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無くしたもの
04 赤司と帰る








「ふふふふーふふーん」
「……」
「ふーんふふふーん」
「……柴田」
「ふ、っ赤司くん…!」
「邪魔してすまない」
「…いつから?」
「最初からだ」





日が落ち辺りがオレンジ色に染まり始めた頃、教室で一人課題を片付けていたわたしは帰ろうと靴を履き替えていた。授業中居眠りしてて出された課題ではなく、提出期限もまだ先なのだが家に帰ればどうしてもだらだらとしてしまうため学校で宿題やらなんやらを片付けてしまうことはいつものことだ。
この時間ともなるとほとんどの生徒が校舎にいることもないため、ついつい鼻歌も漏れてしまう。

いつもと変わらずお気に入りの歌を口ずさみながら靴を履き終え、帰ろうと玄関に向かうと同時に声をかけられる。
振り返るとそこには赤司くん。何て事だ、聞かれていたらしい。最初から。







「もっと早く声をかけてもらえれば」
「上機嫌な様だったからな」
「は、恥ずかしい」






そんなに上機嫌そうに見えたのだろうか。よりにもよって赤司くんに聞かれるとは。なかなか恥ずかしい。





「随分遅い帰りだな」
「あ、うん。課題を片付けたくて」
「日が落ちればもっと冷えるからな、風邪に気をつけるんだよ。提出期限が近い課題があったか?」
「ないんだけどね、家に帰ると結局だらだらしちゃってできないから」
「なるほど、柴田らしいな。」
「まあまだ暗くはないし大丈夫だよ。赤司くんはもう終わったの?」
「ああ、今日は体育館の整備があってね」
「そっか、お疲れ様」






わたしとは反対側の靴箱を開いて靴を履き替える赤司くん。なぜかそんな行動にも品が出ている。うーん…これが赤司クオリティ。
青峰とかどうせ靴とか床に捨てて履き替えるんだろうな、すごい想像できるわ。「帰らないのか?」と赤司くん。あ、帰ります。





「ん?」
「どうした?」
「一緒に帰る?」
「ああ、ダメだったかな?」
「あ、ちがうちがう。珍しいなって」
「そうだな、柴田と帰るのは初めてだ」





赤司くんと一緒に帰る日が来るとは。赤司くんってリムジンとかで帰りそうなイメージ。隣を歩く赤司くんの横顔を見ながら考える。本当に綺麗に顔が整ってるなー、黄瀬といい赤司くんといい、最近の中学生はいいな。
なんだか見ているこっちが恥ずかしくなる。「冷えるな」と言う赤司くんの言葉に「冬本番だね」と言葉を返す。ふと視線を前方に向けた。






「あ、赤司くん」
「どうした?」
「あそこのたい焼きおいしいの、寄って行かない?」
「たい焼き…丁度小腹が空いていたんだ」
「お、それは行くっきゃないですね」





前方に見えたのはよく知るたい焼き屋さん。赤司くんの腕を引いて屋台まで行けばいつもと同じおじさんがたい焼きを焼いている。うん、いい匂い。
「お、今日もきたか」とおじさん。食い意地が張ってるみたいで少し恥ずかしいけど、赤司くんはすごく興味津々といった様子だ。もしかして買い食いはそんな経験ないのかな。




「赤司くん何味がいい?」
「…柴田はなんだ?」
「わたしはカスタードかな!」
「じゃあ俺はつぶあんにしよう」
「カスタードとつぶあんで!」
「はいよ」




そう言うとおじさんはさっとたい焼きを紙袋に詰める。紫原はいつも3個くらいまとめて頼むから時間がかかるけど、赤司くんはさすがにひとつだから早い。「260円ね」とおじさん。




「ふたつ分でお願いします」
「はい、丁度ね!ありがとさん!」
「え、あ、ごめんね赤司くん!いま渡すから!」




カバンから財布を取り出そうとするとたい焼きを受け取った赤司くんがおじさんにお金を手渡した。いつの間に。慌ててお金を渡そうとすると「早く食べないと冷めるぞ」と受け取らない。
いや、赤司くんにお金をださせるわけにはいかない。どうしようか、「柴田」名前を呼ばれて赤司くんを見ると 口にたい焼きを突っ込まれた。




