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無くしたもの
12 まるで母親










「えと、そこ左いけばリビングだから。」


「「「「…お邪魔します」」」」







スーパーで彼らと出くわして数分後。家に招くことに決めたことで今日の夜ごはんに作ろうと思っていたオムライスは諦めた。
5人分のオムライスとか重労働すぎる。冬、大人数でのごはん、簡単、ここまでくれば作るものは一つである。はい、鍋です。






「わ、ひろーい!」
「なに?お前おじょーさま?」
「うわー赤ちんが言ってた通りだ〜」
「青峰くん紫原くん、迷惑かけないようにしてくださいね」







いや、広くはない。けど、父と二人で暮らすには充分。目を輝かせるさつきちゃんと青峰に「そうでもないよ」と軽く返事をしてみんなをリビングへと案内する。
さて、どうするか。父の部屋がある二階へ足を運びながら考えを巡らせる。





「とりあえず着替えか…3人分あるかな」





父の部屋から適当なTシャツとジャージを持って部屋を出る。お父さんも体格はいいし、紫原でもきっと着られるだろう。着られなかったら裸で過ごしてもらおう。

さつきちゃんには私のものを着てもらうか。あ、胸がきついかもしれない。リビングに向かって暖房をつける。おまけにストーブも。






「おい紫原!ストーブのど真ん中にいるのやめろ!さみぃ!」
「え〜峰ちんもこればいいじゃん」
「わたしだって寒い!」
「ボクも寒いです」




紫原を筆頭にストーブの前に集まる体格のいい男たち。4人ぴったりと並んだ後ろから見た光景がおもしろかったので携帯を手に取り写真を撮る。なんかかわいいな。

そんな彼らの頭にタオルと着替えを乗せていけば1人ひとりしっかりとお礼を言う。
ふむ、いい子だ。「風邪ひくからシャワー浴びてこれば?」そう言い風呂場を指差せば青峰が目を丸くする。




「こんなテキパキ動く柴田は見たことねえ」
「なんか変な感じがします」
「しばちんおかしいんじゃない…?」
「よし、さつきちゃん先に行っといで」




そうか、殴られたいか。三人の頭に軽くチョップを入れこの場を終わらせた。
さつきちゃんをつれてお風呂場へいき、軽く説明をする。「ゆうちゃん」名前を呼ばれて顔をさつきちゃんに向ける。


「どうしたの?さむい?」そう問いかければさつきちゃんは大丈夫だと慌てて首を振った。ん?




「わたし、ずっと青峰くんと一緒だったから…今まで女の子の友達って少なくて」
「うん」
「ほら、青峰くんバカであんなめちゃくちゃなのに背も高いし顔もいいから女の子からは昔から人気あってね」
「…昔からそうなんだ」




まあ、事実彼はモテるだろう。一見適当に見えるがバスケに懸ける思いもとても熱く不器用ではあるが人を思いやれる。

そんな青峰の幼なじみの彼女は、昔から女の子から妬まれる事も多かったのだろう。美人だし、性格いいし。タオルと着替えを握りしめたさつきちゃんは俯いていた顔を上げてわたしを見る。





「だから、ゆうちゃんとこうやって仲良くなれて本当に嬉しいの。青峰くんや、一軍の人たちの中にゆうちゃんが何も気にせずに居てくれるから、わたしも何も気にせずに自分の居場所を作ることができた」
「…わたしが居なくても、さつきちゃんの居場所はあるよ。ずっと影でみんなを支えてるのはマネージャーであるさつきちゃん達なんだから。」





「わたしは茶々入れてるだけ」そう笑えばさつきちゃんもくしゃりと笑みを浮かべる。




「ゆうちゃん、ありがとう」
「うん、じゃあしっかり温まって」




さつきちゃんの頭を撫でて脱衣所から出る。ほんと、いい仲間と巡り会えたものだ。わたしも、さつきちゃんも。







さつきちゃんを始め順に風呂に入った彼らはテレビを見たりお菓子をたべたりと各々自由に過ごしている。
渡した着替えのサイズも良かったようで一安心。紫原の体のサイズも不安だったけど問題無し。さつきちゃんも大丈夫だったようだ。



さて、夕食を作ろう。台所に向かえば「手伝います」と黒子が隣に立つ。
さつきちゃんも気を使って手伝うと言ってくれけど、前に青峰が言っていた「兵器を作り出す」という言葉を思い出してやんわりとお断りさせてもらった。
気持ちだけ受け取っておこう。




