[携帯モード] [URL送信]

無くしたもの
63 力なく落ちる








「オレに勝てるのは、オレだけだ」








黒子から伸ばされた拳は、誰ともぶつかることなく宙を彷徨い続けた。






















「さっきテツ君と…なんで…!」
「うるせーよ、ちょっと外行ってくる。一人にしてくれ」




上崎中との試合を終えた控え室。次の試合に向けてしばらく休息を取るつもりが、そんな呑気な事をしていられなくなった。今にも泣き出しそうな顔をしたさつきちゃんに、頭を垂れたままなんの反応も示さない黒子。……示さないのではなく、示せないという表現が妥当か。重苦しい雰囲気のなか、わたしも足を動かすことができずにいた。



黒子の言葉で保っていた青峰の心は、いとも簡単に崩れた。全中1日目の試合はキセキの世代と呼ばれる彼らに大きな重圧を与えるも、慎重なゲーム運びで苦戦しながらも勝利という形を迎えることができた。そして二日目の今日の対戦相手は、去年青峰と唯一競り合うことができていたと言う井上さんとやらがいる上崎中。今の青峰に何よりも必要なもの、それは自分と張り合うことのできる相手との試合。彼のおかげで青峰のモチベーションも絶好調で、わたしも、井上さんとやらに勝手な期待を寄せてしまっていた。しかし試合が始まってしまえば、強くなりすぎた青峰を前にかつてのライバルは戦意喪失、試合を諦めてしまった。それは青峰が最も嫌悪しているもので、最も望んでいなかった結末。試合中、青峰は井上さんとなにか言葉を交わしていた。何を言っていたのかはベンチにいたわたしたちにはわからないけど、それから青峰の雰囲気が変わったことは明らかで、早く終われ、だなんて、ずっとそんなことを願って試合を見ていた。結果は圧勝。皮肉にもそれは、王者の名前に相応しいゲームだった。









「さつきちゃん、バインダー、」
「青峰を追うつもりか?」





手に持っていたバインダーをさつきちゃんに手渡そうとすれば、間に割って入ってきた赤色の男の強い眼差しに阻まれる。






「許可できない、やめておけ。今のアイツに何を言っても、それは綺麗事にしかならない。お前と青峰の仲がこじれるだけだ。プレイヤーではなく、マネージャーとしてここにいるお前からの言葉ならば、尚更だろう。」




バインダーを持ったまま腕を引っ込める。いつもよりも幾分か低いその声色も、絶対的なオーラを持つその風格も、普段のわたしなら臆してしまう程のもの。しかし今この現状となれば、そんなものもわたしにとってはどうでもいいことなのだ。いつだって、赤司くんの言葉は正しい。それを否定するつもりはないし、マネージャーとプレイヤーの境界線はわたしだって理解している。







「わかってる。だから、マネージャーとしてはいかない。」
「……どういう意味だ」






引っ込めたバインダーを赤司くんの胸に押し付ければ、涼しい顔をしていた彼の眉根にわずかにシワが寄る。こう言ってはなんだけど、なかなか怖い。人何人か殺せる目をしてる。たしかにここで青峰を追えば、赤司くんの言った通り鬱陶しがられ煙たがられて仲が拗れるだけかもしれない。だけど、後のことなんて考えられるほどわたしは器用ではない。不器用だから、目の前の事にしか目が向かない。つまり、今のわたしには、青峰の事しか考えられない。






「友達としていく。止められても行く。あのバカを一人にはさせられない。なにがなんでも行く。試合までには戻ってくるから」
「……へえ」





はあ、一つため息を吐き、あからさまに呆れたような表情をみせる。本当に止める気なら腕をつかむことだって道を塞ぐことだってできる。それをしないと言うことは、もうわたしが折れないことを知っているからだろう。バインダーから手を離して赤司くんの横を通り過ぎれば、押さえを失ったソレは重力に従って床へとぶつかった。青峰、青峰、青峰。待ってろよ、バカ。






















