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無くしたもの
40 疑心は確信へ




「…は?二軍の試合に同伴!?このちんちくりんとっスか!?なんでっスか!?」


黄瀬の切り替えの良さは尊敬に値すると思う。先程の出来事で見せた恐ろしい表情から一転、今度は驚くほどのマヌケ面で赤司くんの言葉に反論の意を露わにしていた。






「二軍三軍の試合でも一軍選手を数人取り入れるのがウチの伝統だ」





赤司くんが諭すように語りかける。





なるほど、黄瀬が黒子を認めない理由は黒子のプレイを見たことがないから。黒子の実力は試合でしかわからない。だから今日見せて認めさせてしまおう、みたいな事を赤司くんは考えているのだろう。きっと。



ちなみに同伴マネージャーとしてわたしとさつきちゃんも一緒にいくらしい。黒子のプレイ見れるんだ、そう呟けば「惚れないでくださいね」と黒子に微笑まれる。
ひゅーいけめーん(棒読み)なんて呟けば黒子が右手を固く握り拳を作ったので早急に謝っておいた。こわ。
















「柴田っち青峰っち黒子っち!コンビニでアイスでも食いにいかねーッスか?」





黒子に対するあの生意気な態度は何処へやら、試合当日、赤司くんの策にまんまと黄瀬ははまってくれたらしい。試合後すぐ「黒子っち」と口にする黄瀬にどうやら青峰も黒子も引いている様子。
そんな二軍の同伴試合ではミスディレクションによる黒子の活躍で彼の実力が様々な人に認められることとなった。
それは黄瀬だけではなくて、緑間も、あの黒子を舐め腐っていた紫原や先輩も。





黒子の件で随分ご機嫌になったらしいアイスは黄瀬のおごりだという。
彼を筆頭にさつきちゃんや紫原も参加をする様子で、わたしも歩き出そうとすればとなりにいた緑間は「赤司と少し話があるのだよ」と足を止めた。その様子がなにやら引っかかって彼を見上げれば「お前は行け」と見下ろされる。







「あれ〜しばちんもいかねーの?黄瀬ちんのおごりらしーよー?」
「あ、今日はわたしもいいや」
「えー、残念っス…。まあ、これから毎日一緒に帰れるんスもんね!」
「毎日はいい」
「そんなつれないっス!」
「うるせーな、早く行くぞ」
「ゆうちゃんミドリンばいばーい!」






盛り上がる彼らの背中を見送っていれば緑間が逆方向に背を向けて歩き出す。あれ、置いてかれる感じ?歩き出した緑間の後ろを黙ってついていけば「別にこなくていいのだよ」とぶっきらぼうに吐き捨てた。今日はツンデレじゃなくてツンツンらしい。






「なぜ着いてくるのだよ」
「まあ、気になることがあって」
「…まあお前ならいいだろう」







普段からしかめっ面だけど、今日の緑間はさらに難しい顔をしている気がする。なにか悩んでるのだろうか。思い詰めるなよ、そんな眼差しを隣に歩く彼に送っていれば「へんな顔をするな」とそっぽむかれた。
…へんな顔だと?決して変な顔をしてたつもりはないんだけど。




緑間の直球な言葉にすこし、ほんの少し傷ついたがまあいい。
痛む胸を押さえてふと前方を見れば、探していた赤司くんがわたしたちをみて「まだいたのか」と微笑んだ。














「黒子と黄瀬の二軍同伴の結果は思った通りだったようだな」




三人並んで、と言うか赤司くんと緑間が歩く後ろをわたしは黙ってついていく。なかなか威圧感たっぷりな2人である。
ふいに口を開いた緑間に「ああ」と赤司くんが小さく頷いた。あ、緑間も赤司くんの考えには気づいてたのか。まあ緑間だしね、頭いいし、ちょっとアレだけどね。








それから彼らが話したのは黒子の実力について、そして灰崎くんの今後についてだった。







まず緑間が話した内容はこうだ。

灰崎くんの素行はそれはそれはもう悪く、バスケ部一の問題児だがそれ以上に実力があるため彼をレギュラーに使わざるを得ないと言うもの。だが、赤司くんが言った「黄瀬もすぐにユニフォームを着ることになる」その発言が彼は引っかかっていたといたらしい。
さらに言えば黄瀬のポジションが灰崎くんと被っている。






「腹立たしいが、奴がスタメンで黄瀬がその控えになるのではないか?」




緑間の静かな問いかけに赤司くんは表情一つ変えることなく、そして緑間くんを見ることもなく足を進める。
わずかな沈黙に思わず緊張を覚えてしまう。





「…いや、少し違うな」





赤司くんの低い声が廊下に響く。




…練習風景を見ていて思うのが彼の運動神経の良さも並ではないということ。
話を聞けば彼も入部早々一軍に登りつめたほどの実力者らしいし、現に黄瀬が彼に勝ったことは一度もない。それほどの実力を持つ。
青峰がいつか言っていたように灰崎くんを退部にしてしまえば一軍の戦力もダウンしてしまう。
だけどもう灰崎くんはきっと、






