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無くしたもの
18 口は災いの元






「じゃーんけーん」
「え?」




昼放課、いつものようにキセキの世代とやらに囲まれて食堂で昼食を取り終えたわたしは謎の視線を感じた。
視線を向ければ隣の席でうまか棒をかじりながらわたしを見る紫原。カス!溢れてる!



なんだ、と口を開く前に彼の拳がわたしの目の前にやってきて不思議に思えば彼はじゃんけんを求めてきた。…じゃんけん?





「じゃーーんーーけーーんーー」
「え…えぇ」
「ぽいっ」
「……」
「しばちん負けー、はい肩揉んで〜」
「おいおいなんてこった」





肩を揉めと…?
手を出したまま呆然とするわたしに紫原の巨体が寄りかかってくる。重っ。
いきなりじゃんけんして負けてマッサージってどういう事だ。
困ったように視線を泳がせれば目の前に座っていた赤司くんに謎の微笑みを向けられた。やれって事なの?



「バスケなんてやってるからさあ〜、まじ疲れんだよねー」
「…3分だけね」
「へーい」



バスケの強豪校である我が帝光の部活がハードなことはわかってるつもりだ。だから疲れる、と言われてしまえばアスレティックトレーナーとして活躍する父の娘であるわたしもなかなか無視ができない。
昔からそういう環境を見て育ってきたからだ。紫原はそう言えば私が断れないのをわかっているらしい。
仕方ない、そう思って紫原の肩に手を置いてマッサージを始める。
肩を揉み始めれば彼がどれだけたくましい体をしているのかが布越しに想像できた。

くそ、いい筋肉しやがって。後ろからちらりと顔を除けばリラックスしきった様子の紫原。





「うえ〜…ちょーきもちい〜…」
「どーも」
「まじで?柴田、次オレな」
「冗談はその黒さだけにしてくれよ」
「殴る」
「やけに手慣れているな」




さりげなくマッサージを要求してきた青峰を適当に流してだらしなく力の抜けた紫原の肩を揉む。
青峰の言葉を遮った赤司くんの言葉に「昔から見てれば嫌でもこうなるさ」と答えれば首を傾げたあと静かに微笑む。
「そうか、それは詳しく聞かせてもらおう」と興味を持った様子。どうやらわたしはまた余計なことを言ったらしい。






「そいや、しばちんの父親バスケやってたんでしょー」
「なんだ、そうなのか。」
「……」
「、いってぇし!!!ちょ…!なに!」




ゴリッ、紫原の肩を思いっきり揉み込む。相当痛かったのか身体を起こしてわたしを睨む紫原。余計なことを言ったらだめだ紫原。赤司くんどころか緑間も興味津々といったようにわたしを見やる。
はい、もう3分経ちました。紫原の肩から手を離せば「まだ25秒あるけど」と凄まれた。
数えてんじゃねえよ。





「へえー、ならお前もバスケやればいいじゃねーか。マネージャーでもやれよ」
「え、ゆうちゃん一緒にマネージャーやる!?」
「私が得意なのは走ることだけ」
「そんな感じしますね」





青峰の言葉にさつきちゃんが食いつく。
ああ、たった一言口を滑らせただけで話がどんどん広がっていく。

ルールくらいならそりゃわたしもバスケで活躍していた父がいることでよく知っている。
けども、わたしは運動が得意ではない。走るのだけは早いんだけどね。

それにマネージャーなんて向いていない。
バタバタするのも苦手だし、この学校で平和に生活することを望む私には荷が重い。
まあいろいろと手遅れだけど…。
絶対にやりたくないのである。うむ。




青峰に被せてさりげなく鼻でわらった黒子に関してはつむじを人差し指で押してやった。「何してるんですか」「痔になれ」手をはたかれた。






「ほう、ポジションはどこだったんだ?」
「PGだったっていってた」
「…PGってことは頭いいんじゃん。しばちんバカじゃないの〜?」
「失礼な、やれば出来る子だよ」
「…柴田は馬鹿ではないのだよ。テストでもオレの下、つまり紫原と同着位だった」




わたしが紫原に反論するよりも早く、緑間がお茶をすすりながら強い眼差しをわたしに向けて言う。
そう、べつにわたしは勉強が苦手なわけじゃない。もちろん好きでもないけど。

科学だけが本当に苦手なため、赤司くんや緑間に教わることはあるが。

そんな緑間の言葉に青峰は目を丸くし「え?そうだったっけー」と紫原は私に目を向ける。





「はあ!?お前バカじゃねえの?オレは今裏切られた気分だわ」
「赤司くんと緑間には勝てない」
「…ボクも裏切られた気分です」




軽蔑したように冷ややかな眼差しを送ってくる青峰と黒子にもっと崇めて、と言えば「貧乳にそんな価値があると思うか?」と言う青峰に続いて「日頃の言動から言ってキミはそんなキャラではないでしょう」と黒子。
まったく辛辣なものである。




「それでもわたしは君たちより頭がいい」
「おいおい許せねーな、勉強教えろ」
「同感です、教えてください」
「聞こえません」




にっこり、青峰と黒子に笑顔を向ければ
「…ほー、覚えとけよ」とただでさえ怖い顔をさらに歪める彼。
こわ、これは…なにかされるぞ。
なんかまためんどくさいやつの怒りを買ってしまった気がする。


すいません、勘弁してもらえませんか。
そう侘びを入れる暇もなく青峰はわたしを見下ろす。…何をする気だ。








「…今の言葉、後悔させてやるからな」







口は災いの元とはよく言ったものである。








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