「赤司、落ちたのだよ。」
「ああ、すまない。」





赤司の足元に置かれたままのソレを拾い上げる。白い紙にびっしりと書き込まれた綺麗な文字は、アイツがどれだけ真剣にこの部と向き合っているかを彷彿とさせた。柴田が出て行った扉に視線を向けたまま一向にこちらに目を向けない赤司を一瞥し、手に取ったバインダーをベンチへと置く。赤司のあの言葉は、部をまとめる主将として正しいものだ。柴田と青峰の関係を考えても、それは間違いではない。アイツは馬鹿だ。それは学力がどうとか言う所の馬鹿じゃなくて、馬鹿真っ直ぐ。うじうじ考えて悩んだかと思ったら、今度はそれがウソみたいに猪突猛進さを発揮する。それが幸とでるときもあれば、逆になるときももちろんあるのだが。不思議と自分は、そんなアイツが嫌いではなかった。







「あいつは、」





ふいに口を開いた赤司に動きを止める。黄瀬も紫原も、そこにいる全員が静かに次の言葉を待っていた。





「たとえこうなったのが青峰じゃなくても、後を追うだろう。それがオレたちじゃなかったとしても。例えば二軍や三軍の部員で、名前すら知らない相手だとしても、だ。」
「……何が言いたいのだよ」





なんとなく、言いたいことはわかるのだが。赤司の言葉を聞きながらも青峰を追ったアイツに、オレとて何も思わないわけではない。赤司の考えは理解できるつもりだが、それでも目の前で微かに口角を上げるこいつはいつだって、オレの考えなんて軽く凌駕することを言ってのける。「なんスか、どういうことっスか」と口を尖らせる黄瀬を一瞥し、赤司は瞼を伏せた。言ってしまえば、きっと黄瀬と紫原からの反感を買うことに違いない。きっとこいつは、いつものように何でもないと笑うのだろう。






「いや、何でもないさ。だろう?緑間。」
「黄瀬、お前にはわからん話なのだよ」
「ゲッ、なんスかそれ〜……二人してバカにしてるんスか」
「そんなつもりはないよ。それより、最悪青峰がベンチでもやるしかない。その後、宿舎で話をしよう」






この場で話すことが適切でないことは奴も分かりきっているらしい。わざわざ話を振ってくるあたり、オレのその考えすら赤司には手に取るように理解出来てしまうのだろう。会話をし、奴の考えを知るたびにつくづく思う。敵にするには恐ろしいと。「黒子っち…?」「…すみません、電話です。少し外します。」静かにバイブ音が響き、黄瀬の問いかけに小さく返事をこぼした黒子は控え室を後にした。





















控え室を飛び出してきたはいいものの、青峰はどこにいるのだろうか。あれから大分走り回ってはいるけど、いかんせん会場が広すぎて皆目見当もつかない。次の試合ももうすぐ始まるし走り回ってるおかげで視線が痛いし青峰も見つかる気がしないし、冷静になった今なによりあんな飛び出し方をしたから後が怖い。何が怖いって、監督より赤司くん。でもまあ、これこそ今更考えても仕方ない事で。暑い、体力に定評のあるわたしでもいくらなんでも走りっぱなしはきつい。







「あのガングロ、どこいった、」






胸が詰まって喉が焼けるような感覚に息苦しさを感じ、肩で息を繰り返す。額に滲んだ汗を拭いながら会場の外へ出れば、探し回っていた人物が階段に腰掛けて空を仰いでいた。






(青峰、)





そういえば言ってたな、外行ってくるって。







「一人にしてくれって言ったろーが」





とりあえず立ち尽くしているわけにもいかない。ざりざりと地面を踏みしめながらその人物に近づけば、前を見据えたまま、力無い青峰の言葉がわたしの歩みを止めた。何言ってんの、わかってた癖に、わたしが来ること。






