[通常モード] [URL送信]

〜小説〜
〜彼女の爪痕〜
あれから二週間…

彼女に何度かメールしたけど返事は返ってこなかった…

自分も仕事に追われ

ゆっくりとした時間も取れなかったが

明日休みを取れたので

彼女のいる店に予約の電話を入れる事にした

数回呼び出し音が鳴り電話が繋がった

『はい…お電話ありがとうございます…』

電話に出るいつもの女性の声

『あ…どうも…北山です…』

『いつもありがとうございます…』

『あの…智…あ…美幸さんの予約なんですが…』

つい智子さんっていいかけた

『え!?…美…幸さん!?』

まるで予想外だったって感じの答えが返ってくる

『えっと…美幸さんが何か?』

『…その…彼女…辞めちゃったんですよ…』

まさかの言葉だった

『い…いつ…』

『2週間前……北山さんに遊んで頂いた日ですよ…それと…あ…すいませんキャッチ入っちゃいました…一度折り返します…遅くならないうちにかけ直します…あ…こちらからお電話しても大丈夫ですか?』

『あ…はい…問題ないです』

『では一度切りますね…また後ほど…』

『はい…』

彼女が辞めていたなんて…

電話をきり…途方にくれる

まだ7時ちょい…

街中には学生からサラリーマン…主婦やカップル…様々な人が行き交う…

そんな中一人立ち尽くしたままの自分…

すれ違う人が訝しげにこっちを見ては去っていく…

ふぅー

深いため息をはく…

騙されたのか…

いや

所詮はどんなに言い繕いをしても欲望のはけ口を金で見つけたがための出会いだった

騙されたというより鵜呑みにした自分が馬鹿だった…って事だろうな…

歩きながら色々考えた…

繁華街から少し離れ…自宅の方へ足を運ぶ…

デリ嬢が辞めただけ…

ただそれだけなはずなのに

とても大切な人を失った…そんな気分になる…

近くの公園によった…

公園前のマンションの自販機でコーヒーを買いベンチに腰掛ける…

コーヒーを一口飲んで

携帯のアドレス帳を開く

智子様…そう登録された画面からメールアドレスを押して

文章を作成する…

お店…辞めちゃったんですか?

どうして…?

それだけ入れて送信ボタンを押した…

返ってくるわけがない…

何度か他愛ないメールを送っても返ってきてないんだから…

だが…

数秒後…一通のメールが届いた

『ようやく気づいてくれたのね…』

『今電話できる?』

そう書かれたメール…

嬉しさが込み上げる

捨てられたとか騙されたわけでなかった事が嬉しかった

急いで『大丈夫です』と返すとすぐに電話がかかってきた

電話に出る

『こんばんわ優斗』

『智子様…お久しぶりです』

『フフっ…久しぶりね…辞めたのは今日知ったの?』

『はい…つい先程…お店に電話したら…2週間前に辞めたと…』

『そうよ…私の最後のお客は優斗にしたかったから…優斗と別れた後…由梨さんに…あ…電話出る女の人よ…辞めるって伝えたの…』

『自分のため…ですか…?』

『他に何か理由があると思ってるの?』

『い…いや…』

『優斗…私ね…男でも女でもいじめるのが好きなの…誰でもいいの…いじめる程度なら…』

『えっ…』

『けどね…好きになっちゃったらいじめるじゃ全然足りないの…いたぶっていたぶって…蹂躙して…心まで壊したくなるの…』

『じゃあ…自分は…』

『私ね…優斗は好きじゃない…愛してる…最初は別にただのお客さんだった…けど…かわいい優斗見てるうちに…好きになって…いつの間にかそれが愛に変わってた…』

『自分も智子様の事…愛してる…』

『フフッありがとう…でもね…優斗の愛は造り物なのよ…』

『…造り…物…?』

『そうよ…優斗は私を愛したんじゃないの…私がゆっくりと約2年かけて…愛させたの…』

『…はい…?』

間の抜けた声を出す自分

『優斗…暗示とか催眠術って知ってる?』

『はい…聞いた事くらいは…』

『なら話しは早いわ…私はそれを優斗にしたの…遊びに来る度に少しずつ…少しずつね…』

『そんな事された覚えは…』

『そんなに難しい事じゃないのよ催眠術って…特別な道具が必要だって思ってる人多いみたいだけどね…身振り手振り…会話だけでも相手の心とか脳とかって騙せるのよ?』

『でも…』

それでもこの心は真実だと思う…

『…優斗は最初きた時には汚いの絶対無理って言ってたわね…』

『なのにいつからか…唾責めを受け入れ…唾がご褒美になって…ついに…この前はおしっこかけられたけど…嫌悪感なかったわよね?』

『吐瀉物や生理の血…果てには最も汚い物まで口にする…そんな想像でさえ今じゃ甘美な響きになってるでしょう?』

その言葉に絶句する…

『試しに他の女王様と試してみればいいわ…もともと優斗は潔癖症に近い人だったからね…』
『わたしが優斗の脳と心に刻み込んだのは「私だけ」って事なの…もう優斗は私以外の誰かを好きになれないし…私以外では誰としても興奮さえしないわ…』