「まず、スタメンはすぐに黄瀬になる」







「柴田はどう思う?」足を止めていきなり振り返った赤司くんにぶつかりそうになるのを堪えれば「え、」と口から小さく声が漏れてしまった。

ここでわたしに話をふる?思わず「どうでしょうね」と軽く話を流そうとすれば恐ろしいほど赤司くんが凝視してくるものだから諦めて口を開くことにした。





「灰崎くんはたしかに実力もある。現に黄瀬は彼に勝ててないし」
「そうだな、灰崎は強い」
「だけどそれだけだから」
「……どう言う意味なのだよ」






ぽつりと呟くわたしに赤司くんの鋭い視線が向けられる。怪訝そうに疑問をぶつけてくる緑間がかわいくみえてくるから不思議だ。






「黄瀬の成長速度は異常だと思う。入部してすぐ一軍に昇格するのも馬鹿げた話だとおもうけど、黄瀬は初心者でバスケ部に入部して一軍に昇格した。それも2週間たらずで。
…だから、黄瀬が灰崎くんを追い越してスタメンになるのは時間の問題だと…おもう」








わたしの言葉に赤司くんは小さく頷き視線を背けると、再び廊下を歩き出す。
その姿にまたわたしは言いようのない違和感を感じてしまうのだ。
眉を潜めて緑間を見上げれば少し黙り込んでから、彼も長い足を動かし始めた。
「それも」振り返ることなくただ機械のように話す彼の背中を眺める。







「全中の予選の前にはな」
「え」





なんでそんな事を言い切れるのだろうか。
絶対と確信している赤司くんのその自信にわたしはもちろん、緑間でさえも驚きを隠せないでいた。







「黄瀬の潜在能力と成長速度は灰崎の比ではない。…さらに控えには虹村さんがコンバートされる」
「!?」
「そうなればSFは層が薄いどころか最も厚いポジションと言ってもいい」
「……」
「灰崎の素行の悪さは最近目に余る。つい先日も他校の生徒とケンカをしたそうだ」
「……ケンカ…」







屋上に連行され、頭をグーで殴られ、女にだらしなかったり部活中の態度だったり終いにはチビゴリラバカドブスと罵られた事で彼の素行の悪さは身をもって知ったつもりだったが、赤司くんいわくどうやら他校の生徒ともケンカを繰り返すほどの不良らしい。
あの人やばい、思った以上にやばい。


わたしよく生きてたな、そんな事を思い出してたら「柴田、顔色が悪いぞ」振り返った赤司くんに心配された。
大丈夫だと笑顔を返せば彼もまた、口角を吊り上げた。しかしそれも一瞬で、赤い瞳がまた冷たく細められる。










「これ以上は部にとってデメリットばかりしかない」










デメリット、赤司くんの冷たい声に反論することなどわたしも緑間もできなかった。
彼が言っていることは全て正論だ。





これまで灰崎くんは試合当日遅刻をしても練習をサボっても、実力があるおかげで誰かに強く咎められることはなかった。
それは変わりが居なかったから。居なくなっては困る存在、チームの戦力だったからだ。



それが今は違う。



真剣に部活に打ち込む事が出来て、潜在能力も赤司くんが認めるほど、さらにスタメン入りを断言されるほどに成長に見込みが十分にある黄瀬がいる。




黄瀬が才能を開花させた時点で、灰崎くんの居場所は無くなってしまう。




彼らのプレイスタイルが似ていて、ポジションも被っているのだとしたら、素行の悪さで有名な灰崎くんと言動こそ軽いが比較的真面目な黄瀬、比べた時点でみんな黄瀬を選んでしまうだろう。





それはもちろんわかっている。だけど、赤司くん声色は、まるでいつもの彼とは別人だ。
普段の温厚な彼はどこにいったのだろう。




心臓が無駄に早く脈打つ。
嫌な予感がする。お願いだからもう話して欲しくはない。




そんなわたしの願いも虚しく、
赤司くんの声がさらに低く、冷たく響いた。







「もう用済みだ。退部を進めよう」







用済み、その突き放すような冷たい声色にわたしも緑間も困惑をするしかなかった。

……赤司くんはこんな顔をする人だっただろうか。こんな人を道具のように扱う人だっただろうか。









この瞬間さらに確信めいたものになった。今まで感じてきた胸騒ぎの正体のひとつが。
赤司くんに感じてきたあの違和感が。
















































あきゅろす。
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