「とりあえず、座っていいかな。わたし、ずっと走ってきて、」
「……バカじゃねーの。言ったろ、外行くって」
「うん、言ってたね」






まさにそのままの意味だとは思わなかったんだよ、ヒューヒューと喉を鳴らし小さく呟きつつ、座ることに関しては何も言われなかったため肯定と受け取って勝手に隣に腰掛ける。……正直、ここで暴言を受けて追い返されると思った。そうなったとしても、蹴飛ばされようが殴られようが一人にするつもりはさらさらないんだけど。生温い風が肌に触れて気持ち悪くて、なんの意味もなしに視線を泳がせる。ただただ木々が揺れる音に目を伏せた。わたしも青峰も、何も話さない。











何分経っただろうか、あまりの静けさについついうとうとしていれば、かすかにすすり泣く声に重い瞼を上げた。何事かと視線を向ければ、遠くで涙を流しながら抱き合ってる生徒の姿。……ジャージを着てるってことは、試合に出場していたんだろう。どこの学校の部員だろう。彼らは勝ったのだろうか、負けたのだろうか。何に対して涙を流しているのだろうか。わたしに聞こえた泣き声はきっと、青峰にも聞こえてる。
それでも青峰は一度も視線を向けなかった。






「おまえさ」
「うん」
「何しに来たんだよ」





まるで、わたしの気を逸らすように青峰は言う。何しに、だと。そりゃそう言いたくなる気持ちもわかる。追い掛けてきたくせに何も言わず何もせず、ただ隣で座ってるだけなんだから。そうだなあ、抱えた膝に顎を置いて呟けば うぜえやつ、なんて吐き捨てられた。少し視線をずらし、右隣に座っている青峰の横顔を眺める。
また、あの時の顔だ。部活に来なくなって、わたしの家に逃げてきたあの時と同じ顔をしてる。全部諦めたみたいな、そんな顔。






「いーよ、もう期待なんかしてねえ。なんの張り合いもねえし、試合も楽しいと思えねえ。オレに勝てるのはオレだけだ。」







小さく喉を鳴らして笑った青峰に、何を言うべきなのだろうか。嘲笑、まさにそんな表現がぴったりだ。






「それでも、青峰がバスケを続けてくれるならわたしは嬉しい。たとえ青峰がバスケをやってなくても、わたしにとって青峰はいい友達だよ。でも、やっぱりバスケをしてる青峰が一番好き。絶対、いつか全部解決するはずなんだ。何年かかっても、今がどれだけ辛くても。だから、諦めることだけはしてほしくない。」








「全部、綺麗事にしか聞こえねえよ。お前はマネージャーで、オレはプレイヤーだろ。何を根拠に言ってんだよ。お前に何がわかるんだよ。なあ、教えてくれよ。」





ああ、やっぱり赤司くんの言うことは間違ってない。自分で言っててもわかる、綺麗事にしか聞こえない。隣で腰を上げた青峰を見上げれば、睨みつけるような瞳と視線がかち合った。それもわずか数秒で、わたしが口を開くよりも早く踵を返した青峰に背中を向けられた。抱えた膝に額をぶつければ、鈍い痛みに反してやけに頭がクリアになる。今行かなきゃ、ずっと後悔する。これで嫌われても鬱陶しがられても、今しかない。考えたら終わりだ。大事なのは今だ。







「青峰には、みんながいるじゃん」





汗水垂らして追いかけてきたのに、このまま逃がすわけない。背を向けわたしから離れていく奴の襟を掴んで乱暴に地面に投げ捨ててやれば、青峰の大きい身体はいとも簡単にバランスを崩し尻餅をついた。











「んな…っにしてんだよ…!!」




驚いたように目を見開いた青峰も、次の瞬間には噛みつくようにわたしを怒鳴りつける。





「青峰クンはさ、黒子になんて言ったんだったかな?」
「………はあ?」




ダメだ。胸がムカムカしてイライラしてむしゃくしゃして、涙が出そうだ。今、わたしはどんな顔をしてるんだろうか。泣きそうに見えてるのか、怒ってるように見えるのか。どちらにせよ、情けない顔をしてるに違いない。それを誤魔化すように尻餅をついた青峰にまたがって胸倉を掴んでやる。いくら青峰だって、女にこんなことをされるのは初めてだろう。目を丸くしてポカンと口を開けた青峰は、わたしに負けず劣らずの間抜け面だ。退けよブス、なんて青峰の口から発せられた言葉は聞こえないふり。スルー。





