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無くしたもの
09 黄瀬について






「黄ー瀬っ」
「あ、柴田っち!」





ちょうど廊下を歩く黄瀬を教室から発見。こちらに目を向けているところをみると、彼は私に用があるらしい。
私も黄瀬に用があるのだ、教室を覗き込んだ黄瀬の前に立ち耳にかかったゴムを取る。







「じゃーん!」
「…あ!目治ったんすね!」








鼻高々に眼帯を外したわたしに黄瀬は安心したように笑った。
黄瀬のファンの女の子からの攻撃を受けて数週間、すっかり痛みを無くしたわたしの右目は気付けばきれいさっぱり完治していた。「よかった」その場でしゃがみこんで小さく呟く黄瀬。わたしの目が傷付いてからずっと彼は罪悪感や責任感を感じ続けてきていたのだろう。「よしよし」もういいよ、ありがとう、そんな意味を込めて黄瀬同様しゃがみこみ、彼の頭を撫でるとしばらく目を丸くした後ふわりと笑顔をみせた。









「柴田っち、」
「なんでしょう」
「好きっス」
「わたしも好きっス」






男と女の友情は成立しないとはよく聞くけれどもわたしと黄瀬はそれが成立している。
お互い恋愛感情なんてものは抱いてないだろうし、一緒にいて落ち着く、素がだせるような、家族みたいな感覚だ。お互い馬鹿みたいに頬を緩めて会話をすれば回りの女の子たちからボソボソと言葉が漏れる。おお、これは教室で言うことではなかったな。「柴田っち」わたしの頭をくしゃりと一度撫で、立ち上がった彼に次いでわたしも立ち上がる。








「今日一緒に帰りましょ」
「もちろん」
「授業始まるからまたメールするっス」
「待ってるね」







そう言って廊下に出て手を振りながら背を向けて歩き出す。そんな彼に手を振ってわたしも教室に戻った。

そういえば、黄瀬はあれだけモテるのに彼女を作らないのだろうか。
今だってちょっと歩くだけで女子は振り返るし、黄色い歓声だって浴びるし。
男子だって黄瀬の事はかっこいいと感じるんじゃないか?







「ねえ黒子」
「いやです」
「こら」
「またろくでもないこと考えてます?」
「考えてないです、とりあえず聞いて」
「聞くだけで」






あのブーブークッションの件以来余計に黒子が冷たくなった気がする。
前の席に黒子と向き合わせになるように座れば彼は読んでいた本からわたしに視線を向けた。「そういえば、目治ったんですか」「おかげさまで」と黒子。「随分治るのに時間がかかりましたね」そういえば彼らにはものもらいだと伝えていたな。そうだね、と軽く流しておいた。






「黒子は目がクリクリで童顔だよね」
「…はあ」



何言ってんだと言うような顔で私を見る黒子。話はここからだ。







「C組の黄瀬くんって知ってる?」
「さっき柴田さんが話してた方ですか?」
「そうそう、金髪の」
「モデルをやってるって噂を聞きました」
「みたいだね。あ、雑誌みる?」
「黄瀬くんが載ってるんですか?」
「うん、ほらこれ」





椅子から腰を浮かべて自分の机の中に手を伸ばす。机の中から雑誌を出せば黒子は興味津々と言ったように雑誌を見つめた。意外。






「ほんとですね…ってファンなんですか?」
「ファンになったって言うかなんて言うか」
「はあ」
「どう思う?」
「なにがですか」
「黒子もやっぱかっこいいと思う?」




雑誌を眺める黒子を見れば彼は目線だけをわたしにむける。なんだその顔は。




「まあ、そうですね。背が高いですし」
「ね、腕長いし足長いし顔小さいし」
「女性が好きそうな顔をしてますし」
「うんうん、睫毛長いし目は切れ長だし、鼻筋も通ってるし肌白くてすべすべだし」
「あっち行ってください」
「え、いきなり?」







「黒子が言ったのに」と言えば「はい、なんだか情けなくなりました」と黒子。






「別に黄瀬と黒子を比べてるわけじゃないからね」
「…はあ」
「黒子はジェントルマンだし、まあ多少言葉がキツイ時も、手を出す事もあるけど」
「それは君が悪いです」
「好きなことにまっすぐって言うか一生懸命だし。わたしには一生懸命になるものもないからいつもすごいと思ってるよ」
「…そうですか」
「……どうですか」
「はい、もういいです」






ふ、と笑みを漏らす黒子を見れば久しぶりに自然な笑顔を見た気がする。入学当初から、バスケについてたくさん悩んできた黒子も最近では調子を取り戻したようで。ここ最近は青峰と自主練をしているらしい。どうりで仲が良いわけだ。彼が一軍まで上り詰める日も近いのかもしれない。





「柴田さんは」
「ん?」
「黄瀬くんのことが好きなんですか?」
「え、好きだよ」




え、目を丸くして驚く黒子をみてわたしも同じように目を丸くする。こう言うとこは、彼は本当にわかりやすい。





「友達としてね」
「…驚きました。」
「家族みたいなかんじ」
「まだ入学してそんなに経ってないですよ」
「いや、よくわかんないんだけどね。なんかすごい落ち着くの。犬みたいなかんじ?」
「モデルをペット扱いですか」
「ははは」




ほんとに彼は犬みたいだし。ほとんど私が黄瀬を見つけるより先に見つけられるし、1日に何回かは彼は声をかけてきてくれるし。





「柴田さんはもっと人と関わりを持てばいいと思います」
「普通にいろんな人と話すよ」
「そうですが、なんですかね。柴田さんに壁を感じている人も多いと思います」
「え、そうなの?」
「僕や青峰くん、黄瀬くんやその他の一軍の人たちはきっと、壁なんて感じていないかもしれませんが」
「うん」
「僕たちといることで、他の人は壁を作ってしまうのかもしれません」





そう言って机に視線を落とす。
たしかに、バスケ部の一軍の赤司くんたちは、女の子からの支持も高い。普段あまり他の子と話さないわたしが一軍とよろしくやってると、女の子たちから反感を買ってしまうのは黄瀬の件でもう学んだつもりだ。黒子もわたしに気を使っているのだろうか。







「友達はそりゃ、多いほうがいいとは思うけど。わたしは一緒にいて楽しいと思う人と毎日過ごしたいしなあ。まあね、女の子の友達はたしかにいないに等しいけど」





女の子の友達は、えーと、さつきちゃんくらいか?指折数えようとしたけれどなんとも言えない気持ちになったのでそのまま手を下ろした。







「柴田さんの良さは僕たちに伝わってます」
「…」
「だからきっと、他の人たちにも伝わるはずです」
「…うん」
「焦らず、気長に待ちましょう」







そう笑うと彼は再び机に伏せていた本に視線を戻した。柄にもなく、黒子の言葉が胸に染みた。このカラフルな友人がいるおかげで毎日退屈だと思ったことはないし、むしろとても楽しくて仕方ないのだ。



だからこそ友達が少ないとか考えたことなかったけど。
本を読む黒子を盗み見れば、またわたしに視線向けてやんわりと微笑む。
うん、少し自分の世界を変えていってみよう。そんなことを考えながら大好きな友人が載っている雑誌のページをめくった。










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