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無くしたもの
28 スポーツ談義







「あーあーさーむーいー」
「口に出すのやめてくんな〜い?」
「余計寒くなります…」
「お前らそんなとこでかたまってんじゃねーよ!動け!」
「元気だなあ青峰…」





冷たい空気にぶるりと身体を震わせれば両隣に立つ彼らがぽつりと呟く。
だって本当に寒いし。本日の体育はサッカーで、元気な男子はそれはそれはもう元気に校庭を駆け回っている。
はやく言ってしまえば青峰のことである。


その隣では器用にドリブルを繰り出す緑間。
彼らには欠点がないのだろうか。
あ、青峰の欠点は勉強ができないことか。






「ミドチンもなかなか元気だよ〜」
「彼は何にでも全力ですから」
「サッカーほんと似合わないなあ」
「黙れ柴田」
「単体で責めるのやめてくれない」







ドリブルをしていた緑間がキッとわたしを見たかと思えば一言。なんて地獄耳だ。


なんで青峰と緑間がいるのかと言うと我が校の体育は2組合同で行うから。なんでかはしらないけど。

もちろんわたしはサッカーなんて出来やしないからぼさっと隅で見学。
わたしの両隣で歯をガタガタを震わせて雑談をする彼らも真面目にサッカーをやる気はないらしい。
わあっと沸く歓声にぼさっと目を向ければ青峰がシュートを決めていた。
うぃーかっこいー(棒読み)





「2人も華麗にゴールでも決めてきなよ、モテるんじゃない?きゃーって」
「放課後にバカみたいにしごかれんのに今疲れに行ってどーすんのってかんじ〜」
「ボクはサッカー得意じゃないので」
「ミスディレクション使ったら?」
「そもそも足で器用にパスができません」
「…おもしろいね黒子」
「真顔で言うのやめてもらっていいですか」





そうだ、別に黒子は彼らみたいにスポーツ万能じゃなかった。
腑に落ちないとでも言いたげな黒子にごめんって、と一言侘びを入れればぷいっと試合を行っている彼らに向き直った。拗ねたか。




「紫原は背高いけどそれはサッカー関係ないもんね。キーパーならいけるか」
「え〜ちょー速い玉ばんばん飛んでくるんでしょ〜?こわくね?」
「紫原にも怖いものとかあるの?」
「しばちんの顔とか」
「ふふっ」
「どーゆー意味だ。2人ともこっち見ろ」



2人の脇腹を両肘で突けば紫原はあっけらかんと欠伸をこぼす。黒子は「ぐふっ」と小さく呻き脇腹を押さえた。黒子よわっ。





「走ってボール追いかけてくる紫原とか怖いよね、でかくて。進撃の巨人的な」
「地面揺れそうですね」
「オレ走りたくないからキーパーでいいよ〜。まあめんどくさいからやらないけど」
「背の高さを活かすならあとはバレーボール?やばい紫原ネットからはみ出しちゃう」
「ブロックは顔でイケますね」
「ぶっ、なにそれ最高」
「捻り潰していい?」





黒子と二人揃って頭を鷲掴みにされたから大人しく謝っておいた。
危うくカチ割られるところだった。






「黒子は何ができるんだろうね」
「言い方に悪意を感じます」
「黒ちんなにもできなくねー?」
「ちょっとまって…考える……」
「……」
「……」
「………アメフト」
「…ぶつかってくるやつですか?」
「黒ちん死んじゃうじゃん」
「まずどこにいるか見つからないし」
「見つかったら死にますよね」
「黒ちん一発KO」
「じゃあ…ドッチボール」
「あー、どっからボール飛んでくるかわからないから最強じゃねー?」
「味方同士でパス繰り出せるよ。ドッチボールって身体に当たらなければ勝ちなわけだし、黒子最強じゃない?」
「……たしかにそうですね」
「……」
「……」
「……」
「黒ちんなんでバスケにしたのー?」
「ボク道を間違えてたんですかね」
「お願いだからバスケ部やめないでね」





悟りを開いたような遠い目をする黒子は何やら思うことがあるらしい。
今日放課後部活こなかったらどうしよう。
校庭でドッチボールしてたらどうしよう。



ピピッ、笛の音がなったとおもったら半袖の青峰がわたしたちの元に駆け寄ってくる。
おい見てるだけで寒いんだけど。
青峰の後ろにはしっかりと緑間もいて、さっきの笛の音は試合終了の合図だとわかった。






「青峰ほんと見てるだけで寒いからあっち行ってくれない」
「おめーらはちっとは動け!テツ!試合入ってオレにパス出せよ!」
「いえ…ボクにはドッチボールが……」
「は?何だよドッチボールって」
「ごめんこの子いまおかしくて」
「しばちんが黒ちんの今までの努力を全否定したんだよね〜」
「おい何言ったんだよ」




ちがうんだって、そんなつもりじゃなかったんだって。ついつい乾いた笑いを漏らせば訳がわからないといったように青峰が首をかしげる。緑間はわたしの隣に静かに腰かけ、本日のラッキーアイテムらしき謎の踊る花を手に持っていた。なんだそれ。
彼はまったくもって話に興味がないらしい。