「境遇こそ違えど、それは青峰自身にも言えることなんじゃないの。」
「……だから、お前に何がわかるんだよ。てゆうかなんで知ってんだよ。」
「あの時、青峰はなんで一軍って言う自分の立場を捨てようとしてまで黒子を守ろうとしたの。仲間だからでしょ?救いたいと思ったからでしょう?同じだよ。わたしも、わたし以上に黒子も、青峰を救いたいと思ってる。あの日、青峰が黒子を救ったみたいに。正直わたしはマネージャーだしバスケをプレイする側の青峰の気持ちなんてわからない。けど、青峰が苦しくて苦しくてしょうがないのはわたしも痛いほど感じてる。でも、青峰が苦しんでることで同じくらい悩んで、助けることも力になることもできないって、自分の無力さに苦しむ人がいることも忘れないでよ。」





言い終えて、よくもまあここまでペラペラと口が動いたものだと自分自身に驚いた。黙ったら色々なものが込み上げてきそうだし、苦しいときほど饒舌になるこの性格も今では救いになった。必要以上に首を突っ込むつもりなんて無かったのに。紫原が聞いてれば鬱陶しい熱血女、なんてレッテルを貼られそうだ。はあ、ため息をひとつついて頭を垂れれば、目前の男はさっきまで丸くしていた目を細めて口を開いた。







「…お前、そんな口うるさくなかっただろ」
「……あんたたちのせいでしょ」






青峰の大きい手が、胸倉を掴んだままのわたしの手に重ねられる。ああ、くそう。泣くつもりなんてないのに。なによりも青峰が苦しいくせに、わたしは突き放されるのを覚悟で追いかけてきたのに。ボロボロに罵声を飛ばして、今の気持ちを吐き出してくれればいいのに。わたしを突き放さない優しさに胸が焼けて、何かがせり上がってくるような感覚を覚える。いよいよ視界がにじんできた。もうそろそろ限界だ。





「2分」
「………は」




垂らしていた頭を上げて青峰の顔を睨みつける。それでもきっとわたしの見てた世界は滲んでいたから、青峰からしてみれば怖くもなんともなかっただろうけど。掴まれていた青峰の手ごと胸倉を放せば、訳がわからないと言ったように眉を顰めた。立ち上がって思いっきり見下ろしてやれば「……パンツ見えんぞ」なんていらない冗談をぶち込んでくる。うるさい。下履いてるっつうの。てか聞いてんのか。







「2分後には試合が始まる。待ってる。来なかったら引きずってでも連れてく。」





それだけ吐き捨てて、次はわたしが踵を返して背を向けてやった。青峰は何も言わない。追いかけて来ない。うん、本望だ。そのまま会場に足を踏み入れれば、冷房の冷えた空気が濡れた頬にひんやりと染みた。……くそ、青峰なんかに泣かされるとは思わなかった。ばれたか、いや、泣きそうだった、ってくらいかな。だってバカ峰だし。






(……言ってしまった)





ただ、側にいるだけのつもりだったのに。青峰のあの顔を見てたら、無性に黙っていることができなくなった。鬱陶しい、お節介だと呆れただろうか。偉そうに説教染みた事をしたわたしと、変わらず友達でいてくれるだろうか。……いや、やらずに後悔するより、やって後悔した方が大分気も楽か。わかってたはずだ、こうなることは。そうでも思わなきゃやってられない。





(このまま帰りたい)





ただ、気分はとてつもなく憂鬱。この顔で控え室に戻るのは嫌だけど、なにも大泣きしたってわけでもなければ目が腫れてるわけでもないし。欠伸したとか目がかゆかったなんて言っておけば誤魔化せるだろう。ずびずびと鼻をすすりながら控え室までの道のりを歩いていれば、何気なく視界に入った透明な扉の向こうで水色の髪の彼が携帯を握りしめて項垂れているのが見える。




