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無くしたもの
02 そんな趣味はない







「あ〜…なに食ったらこんな体になるんだろうな。見ろよ、乳デケェのにこのくびれ。乳にしか栄養が行かねえのかな…」
「え、なんで私の机でグラビア雑誌見てるの?」





午前の授業を終え、机の横にかかったカバンから弁当を取り出す。視線を机の上に向ければ目に入ったのはかわいい女の子の水着の写真だった。しかも巨乳。雑誌をめくる手を辿ってみればそこには頬杖をつき言葉を発する青峰がいた。






「目の前の女はこんな真っ平らなおもしろくねえ身体してんのに…!なあ、なにが違うと思う?」
「豊胸してんじゃない?」
「これだから女の妬みは嫌だよな。そんなんだから乳ちいせえんだぞ」
「…中学生に乳のでかさを求めてもねえ」
「なに?でっかくなる予定でもあんの?」
「そりゃあもう」
「でかくなったら彼女にしてやるよ」
「小さいままでいいや」
「はあ?!」





はあ?!ってなんだよ。もしかして胸が小さい私に対する腹いせで目の前で見てるのか?いっとくけど中学生だからね。中学生でそんな乳でかいやついないからね。わたしだって将来はでかくなるかもしれないし。



青峰の頭を一発叩く。「いてーよ」私の心だって痛い。そんな青峰は放っておいて今日のお楽しみ、ネギ入りの卵焼きを箸で挟み口に運ぶ






「あ、ちょ!ばか!」
「お、味付けはいいじゃねえか」






ネギ入りの卵焼きは私の口に運ばれるよりも早く青峰の口に消えていった。
「さつきちゃんに作ってもらいなよ」そう言えば顔を歪ませて「あいつは兵器を生み出す天才だ」と再び雑誌に目を向ける。兵器を生み出す天才ってなに?さつきちゃんなにしたの?なにを生み出したの?







「僕も食べたいです」






アスパラベーコンを口に運びながら考えていると聞き覚えのある声とともに横から手が伸びてくる。ぺちん、と軽く叩けば「痛いです」と黒子。痛いって言ったくせにその手はしっかりとわたしのネギ入り卵焼きをさらっていった。







「あれ、おかしいですね。美味しいです」
「だろ?いまさら無駄な女子力発揮してんじゃねーよ!」
「普通に褒めれないのかな君達は」







かわいくないなあ!そう言えば青峰も黒子も「男にかわいさはいらない」と口をそろえて言う。そういうことじゃない。しかし彼らはいつそんなに仲良くなったんだろうか。聞いた話では黒子の自主練に青峰がどうたらこうたら…って聞いたけど忘れた。まあいい。







「君たちのおかげでお腹が膨れなかった」
「俺たちのせいじゃねえよ」
「おかずたべたじゃんか」
「身に覚えがねえぞ、なあテツ」
「僕も無いですね。なんでしょう?」
「くそ、腹が立つ…」
「なに、お腹空いてんのー?」







青峰と黒子のせいですっかり空になってしまったお弁当箱を片していると頭上から降ってきたのは紫原の声。と同時に頭に何かを置かれる。
手に取ってみると購買のコロネパンだった。








「え、くれるの?」
「いーよー。俺眠いし。」
「お前今までずっと寝てたのかよ!」
「あれ、峰ちんなんでいんの?てか今日授業なにやってたー?覚えてない」
「寝すぎだから、ありがと。食べる」








ぱり、封を破いて口に運ぶ。
うん、おいしい。まさか紫原から食べ物を恵んでもらう日が来るとは。







「これでチャラにしてあげよう」
「えー?なに?なんのはなし?」
「昨日黒子が寝てるときにふざけてたの、先生に言ったやつ。ほんとに直前まで寝てたのにさあ」
「あ〜、なんか楽しそうでイラッとした」
「え…いいじゃん…楽しませてよ…」
「あの時は本当にどうしてやろうかと思いました。結構痛かったんですよ」
「え、結局どうなったんだよ。俺聞いてねえし!」








あれは痛かっただろうなあ…音を聞いたらすぐにわかる。一通りの話を青峰にすれば「ぶふっ!」と彼は吹き出し、机に顔を伏せて笑い始めた。私としてはもう思い出したくもないのだけれども。








「あれ青峰くんもグルだったんですよね」
「ふひひひひっ!腹いてえ!お前そんな勢いよくやったのかよ!見たかったー!」
「運動部だし、反射神経すごいのかと思ったんだよ。てか元はと言えばあれは青峰の案」
「おいばか!言うなって!!」
「黒ちんに反射神経とか皆無だからー」
「…まあ、別にいい方ではないですけど」









そう言葉を濁す黒子は食べかけのパンを再び口に運び始める。
まあ運動に関して抜群のセンスをもつ彼らからしたら黒子もそんな風に見えてしまうのは仕方ないのか。








「てゆうか青峰はなんでうちのクラスきたの?ぼっち飯になるから?」
「青峰くん友達いなかったんですか?」
「ちっげえよ!緑間が赤司と将棋さしに行くとか言って出てったからだよ!」
「峰ちん置いてかれてんじゃーん」
「まあ青峰に将棋は…ね…ふっ」
「一生交わることのないものですね」
「お前らなぁ」
「いでっ!だからなんでわたしだけ…!」







