさを伝えた。

指先が冷たい気がするのは、きっとそのせい。





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