「……黒子」




あまりにも弱々しいその姿に、無意識に彼の名を小さく呟く。扉一枚挟んだこの距離だ、わたしの声が黒子の耳に届くことはないだろう。そう思った。





「……柴田さん」




ふいに視線が交わり、小さく目を見開けば、小さく足音を立てながら歩みを寄せてきた。扉を一枚隔てたこの距離では、わたしにも黒子の声は聞こえない。けど、黒子の口がわたしの名前を呼んだのを確かに感じた。


























「遅いっスよ青峰っち!ギリギリじゃないっスか!」
「いけるか?」
「……ああ」





後半の試合が始まる。不穏な雰囲気を纏ったまま姿を現した青峰に、そこにいた全員が息を飲み口を開くことはなかった。試合開始からわずか数十秒、青峰が放ったボールは鈍い音を立て、確実にリングへと吸い込まれていく。青峰は来た。それはわたしが願ったことで、望んでいたことだった筈なのに。それは間違いだったのかもしれない。






「……青峰を下げてください」





こんな投げやりなプレイをさせることしか出来ないのなら、いっそ試合になんて出さなければよかった。







「柴田、キミの言いたいことはわかる。青峰の親友として最悪の事態を避けたいその気持ちも。だが、帝光バスケ部マネージャーとして、監督補佐として、今は耐えてほしい。」






帝光の理念は理解してる。勝利のために青峰は必要不可欠だと言うことも。だからわたしの言葉に顔をしかめた監督のその心情も手に取るようにわかる。けど、何よりもこの現状には焦りが隠せない。あっさりとわたしの言葉を否定して退けた監督の言葉にあからさまに眉をひそめれば、隣に腰掛けていた虹村センパイに肘で小突かれた。正直、わたしにとったら帝光の理念なんてどうでもいい。百戦百勝なんて知ったこっちゃない。試合の結果より、目の前で苦しむ友人が大事だ。だけどわたしがマネージャーとなってしまった以上、そんな私情が通用しないこともわかってる。この道を選んだのは自分だ。だからこそ、余計にわたしは焦って焦って不安になってしまうのだ。





「じゃあ、せめて黒子を下げてください」






口を尖らせてそう願い出せば、わたしを一瞥した白金監督はコート上の黒子に目を向け考える素振りを見せる。今の黒子の様子を見れば、反論の余地はない筈。と同時に鳴った笛の音にコートに目を向ければ、緑間が難しい顔をして黒子を眺めていた。緑間の視線の先を見れば、黒子が冷静さを欠いてることは一目瞭然で。どうやら黒子のパスミス。また一足遅かったと頭を垂れれば、監督の指示とともに黒子がベンチに下げられた。








『萩原くんとは、試合は出来ないみたいです』






皮肉なもので、辛いことは本当に立て続けに起こる。黒子の幼い頃からの夢であり目標、そして約束は叶うことは無かった。あの日眩しい笑顔で黒子と言葉を交わした萩原くんは、一回戦で敗退する事になったらしい。試合前、黒子から聞いたこの言葉はわたしにとっても大きいダメージを与えることになり、しかしその何倍も黒子の心を沈ませる結果となった。そしてこの乱れたプレイだ。






「……すみませんでした。」






俯いたまま、黒子はそう呟いた。元気出せなんて言うつもりもないけど、こんな顔を見ていたくはない。小さく身体をぶつけてみせれば「痛いです」と力なく視線を寄越す。青峰の事に加え、萩原くんの件だ。むしろよくここまで頑張ってくれたと思う。水色の頭に手を伸ばし、敬意を込めてわしわしと頭を掻き乱す。黒子はまた俯いた。







「青峰も大丈夫、萩原くんも」







黒子の膝の上で強く握られた拳に、わたしは触れることすら出来なかった。











あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!