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無くしたもの
13 鍋にしましょう





火をつけた土鍋の中の野菜はちょうど食べごろに火が通りそれを見た青峰と紫原が箸を伸ばす。
ぺし、伸ばされた手を軽く叩けば口を尖らせた青峰と紫原がわたしをみる。


ピンポーン、とチャイムが鳴る。

扉を開ければそこにいたのは待ち望んでいた赤司くんと緑間。「遅くなって悪いな」「…寒いのだよ」彼らの身体を見たところ、傘はちゃんと持っていたようだ。さすが。








「ふ、おかえり。お風呂にする?ごはんにする?それともわーたー「お前は新婚生活の嫁か」いてっ、ちぇっ」




ど定番のセリフを言い出せば後ろをついてきたらしい顔をしかめた青峰に頭を小突かれた。せめて最後まで言わせてくれ。

「お邪魔します」と礼儀正しくお辞儀をして靴を脱ぐ二人。それをみて青峰が「堅苦しいなー」と頭を掻く。
…なんならこれが普通なんじゃあ。





「身体冷えてない?シャワー浴びる?」
「ん……オレは濡れてないから大丈夫だ」
「オレも濡れていないから大丈夫だ。こんな大雪の日に傘を持ってこないバカはいないのだよ」
「おい、オレらディスられてるぜ」
「反論できません」
「わ、わたしは持ってきてたもん。ただ傘置き場みたら無くなってて…!」
「え、桃ちん傘パクられたのー?」
「うん…」
「桃井は物の取り扱いに気をつけたほうがいいな…」





さつきちゃんの傘がなくなるとは…きっとどこかの男子が持ってったんだろう。さつきちゃんかわいいし、物盗られても仕方ない気がする。
ぼんやりと考えていると手を洗った赤司くんと緑間が腰掛ける。あ、と言葉を漏らして2人をみる。






「緑間、赤司くんも上脱いで?」
「………?!」





そう二人に手を伸ばせば緑間は目を丸くする。おまけに赤司くんもフリーズ。
……いい方が悪かったか。






「ブ、ブレザー、ブレザーね」
「な、紛らわしい言い方はやめるのだよ…!主語をしっかりと入れろ…!!」
「…ああ、オレも驚いた」
「あ、赤司くんまで…ごめん」






顔に熱が集まるのを感じて慌てて顔を逸らす。……ケタケタ笑う青峰が腹立たしい。

「悪いな、頼む」そう赤司くんはわたしにブレザーの上着を渡す。眉をひそめた緑間の分も受け取り、他のメンバーのブレザーの隣にハンガーでかけた。ブレザーを脱いだ赤司くんと緑間はなんだか新鮮だ。いつも着崩すことなく完璧に着ているし。
ネクタイを緩めた彼らはなんて言うか…色気が。





「やっぱ制服の力は偉大だな…」
「…何なのだよ、気味が悪い」
「緑間、聞くのはやめておこう。柴田には柴田の世界がある。」


「ね、早く食べよ〜」
「いい感じだね!」
「うし、やっと食えるな!」




箸を持ってむくれる紫原に続いてさつきちゃんや青峰も目を輝かせる。
よし、準備はいいな。
全員で手を合わせる。




「「「「「いただきます」」」」」











「峰ちん肉ばっか食いすぎじゃねー?」
「あ?肉くっとけば育つんだよ」
「青峰くん野菜食べなきゃダメだよ!」
「あれ?わたしの肉団子は?」
「あらら。オレ食っちゃったかもー」
「……一生恨む…」
「柴田、俺のを食べたらいい」
「…赤司くん…!!素敵だね、どうりでモテるわけだ!あ、お豆腐食べる?よそうよ」
「モテた覚えはないが…ああ、ありがとう。入れてもらえるか?」
「赤司への信頼が厚い理由を肉団子で片付ける女はお前だけなのだよ…」
「ボク牡蠣食べたいです」
「牡蠣?どこだ……?」
「あらら?牡蠣も食べちゃったかも〜」
「……」
「…わたしの牡蠣あげるよ」
「肉追加おねがいしまーす」
「肉はほばあんたの腹の中だよバカ峰」
「青峰くんちゃんと野菜たべたの!?」









「おい、ネギが繋がっているのだよ」
「それ黒子が切ったやつだ」
「このバカ長い白滝はー?」
「それは僕が切ろうといったけど『ああ、大丈夫、吸えば大丈夫』と柴田さんが切らなかった白滝の成れの果てです」
「鍋は普通マンロニーちゃんだろーが…」
「想像力が足りないな君たちは…ちょっと青峰、緑間、白滝すくってみ?」
「…なんだってんだよ」
「……おい、それはオレの白滝なのだよ」
「ほら、青峰と緑間が取った白滝が繋がってる」
「……だから?」
「それがあなたの運命の人です」
「き、きっもちわりーな!離せよ緑間!!」
「お前が離すのだよ!このバカが…!!」
「食べてチューしちゃいなよ〜」
「いえ〜い(裏声)」
「て、テツくんどこからそんな声を…!」
「ふむ、いい考えだな。」
「赤ちんノッちゃったらブレーキ役いないじゃん」
「あ、赤司まで…!!」