「結局試合はどっちが勝ったの?」
「一点差で俺の勝ちなのだよ」
「あんなふざけた花持ってる奴に勝てると思うか?笑い転げるしかねーだろ」
「なるほど」




彼の手の上でうねうねと踊るそれは本当に緑間には不釣り合いだと思う。ずっと持ち歩くのかそれ。じっとそれを凝視すれば「欲しいならやろう、明日になるが」と私を見る。
そんな優しさ見せられても困るんだけどな。


返事に困っていれば遠くから「紫原!試合でろ!」と先生の声。心底嫌そうな顔をする彼の背中を叩けばのっそりと立ち上がってコートに向かっていった。






「紫原やっぱりキーパーだ」
「あいつ手も脚も長いからもう相手チームは詰んだようなもんだよな」
「ただ本人のやる気の問題だね」
「あ、相手チームがゴール入れましたね」
「紫原ぴくりともしなかったけど」
「動こうとしてないのだよ」
「欠伸してやがるぜ」
「彼は運動できるくせに本当にバスケしかやらないですね」
「黒子はやりたくてもできないのにね」
「…」
「テツが息をしてない…!」
「…ごめんて黒子。いいじゃんバスケがあるじゃん、ね?」
「紫原が戻ってきたのだよ」
「ずいぶん早くねーか」
「なんか下げられたんだけど〜」
「やる気の欠片もなかったからね」
「紫原くんはいいですね」
「まあ黒ちんよりは色々できるしね〜」
「やめろ!テツが不登校になるだろーが!」
「よしよしテツがんばれいい子」






死んだ目をする黒子の頭と顎を撫でてやれば
両手を掴まれて頭突きをされた。小さく紫原が「うわっ」と声を漏らしてたのはきかなかったことにしよう。てゆうか頭突きかよ。


それより黒子は先生に呼ばれてないけど大丈夫なのか?隣でぼーっとする本人に問えば「紫原くんと同じチームにいましたけど、っていえば大丈夫だと思います」と自信満々に言い放った。それでいいのか少年よ。


「それで、ドッチボールってなんだよ」話をぶり返してきた青峰に黒子ドッチボール最強説を説明すれば盛大に吹き出し何度か頷いた。





「もう青峰くんにパスは回しません」
「わりーって、たしかにって思ってさ」





ジト目で青峰を睨む黒子を慰めれば「半笑いをやめてください」と凄まれた。こわっ。














「青峰はなんでもできそうだよね。黒いしザリガニ好きだし水泳とかどう?」
「ザリガニ関係ねーだろ!」
「ブーメランパンツ一択でお願いします」
「峰ちんやめてまじ気持ちわるい」
「ブーメランはやめたほうがいいのだよ」
「殴る」











「緑間くんは卓球ですかね」
「…えぇ、ミドチンあの短いズボンはくの?……似合うかもー」
「緑間の美脚が拝めるよ」
「誰が美脚なのだよ!」
「剣道とかもいーんじゃね?」
「めーん!なのだよ!どーう!なのだよ!って事になるよね」
「ぶふっ!それうぜーよ!!」
「ぶっ!ミドチンきもい!」
「緑間くん言われてますよ」
「殺す」










「さつきちゃんはチアリーディングとかかな。やばい天使」
「あんな女のどこが天使なんだよ」
「かわいい子はなにしてもかわいい」
「さっちん男受けいーもんね〜」
「桃井さんは女性らしいですから」
「…やっぱり男の人から見たさつきちゃんはたまらないもんなんだよね」






黒子の言葉に思わずテンションが上がってしまった。いまの言葉をさつきちゃんに伝えたら顔真っ赤にして倒れちゃいそうだな。







「そいやあいつ三年の先輩に告られたって言ってたな」
「さすがさつきちゃん。でもこの学校のひとの多くはさつきちゃんと青峰が付き合ってると思ってるよ」
「勘弁しろよ、あんなん嫁にもらったら一瞬で召されるわ」
「料理の腕は置いといて、彼女は優しいですからね。行動も言動も女性らしいですし」
「さっちんはうざくないから好きだよー」
「あいつは入学当初からずっとマネージャーをやっているからな。信頼しているのだよ」






さつきちゃんに、こんなこと言ってたよって教えてあげよ。顔を真っ赤にして喜びそうだ。無表情で話す黒子を見ていたらついつい頬が緩んでしまった。







「赤司くんはなんでもできちゃうかな」
「…赤司に不可能な事はないのだよ」
「あいつには欠点がねーのかな」
「…どうでしょうね」
「赤ちんの言う事は聞いちゃうなあ〜」
「背はみんなに比べたら小さいけど…それでもそつなくこなしちゃうんだろうな…」
「これが赤司クオリティだな」







結果、
黒子はドッチボール
紫原はバレーボール
青峰は水泳
緑間は卓球
さつきちゃんはチアリーダー
赤司くんは無双という結果に辿り着いた。








うん、バスケしてるみんなが一番いいよ。





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