ちょっとからかって鼻で笑っただけなのに重いチョップが頭に降ってきた。女の子に対する扱いじゃない気がする。







「峰ちん、もうすぐ授業始まるけどー」
「まあ隣のクラスだし慌てなくてもねえ」
「まーな。あーもうそんな時間かよ。
あ、わりい!歴史の教科書かして!」
「ほいほい、持ってっていいよ」
「サンキュ、終わったら返すわ!じゃーな!」







教科書を渡すと青峰は教室を飛び出していった。まあそれが面白いんだけど。「柴田さん、青峰くん雑誌忘れていってますよ」と黒子。え、マイちゃん忘れてっちゃうのか。
ちらりと時計を見ればまだ時間はある。雑誌をもち席を立つと「帰りに渡せばいいのにー」と紫原が言う。






「まあまあ、まだ時間あるし。ちょっと渡してくるね」







そういって歩き出せば私がいなくなったのを見計らって私の席に紫原が座る。なにやら黒子と話しているようだ。なんやかんやでみんな仲いいんだな、良いこと良いこと。


クラスにたどり着いたのを確認し、青峰を探そうとクラスを覗き込む。





「あれ、どこいった…トイレか?」






残念ながら青峰の姿は見えなかった。ま、放課後でいいか。くるり、方向転換すると同時に誰かにぶつかってしまった。バサッ、青峰の雑誌が音を立てて床にぶつかる。







「ああ、柴田か。悪かったな」
「いや、ごめんね。私後ろ見てなかった」
「オレも注意が足りなかったのだよ」








ぶつかった人物を見上げてみればそれは緑間だった。うわ、青峰の雑誌落としちゃった。マイちゃんが。拾い上げようと慌てて屈むと、緑間の綺麗にテーピングの施してある手が先に雑誌を拾い上げた。
「ごめん、ありがとう」そういって受け取ろうとするが、なかなか雑誌は返ってこない。
それどころか緑間は雑誌を凝視しているようだった。…ん?まさかの緑間もマイちゃん好き?隠れファン?





不思議に思っているとしばらく雑誌を見つめていた緑間の目はわたしに向けられた。







「…オレは人の好みにまで口出しするつもりはないのだよ」
「マイちゃん?」
「しかしここは学校だ、確実に大勢の者の目に入るだろう。こんな趣味は学校に持ち込まず、家で楽しむべきなのだよ」
「え、そんなだめだったかな」
「お前にそのような趣味があったとは驚きだが、元々変わり者だとは感じていた。だから気にすることはないのだよ」
「ん!?なんかおかしいぞ!?」







なにか勘違いしてる?マイちゃんのグラビアがそんなに過激だったか?なんて言ったらいいのか言葉を探していると授業の始まりを知らせる鐘が鳴り響き、緑間から雑誌を押し付けられる。






「……ん!!?ちょ、緑間!!!」







開かれたままの形で帰ってきた雑誌に目を向けてみれば、そこにはマイちゃんのグラビアよりも過激な、いやらしい姿をしたお姉さんの写真がでかでかと載っていた。
これをわたしの趣味だと勘違いしたの?









「人の目に入らない場所に隠しておくのだよ、安心しろ。言いふらしたりはしない」
「ちが…!!」








慌てて引き止めようとするも、緑間は歩みを止めることなく教室に戻って行ってしまった。教室に入る瞬間、緑間がわたしに向けていた瞳には、同情のみならず、蔑みの意も込められていたように感じた。


諦めてとぼとぼと教室に戻ればもう先生もすっかり教室にいて、わたしは叱られながらも自分の席に向かい腰掛ける。「雑誌返せなかったんですか」と黒子くん。小さく頷いてわたしは頭を抱える。
まあ、あの緑間だ。常識なら持ち合わせている緑間だ。まさか言いふらす訳ない。いや、本当はあんな趣味もないんだけどね、誤解なんだけどね。
なんだ、なんにも心配いらないじゃん。そう安心して机に顔を伏せようとすると制服のポケットに入っている携帯がヴヴ、と小刻みに震えた。開いてみると一件のBINEの通知。
誰だ授業中に、あれ、青峰?










青峰: 緑間から聞いたんだけどよ




青峰: エロ本持ってたってマジ?









すう、と深く深呼吸をする。そして静かに携帯を閉じて机に顔を伏せる。
そのまま平常心を保ち続けると終わりを知らせる鐘がなる。
授業を終えて数秒後、青峰がわたしのクラスにやってきた。それはそれはもう楽しそうに顔を綻ばせながら。








「なあ!マジでエロ本もってたのかよ!!」












青峰の腹に拳を一発。
いや、それお前のだから。







その後、青峰を引き連れて緑間の元へ行くと意外とあっさりと誤解は解けた。
事情を話すと「疑って悪かったのだよ」と緑間がお汁粉を買ってくれた。
なんで緑間が青峰に話してしまったのかは未だに謎だけど、まあ、うん、良しとしよう。



ただ青峰の笑顔には本気で腹が立った。






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