「〆はなににする?」
「オレうどんがいーなー」
「は?雑炊だろ?」
「青峰くんに合わせていっつも雑炊だったからわたしもうどんがいいな〜」
「ボクは雑炊で」
「さすがテツ!バスケ以外にも合うところがあったな!」
「痛いです青峰くん」
「オレはどっちでもかまわないよ」
「オレもどっちでもかまわん。世話になっておいて文句は言えないのだよ」
「わたしの天使達がうどんがいいって言うからうどんにするわ」
「て、天使…?わたし…?」
「達ってオレも含まれてんのー?」
「こんなでかい天使がいてたまるか」
「少なくとも青峰よりはかわいい」
「むっくんはかわいいよ!」
「柴田よりは紫原のがマシかもな」
「嬉しくねーし」
「このガングロ…」
「桃井さんが言うんです、女性の意見を優先しましょう青峰くん」
「テツくん…!!」
「さすがジェントルマン黒子」
「ただし君は別です」
「え…何故…」











「もういいんじゃないか?」
「ほんとだ!食べよ〜!」
「赤司くんよそうよ!」
「…オレばっかりいいのか?」
「なんか赤司にばっか甘いなお前」
「青峰とか紫原みたいなのがいると赤司くん遠慮しちゃうかなって…はいどうぞ」
「ありがとう、いただくよ」
「しばちんオレも〜」
「仕方ないな、はい」
「よし、柴田オレのも」
「まったく……はい」
「てめっ、うどん3本しか入ってねーよ!」
「それすごいうまい3本だから」
「ふつーのうどんだろ!!」
「うどんもいいもんですね」
「テ、テツくん!よそおうか…?」
「いいんですか?おねがいします」
「さつきちゃんによそってもらうなんて…生意気だな黒子。緑間は?」
「自分でよそうからいいのだよ。お前も気にせず食べるといい」
「緑間がツンデレ…!!かわいい…!」
「男にかわいいと言うのはやめるのだよ!」
「紫原、頬が汚れてるよ」
「んあ?赤ちん拭いて〜」











ふあ、あくびを一つ零して食器を片付ける。
台所に皿を運んで蛇口をひねれば暖かいお湯が手を濡らす。よし、洗うか。
スポンジを手に取り皿を手に取ろうとした時、隣に現れた人物に目を丸くした。





「洗剤はどれだよ」
「……え、えぇ?」
「なんだよ、手伝わなくていーのか?」




隣に居たのは何よりキッチンの似合わない男、青峰。
驚く私のおでこを指で小突くと「これか」と洗剤を手に取りわたしからスポンジを奪う。





「あのなあ、オレだって洗い物くらいできるっての。いつまでそんな顔してんだよ」




そう言って歯を見せて笑う青峰についつい可愛らしさを感じてしまった。こう見てるとほんとに、つくづくいい人たちだ。キセキの世代っていうのは。ちょっと目つき悪いけど。





「誰かが声かけに来るとは思ったけど、まさか青峰が来るとは」
「あー」
「ん?」
「いや、赤司が手伝いに行くって言うからよ」
「……なるほど」




つまり、赤司くんに気を使って青峰が手伝いに来たということか。
青峰の優しさについつい頬を緩めれば「気持ちわりーよ」と手についた水を飛ばしてくる。照れるなよ。





「優しいね、大ちゃん」
「大ちゃんって言うな。…赤司だって疲れんだろ、副主将なんてめんどくせーもん任されてるし。オレはやったことねーから知らねえけど、人をまとめるの何て、簡単に出来ることじゃねぇって事くらいわかるわ。」






ポツリと呟く青峰の隣に並び、皿を手に取って泡を流していく。「赤司に言うなよ。」と青峰。言わなくても、きっと赤司くんならお見通しだろうに。ほんと赤司くんはすごい。
「てかお前も座ってていいんぜ、心配しなくても割らねーよ」しっしっと手を振る。
そんな青峰に「仲良くやろーよ」軽く身体をぶつければ「ばーか」と目を細めて笑う。




ちらりとリビングを眺めれば落ち着いた様子で緑間と談笑する赤司くんの姿が見えた。


紫原は大きい身体を投げ出して床で寝ている。黒子とさつきちゃんも満腹になったからか目を細めてうとうととしているようだ。





「青峰も疲れてるんじゃないの?」




リビングから視線を青峰に戻せば「いや、別に」とあっけらかんと言い放つ。
体力もバケモノ並なのだろうか。
洗い物を終えた青峰に「ありがとう」と伝えれば「次は雑炊な」と笑った。



手を拭いて青峰とリビングに戻れば、先ほどまで起きていたさつきちゃんと黒子も床に倒れて寝ていた。疲れてるんだなあ。
青峰はあくびを一つ零し、ソファーにどさりと腰掛けた。まあ、身体は正直だ、あれだけハードな部活を毎日してて疲れないわけもない。




体に鞭打って手伝ってくれた彼に感謝しつつ、
今度鍋をやった時の〆は雑炊にしようと誓った。












あきゅろす。
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