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無くしたもの
07 紫原とお家事情







「ねえ」
「…」
「お菓子はー?」
「…」
「いっちょまえに無視すんの?」
「…」
「捻り潰すよ」
「いだだだだすいませんでした」







眠気を感じたため机に顔を突っ伏して目を閉じる。冬なんて感じさせないくらい日当たりがいい。席替えなんて一生しなくてもいい。徐々に夢の中へ旅立って行く私にしつこく語りかけてくるのはバスケ部一軍の紫の巨人こと紫原敦である。やかましい。無視を決め込もうと思ったが物騒な言葉とともに頭を掴まれ揺さぶられたので慌てて顔を上げる。「起きてんじゃん」起こされたんだよバカ。わたしの前の席に座った紫原は不機嫌そうにこちらを見てる。





「…お菓子?カバンに入ってるから適当に食べていいよ」
「へ〜、じゃあ漁るから」
「どーぞどーぞ」






勝手にしてくれ、覚めやらぬ眠気に再び机に突っ伏して目を閉じる。しばらくするとガサガサと言う物音と共にお菓子の封を開ける音が聞こえてくる。わたしのお菓子は見つかってしまったらしい。
「ねえ」頭を叩かれてはい、と小さく返事をする。が、それでも彼の手は止まらない。顔を上げろと言うことらしい。まったく。






「なんでしょーかおぼっちゃま」
「は、うぜーし」
「…わがままだな」





普段は本当に何も考えてないっていうか、温厚なんだけどな。機嫌が悪い時は本当に手がつけられないからなこの人。寝るのを諦めて紫原の手にあるポテチを自分の口まで運べば「横取りしないで」と紫原。いや私のだし。






「しばちんの家って自営業?」
「…ん?わたし言ったっけ?」
「言ってない」
「なにそれ」




目の前でぱりぱりとポテチを口に運ぶ紫原を見ればお菓子に夢中な様子。興味ないだろ、と思ってしばらく眺めていると彼と視線がぶつかる。「で?」あ、興味あるのか。






「…スポーツジムがある」
「じゃあ金持ちってこと?」
「…まあ…困ってはないかな…」





ふーん、と言葉を発する彼は何を考えているのか。ガサガサとポテチの袋を丸め教室の隅に寄せられたゴミ箱に向かって投げる。ゴミは綺麗な放物線を描いてゴミ箱に吸い込まれていった。さすがバスケ部、ナイス。
ん、ていうか





「なんで自営業ってわかるの?」
「んー、赤ちんが言ってた。しばちんの家は大きかったって」
「あー、赤司くんか」




赤司くんだったらこの前一緒に帰った時のことか、なるほど。







「父親とか、何してる人?」
「え、なに急に」
「別にー」





ここから紫原の質問が始まった。





「ジム経営しながらアスレティックトレーナーしてる」
「…アスレティックトレーナーって何?」
「選手の外傷への対応でアイシングしたりテーピングしたりする人。スポーツマッサージとかリハビリ指導とかもするよ」
「昔なんか運動してた?」
「んー若い時はバスケしてたのかな」
「えー、試合とかでてた?」
「…PGって言ってたきがするなあ…」
「まじで?もしかしてすごい人?」
「え、わかんない」
「しばちんはバスケしないの?」






珍しく興味津々なようだ。確かに父親は昔バスケしてたとか背番号がどうとかポジションがどうとか言ってたけど、そこまで興味のないわたしは右から左へ聞き流してばかりだった。なんか申し訳ないな、帰ったら話を聞いてみよう。







「わたし運動得意じゃないしねえ」
「ふーん、つまんないの」
「おい」





そう吐き捨てた紫原は再びわたしのカバンを漁る。「もうないよ」「えー、準備悪いじゃんでぶちーん」と紫原。そんな太ってないわ失礼だな。目の前にいる紫原に軽く頭にチョップを入れようと手を伸ばせばいとも容易く腕を掴まれた。くそう。






「しばちん暇ならバスケ部のマネージャーでもやればいいじゃん。どうせ暇なんだし〜」
「そんな暇そうに見える?わたし」
「大分見える」
「やらないよ、家の手伝いもあるし」
「えー」
「マネージャーいるじゃん、さつきちゃんだっているし」
「それとこれとは別じゃん」
「そう?」





あんなかわいいマネージャーがいれば満足だろ。父が忙しい間はわたしにだって家の手伝いをしなければならないだろうし。中学生に店の手伝いってなんだよと思うだろうけども、ずっと側で見てきたんだ。何をすべきかなんて身に染み付いてる。それに我が家は父子家庭だし、幼い時からできる限り家事も手伝ってきた。おかげでそこらへんの中学生よりも大分しっかりしてると思う。







それから何度か紫原からお誘いはいただいたがのらりくらりと受け流し、ぶすっとふてくされる紫原を残して教室から逃げた。













(ただいま、お父さん)
(ああ、おかえり)
(今日はどう?)
(すまんが今日も出なきゃならない。ジムの方頼んでもいいか?)
(はいはい、がんばってね)




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