「野菜切るだけだけど」
「ボクも料理はそうしないので…切るだけだとありがたいです。」
「得意料理は?」
「ゆで卵です」
「茹でるだけだね」




半熟卵とか作るのがうまいってことなのか。気になったけど聞かないことにしよう。



「今日は押しかけてしまってすみませんでした。ご両親は大丈夫ですか?」
「大丈夫大丈夫、さすがにこんな大雪の中帰れなんて言うほど鬼じゃないし。親も今日は仕事で帰ってこないみたいだから」




少し間を空けて「そうですか、」と野菜を切る。テレビを見てかケラケラと笑う青峰の声が聞こえる中、2人で野菜を切る。





「一人が多いんですか?」
「ん?」
「やけに手慣れているので」
「ああ、まあ少なくはないかな。お父さんよく遠方までいくから」
「…そうですか」
「さ、さみしくないから大丈夫だからね。そんな顔しなくても。」
「…ボクそんな顔してましたか?」





急に眉を下げて笑うもんだから、気を使わせてしまったのかとびっくりした。
たしかに一人は多いけど、昔から一緒にいるときには鬱陶しいくらい構ってくるから何にも問題ない。
未だに一緒に寝ようといってくるくらいだし。そう話せば「柴田さんがそんな風に育った理由がわかりました」と口角を上げた。


ふと外を見ればまだ大雪だ。
そんなところでひとつの疑問が浮かぶ。




「赤司くんと緑間大丈夫かな」



そう言葉を漏らせば「まだ学校かもしれないですね」と同じく黒子が外を眺める。

前に赤司くんと帰った時私より家遠かったよな、緑間はわからないけど…
「ごめん切っててくれる?」そう黒子に伝え手を洗ってから携帯を手に取る。
カチカチと彼の名前を探し、通話ボタンを押して携帯を耳につける。




『もしもし』



3コール目のあと、
よく聞く声が耳に響いた。赤司くんだ。




「柴田です。」
『ああ、わかるよ。どうした?』
「えっと…もう学校出たかな?」
『いや、今出ようとしてるところだが。…どうも大雪でね』





ほう、タイミングは良かったらしい。表情は見えずとも、困っている様子が声色から伺えた。
外はもうすでに雪が積もっている。「緑間は?」と聞けば『一緒にいるよ』とのこと。
なるほど、ちょうどいい。




「赤司くんたち、よかったら家に来ない?」
『…柴田の家か?』
「うん、止みそうにないし。赤司くんわたしより家遠かったよね」
『…そうだな。ありがたいが、迷惑にならないか?』
「いや、それならお気遣いなく。もうすでに賑やかなことになってるしね」
『賑やか?』



赤司くんの不思議そうな声に頬が緩む。スピーカーにしてリビングに向かい、くつろぐメンバーに「赤司くん」と伝え、何か喋って、とジェスチャーで伝える。





「え?赤司?ずっと学校いたのかよ!なんか鍋やるらしいから来いよ!」
「赤司く〜ん!ミドリ〜ン!楽しいよ〜!」
「、ばか!重ぇよさつきっ!」
「重いってなによ!女の子に言うこと!?」
「え?赤ちん?ミドちんも?こっち来るの〜?お腹すいたでしょ〜早くおいでよ」




きゃっきゃと盛り上がる彼らの言葉に赤司くんが笑う声が聞こえる。そんな赤司くんの笑い声の後ろで『うるさいのだよ』と緑間の声。




『なるほど、勢揃いだな』





くつくつと笑う赤司くん。




「二人増えても変わらないっていうか…あ、黒子もちゃんといるからね」
『それじゃあ、お言葉に甘えよう』
「うん、待ってるね」





そう言いお互いに電話を切る。「赤司、家知ってるのかよ?」という青峰の問いかけに短く返事をすれば「ふうん?」と再びテレビに目を向ける。
「柴田さん」黒子の呼びかけに視線を向ければ綺麗に並んだ野菜が乗った土鍋を持って黒子が立っていた。



「ご、ごめん。終わっちゃった?」


そう聞けば「いえ、お邪魔してるので当然です」と無表情で言う。
青峰と紫原に聞かせてやりたい。別に手伝いを望んでもいないからかまわないけど。
テーブルにコンロを置き大きな土鍋を置く。うん、二人暮らしだからこんな大きいのはいらないと思ったけど買っておいてよかった。






「あ〜腹減った」
「青峰くんテレビみて笑ってただけじゃない!」
「笑えば腹が減るんだよ」
「赤ちんとミドちん早く来ないかな〜」







みんなで鍋を囲み、カチ、と火をつける。
野菜が柔らかくなる頃には彼らも来ることだろう。






さて、あとは彼らを待つだけだ。








あきゅろす。
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