「おいしい」
「たしかにこれは買い食いしてしまう気持ちもわかるよ」
「でしょ?クリームがたまらん。半分たべる?」
「ああ、もらおうかな。つぶあんはたべるか?」
「たべたい!」





たい焼きを半分に割ってお互い交換をする。つぶあんたい焼きを一口齧ればこれまたいい甘さが口を支配する。ちらりと横を見ればカスタードたい焼きを齧る赤司くん。
なんかかわいい。しばらくみていたらさすがに気付いたのか赤司くんも私をみる。






「よく買い食いはするのか?」
「んー、紫原と帰るとほとんど。あ、でもたまに黒子ともマジバにいくよ」
「マジバっていうのは?」
「ここの通りにあるハンバーガー屋さん」
「ああ、人がたくさんいるところか」
「そうそう、バニラシェイクがおいしいよ。黒子は毎回飲んでるからね」
「それは気になるな」
「このたい焼き屋さんもね、紫原と行くと毎回3個くらい一気に頼むから、」





ふふ、と笑い声が聞こえる。ん?赤司くんを見れば綺麗に微笑んだまま私を見ていた。あれ、食べ物の話ばかりしすぎたか。とんでもなく食い意地はってるなこいつって思われたかな。「すまない、」と赤司くん。





「あまりにも楽しそうに話すから」
「ご、ごめん、食べ物の話ばかり」
「いや、いいんだ。俺が知らない話ばかりで楽しいよ」
「…うーん、そっか。赤司くんはあんまり外で食べたりはしないの?」
「ああ、家が多いな。だからあまり詳しくないが、他にもいいお店はあるのか?」





お、おお。赤司くんが外の世界に興味を示している…!!




「あ、あそこにあるファミレスもいいよ。ドリアがおいしいの」
「あそこも帰り道によく目に入るが、入ったことはないな…よく行くのか?」
「前に青峰とかと。赤司くんもいく?」




さすがに赤司くんにファミレスは合わないかな。舌が肥えてるかもしれないし、あんまり自信を持っては誘えないが。




「是非行ってみたいな。」
「え、ほんとに?」
「ああ、おかしいか?」
「いえ!そんなことないです!」




じゃあ今度いこう、と彼に笑いかければ「楽しみにしてるよ」と目を細めた。どうせ近いうちに青峰に誘われるだろうし、その時には赤司くんにも声をかけよう。すっかり食べ終わったたい焼きのゴミを近くにあったゴミ箱に捨てて再び歩き出す。何気なく足元を目をやる。さりげなく歩幅を合わせて歩いてくれる彼は、気配りができてとても優しいみんなのまとめ役だ。わたしには想像できない程のものを背負っているだろう。


何気ない会話をしながら歩いていると、あっという間に家に着いた。「家ここなの、赤司くんは?」と伺えば「もう少し先だ」と足を止める。





「気をつけて帰ってね」
「ああ、柴田も居残りは程々に」
「お母さんみたいだな」
「せめてお父さんと言ってくれるかい」
「はいお父さん」





そう敬礼し、笑うと彼も微笑む。「また明日」といい歩き出す彼の背中を見ているとなんとも言えない感情が胸を支配する。




「赤司くん!」




あ、何言おうとした?そう考えていると数メートル先にいた赤司くんが驚いた顔をしてわたしをみる。あーっと、





「えと、あ、これから色々寄り道しよう!」
「…」
「あ!赤司くんが大丈夫だったら…!」
「…」
「ぶ、部活おわって、青峰とか黒子とかみんなで…と思いまして」






不思議そうな顔をして私を見る赤司くんに慌てながら言葉を発する。呼び止めて何言ってるんだわたし。いや、赤司くんが好きとかそう言うんじゃなくて、好きだけども、






「ああ、俺も今、柴田と行けるようなお店を考えてたんだ。」
「…」
「今日は本当に楽しかったよ。また近いうちに、楽しみにしてる」







そう笑顔で言い、再び歩き出す赤司くん。
なんて言ったらいいのかわからないけど、もっともっと、彼には笑顔でいてほしいと思った。













あきゅろす。
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