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無くしたもの
14 赤司との攻防戦





外を見ればまだ雪はちらついている。随分積もったな。時間も時間だし、みんなはどうするかな。

外から視線をリビングに向ければ、何らかの資料を読み込む赤司くんの隣で、テーブルに肘をついて眠る緑間が目に入った。





「みんな寝てしまったな」
「みんな?」




資料を閉じて微笑む赤司くんを見ればソファーを指差す。その先に目を向ければ腕を組んで眠る青峰の姿。
小さく寝息を立てる彼らを見れば、身体はでかくてもまだ中身は幼いことを実感させられる。





「気を使ってオレの代わりに洗い物を手伝ったんだろうな。まあ、オレのためだけではないだろうけどね」
「?」
「柴田も座ったらどうだ?客人のオレが言えることではないが」




自分の隣をぽんぽん、と手で示しキレイに微笑む赤司くん。おおっと、危うく見とれるところだったよ。
はっと我に返って赤司くんの隣に腰掛ける。
これまで黄瀬が何よりも一番女子に人気があるだろうと確信していたけど、赤司くんもなかなか。顔も整ってるし、背は他のみんなに比べたら小さいけど勉強だってできるし人望も厚い。
あれ?黄瀬負けてね?あの子勉強苦手だった気が「柴田」ふいに名前を呼ばれて大袈裟なくらい肩を揺らしてしまった。はい。





「ん?眠くなった?」
「今日はありがとう」
「…ん?いいよ」
「…聞いてもいいかな」




何を?そう返事をしようと赤司くんに目を向ければ赤色の瞳がわたしを捉える。
…普段じっくりと目を合わせることが無かったために、不思議と身動きが取れなくなる。
どくん、暴れる心臓の鼓動を抑えて「なに?」と言葉を絞りだす。




「今日、なんでオレを招いたのかな?」
「え、なんで、って」
「柴田、オレは」





ガタン、
隣にいた赤司くんの顔が気付けば目の前にあった。うわ、慌てて身体を反らせばバランスを崩す。気付けば床に両肘をつく状態になったわたしの脇に赤司くんが両手をつく形となった。

ただただ目を丸くするわたしを彼は黙って見つめる。…どうしたの。
何か言おうと口を開こうとすれば「悪かった」と彼はそばを離れた。わたしの身体を起こすのを忘れずに。






「…あ、赤司くんが良かったら泊まっていってよ。みんなももうシャワー浴びてるし、今日はもう遅いし」
「…ああ、そうさせてもらうよ」
「赤司くんもシャワー浴びてきたら?あ、わたし着替え取ってくるね。」





「ああ」と小さく笑う赤司くんの隣から立ち上がり、部屋に向かうべく階段を上がる。
…なんだか、よくわからないけど青峰が言ってたことを思い出す。
人をまとめる事が簡単なわけが無い、彼は私たちが思ってる以上に、いろんな重圧に耐えているのだろう。

今はまだ大丈夫かもしれないけど、…いつか壊れてしまうんじゃないだろうか。
私にできることがあるだろうか、バスケ部でもなんでもないわたしに。


着替えを持って階段を降りる。赤司くんをバスルームに案内して軽い説明をすれば「ありがとう」と笑みをこぼした。
さて、今は他にやることがある。
悩むのは一人で、だ。切り替えよう。



リビングに戻り、押入れから布団を引っ張り出す。夏物ですこし薄いけど、暖房も着いてるし重ねれば大丈夫だろう。
青峰はソファーに横にして、さつきちゃんは私の部屋のベッドに移して…





「黒子、布団ひいたから。ちょっと頑張って起きて!紫原も」





薄く目を開いた黒子は小さく唸ると四つん這いになって布団へと移動した。布団に倒れこむと死んだように眠りについた。





「おーい紫原、さむいでしょ、あっち暖かいからあっちで寝て〜」
「……んあ…あれ…しばちん…」
「はいしばちんだよ、ほら、移動するよ」
「んあ〜…」



ふらふらと立ち上がった紫原を支えて布団まで行く。…お、重い。とんでもなく重い。
「ぐふっ」どうやら紫原が黒子の脇腹を蹴ってしまったらしい。
やっとの思いで運んだ紫原を黒子の隣に転がす。やれやれ、筋肉痛になりそうだ。