『そんな…』

『信じられない?…まぁ直にわかるわよ…ちなみに私以外には優斗も入ってるからね…クスっ…意味わかるかしら?』

『自分も…?』

『まぁ…それもすぐにわかると思うわ…優斗の体はあとで自分でゆっくりと確かめなさい…それでね…こっからが本題なの…』

既に言われた内容が理解しきれていないのに…更にまだ何かあるのか…

『わたし…好きな人は壊したいって言ったわよね…?』

『…はい』

『じゃあ愛してしまった人はどうなると思う?』

壊す…精神的に異常をきたすとかそういう類いの事か?

なら…それ以上…って

自分の中に出る一つの答え…

『殺す…つもり…ですか?』

『…まさか…人間100年ほっとけば勝手に死ぬのに私が手を下したって何も楽しくなんかないじゃない…』

『わたしは残酷って言ったでしょう?優斗が想像する一番残酷が可愛く思えるくらいに残酷なの…でも…』

『それは準備が必要なの…本当は今すぐにでも…優斗の泣き叫ぶ姿を見たいんだけどね…』

『え?』

『優斗…アナタに逃げる期間をあげる…私に愛されてしまった哀れな君に…携帯を変えても住所を変えてもいいわ…もちろん逃げなくても構わないけど…わたしの心の隅にちょっとだけ残っているみたいね…良心ってものが…』

『最後の忠告よ…次に君に会う時…わたしは悪魔だから…早く逃げる事をオススメするわ…』

『それと…優斗の身体…特におちんちんの事に関して気になったら竜胆市の竜胆中央病院の佐原院長を訪ねなさい…わたしからの紹介って言えばどうにかしてくれるわ…』

『智子様…?』

『じゃあ優斗…またね…愛してるわ…でも…忠告…したからね?』

ツーツーツー

一方的に電話を切られた

もう一度かけてみるけど…

すでに圏外…電源を落としたのだろう…

頭の中でいろいろと整理しようと思ったけど…

まとまりそうにない

とりあえずタバコに火をつけて空を眺めた…

夜空には輝く星たちの瞬き…

自分にはまだ…信じられなかった…

催眠術とか悪魔だとか…

本当は別れろって言いたかっただけなんじゃないか…

普通に別れ話したら揉めそうだから…脅かしただけなんじゃないか…

そんな気がしないでもない

………

………
………

何も考えられない…

不意に携帯が鳴った

智子様かと思ったが…登録されてない知らない番号だった…

『もしもし?』

『もしもし?北山さんですか?先程はすいませんでした…』

『あぁ…いや…こちらこそ忙しい時間帯にすいませんでした…』

『それでですね…美幸さんの事なんですけども…』

『あ…今…ついさっき一応連絡とれたんですよ…』

『え?…そう…でしたか…』

何か歯切れの悪い感じがした

『…?…何か?』

『美幸さん何か言ってましたか?…あ…いや…すいません…失礼ですよね…』

『いや…特に…は…』

歯切れが悪いのは自分もだった

『北山さん…ちょっとお話しする時間取れますか?』

『明日は休みですから…大丈夫ですけど…』

『そうですか…これからでも大丈夫ですか?』

『えぇ…けど…自分…自宅近いですが…』

『場所は?』

『2丁目の…中央公園です…』

『え?中央公園?テラスガーデンマンション前の公園ですか?』

『あ…そうです…』

『じゃあ近いですね…そちらまで伺いますから…5分くらいお待ち頂けますか?』

『いや…こちらから伺いますよ…』

『大丈夫です…わたし今、車で走っちゃってますから…変な場所より全然わかりやすいです…』

『ですが…』

『こちらからお誘いしたんですからお気になさらずに…』

『わかりました…』

そう言われては断りにくい…

『では少しお待ち下さい…すっ飛ばしていきます』

『あ…安全運転でお願いしますね…』

『はい…では…また…』

そう言って電話をきる…

一気にコーヒーを飲みほして空になった缶をゴミ箱に向かって投げる…

ふぅ…智子様…店でなんかあったのかな?

投げた空き缶はゴミ箱にかすりもせずに地面を転がっていったため慌てて拾いに走る自分…

そんな光景を

夜空の星達が見守っていた

[*前へ][次へ#]

4/9ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!