「青峰!あーおーみーねー!」
「……」
「ガングロ!黒峰!ガングロクロスケ!」
「…ふがっ」
「…」




だめだこりゃ。乱暴ではあるが青峰はそのまま適当にソファーに転がしておいた。しっかりと毛布はかけたし大丈夫だろう。





「さつきちゃーん」
「……あれ…ゆうちゃん…」
「私の部屋いこう。歩ける?」
「…ん…」





眠たそうに目をこするマイスウィートハニーの身体を支えつつ階段を上る。
いつものさつきちゃんなら「いいよ!わたしは床で!」と激しく拒否するだろうから今日はちょうどいい。
さつきちゃんをベッドに転がして(丁寧)かけ布団をかけ部屋から退散する。


緑間はまだシャワー浴びてないもんな、起こすのはかわいそうだけど、部活で汗もかいてることだろうし…声をかけるか。
伸びをしながらリビングに向かえばちょうど脱衣所から出てきた赤司くんと視線が交わる。




「さっぱりしたよ、ありがとう」
「どういたしまして」
「おかげで温まったよ」
「あ、飲み物いる?」
「頂こうかな」
「お茶でいいかな?」
「ああ、悪いね」




時計を見ればもう既に日付が変わっていた。腰掛けた赤司くんにお茶を出し、赤司くんの隣で眠る緑間の肩を軽く叩く。




「緑間、シャワーどうする?」
「………明日の朝はいる…」
「ん、あっち布団ひいたからそっちで寝よう。動ける?」
「…ああ」




寝呆ける緑間が新鮮で頬が緩んでしまう。なんだこの生き物は。なかなか見れないぞ、かわいいな。
立ち上がった緑間はふらふらと紫原の隣に倒れこむ。おい、メガネ着けたままだぞ。

赤司くんと目を合わせれば静かに口角を上げた。あ、笑った…よかった。
三人が眠る布団によって緑間のメガネを外す。紫原に踏まれるかもしれないし、テーブルに置いておこう。





「さて、赤司くんや」
「どうした?」
「これから一つ私の言うことを聞いていただきます」
「拒否権はないのか?」
「残念!ありません!」




うん、こうでも言わないと絶対聞かないからね。彼は必ず他人を優先するだろうから、釘を刺しておく。「…そう来たか」と笑う赤司くんは、リラックスできているだろうか。




「赤司くんには二階の父の部屋で寝てもらいます。あ、布団は干したばかりだから大丈夫。加齢臭とかしないよ」
「…柴田はどこで寝るんだ?」
「そこらへん」
「…簡単には頷けないな」




苦笑いする赤司。やっぱりなあ、彼はそういう人だ。だからこそこっちも譲れない。





「な、なんていうかね。赤司くんには肩の力を抜いて欲しいな」
「…つまり?」
「…だよねえ、私には赤司くんの大変さとか苦労とかわからないけど…うーん、なんて言うかな…うーん…」




…なんだろうか、なんと伝えればいいのかわからないなあ。悩むわたしを見て赤司くんは眉を下げて微笑む。うーむ、




「赤司くんの心の拠り所になりたい」
「…ほう?」
「いや、なります」
「どうなるんだ?」
「わ、わからないけど、なります」




何言ってるんだ私、結局何が言いたかったのか自分でもわからない。
なんだか恥ずかしくなって目を泳がせる。くつくつと笑い声が聞こえて泳がせていた視線を赤司くんに向ける。
……笑いすぎだと思う。





「楽しみにしているよ」
「…た、楽しみって」



口角をあげてにやりと笑う赤司くん。あれ、そんな笑い方する人だった?まさかのドSか?狼狽えるわたしの頭を撫でて立ち上がる赤司くん。




「部屋はどこかな?」


あれ、ベッド行ってくれるのか。
慌てて立ち上がり赤司くんの前を歩く。なんでこんな余裕そうなのか。
父の部屋に案内すれば律儀にお礼を言う赤司くん。…くそう、余裕そうだな。





「ゆっくり休んでね、おやすみ」
「ああ、おやすみ」


いつか赤司くんにギャフンと言わせてやろう。そう心に決めて扉を閉めようとすれば「ああ、忘れてた」と赤司くん。ん?




「柴田のさっきの言葉は予想外だったよ」
「ナンデシタッケ」
「心の拠り所「あああやめて」たい、と」



恥ずかしいから忘れようとしたのに!ジト目で睨みつければこれまた余裕そうに笑う。
こ、この…






「柴田がオレに気を使っているのには気付いてたが、まさかそこまで考えているとは思わなかったからね」
「さいですか」
「オレも柴田にとって心の拠り所とやらになれるようにしよう」
「ん?」
「言ったからには覚悟しておくんだな」









え、どういう事だ。そう返事をする前に赤司くんによって扉は閉じられた。





いや、全く訳がわからないけど、なんだかとんでもないことを言ってしまった気がした。



赤司くんにはまだ勝てそうにない。




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