[携帯モード] [URL送信]

無くしたもの
11 キセキを招く





ヴヴ、ポッケの中で小刻みに震える携帯を手に取り静かに画面を開く。どうやらメッセージが来たらしい。
授業中にメールしてくるとは、誰だろ。







『すまないけど、今日も試合があるから留守にする。ジムは今日は閉めてあるから安心してね。遠くまで行くから、今日は帰れないよ。しっかりご飯食べてね。


父より』







ふむ、授業中にメールしてきたふとどき者はどうやら父だったようだ。
『わかったよ、がんばれ』とだけ打って送信ボタンを押し携帯を閉じる。
今日は1人か。買い物して帰ろう。












さて、帰ろうかな。今日は黄瀬もモデルの仕事で学校に来ていないし、課題もないため学校に残る意味もそう無い。大人しく今日はスーパーに寄って帰るか。
カバンを持って椅子から立ち上がれば隣でエナメルバッグを肩にかけた黒子が不思議そうにわたしを見る。





「もう帰るんですか?」
「うん、寄りたいところがあって。黒子はこれから部活?」
「はい、途中まで一緒に行きましょう」
「そうだね、紫原は?」
「寝てます」





ほら、と黒子が視線を後ろに向ける。
視線の先には大きい体を丸めて眠る紫原。ほんとにこいつは。バスケしてお菓子食べて寝るためだけに学校に来てるのか。寝てるくせに試験の結果は毎回いいから羨ましい。


まったく、仕方ない。





「紫原、おきなよ。赤司くんにどやされるよ。赤司くんの言うことは絶対なんでしょ」
「……んあ?」





紫原の頭をもさもさとかき乱して声をかければいつも以上にやる気の見られない顔をした紫原と視線がぶつかった。





「……でぶちんじゃん」
「だれがでぶちんだ」
「いてーし」




ぺち、と紫原の頭を叩く。いい音。
はあ、と一つため息をこぼした紫原は頭をかきながら身体を起こして伸びをする。相変わらずでけーな。





「…ん?紫原また大きくなった?」
「しばちんがちいさいだけでしょー」
「160pはあるけどわたし」
「チビじゃん」
「紫原からしたらみんなチビでしょ」






立ち上がった紫原を見上げれば相変わらずいつものように見下ろされる。いいなあ、と呟けば「女性だから柴田さんはいいでしょう」と黒子。まあね。三人そろって廊下に出ればちょうど先を歩いていた緑色と青色の頭を見つけた。








「青峰〜緑間〜」
「ん?おう、なんだよ三人そろって」
「余計なものをつれてくるのはやめるのだよ」
「……わたしのことか」
「すみません、害のないようにします」
「こら」
「でぶちん見てると目が疲れる」
「もうお菓子あげないからね」
「げっ!ごめんて!怒んないでよー」
「お前らほんと仲いーよな」






慌てて謝る紫原を無視して廊下を歩く。楽しいなあ。みんな個性がありすぎてバラバラなのに、うまいことチームでプレイができるから不思議だ。一周回ってまとまるのか。





「あ、わたし帰るね」
「え、部活見てかねーの?さつきが最近付き合い悪いってボヤいてたぞ」
「げ、今夜メールするって言っといて」
「しょーがねーな、今度パン奢れよ!」
「オレんまい棒ー」
「僕バニラシェイクで」
「お汁粉でいいのだよ」
「こんな時にばっか息合わせるなよ!打ち合わせでもしてんのか!」



「冗談ですよ、気をつけて帰ってください」
「じゃーねしばちん」
「じゃーな!」
「信号はちゃんと右左右確認するのだよ」
「はいはい、君らも部活がんばってね」







お互い手を振りながら別の道を進む。ほんとに賑やかな人たちだ。
彼らと出会わなかったらわたしはどんな毎日を過ごしていたのだろうか。














「(何作ろう…一人だし炒飯にスープでもつくろうかな)」






彼らと別れた後、ふと亀蔵のことを思い出し生物室へ寄り椅子に座ったが最後、どうにも腰をあげるのが億劫になってしまいついついいつもと同じ時間まで学校に残ってしまった。気付いた時にはもうすでに日も暮れ、特に慌てることもなく学校を後にし、スーパーで買い物をする今に至る。








「(オムライスでもいいな、久しぶりにふわふわ卵でつくろうかな)」





安い卵は…どこだ。あった、こっちのが30円安いじゃないか。卵を手に取り持っていたカゴに入れる、ところで何かに邪魔されて卵はわたしの手に収まったまま。


ん?なんだ?視線をカゴに向ければわたしのカゴの中にはポテトチップス。あれ、なんで?カゴに伸ばされた腕を辿って顔をあげれば目の前に居たのは紫色の頭をした巨人。






「なん!!?なにしてるの!?」
「あれー、ばれた?」
「ばれたじゃないよ!ばれるわ!ちょ、どういうことだ!なんかカゴ重いと思ったら!」






なんでこんなところに。驚きすぎて言葉がうまくでてこない。そんなわたしを見下して紫原はカゴの中をガサガサと物色する。

なにやってんのこの子ほんとに!








「えっとー、んまい棒でしょ、ポテトチップスにー、あ、ポテトチップス明太チーズ味出てたから買わないとと思ってー」
「き、聞いてない!そんな事は聞いてない!部活!部活は!?」







「さぼりか!赤司くんに言うよ!」そう言えばめんどくさい、とでも言うように彼は口を尖らせわたしを見る。…ほんと神出鬼没だ。

黙ったまま口を開かない紫原に疑問を抱きながら歩き出せば「どこいくの」と巨人が後を追ってくる。
どこってなんだどこって。足を止めたのはお菓子コーナー。むすっと明らかに不機嫌になった紫原を見上げて考える。……こいつ。






「……お菓子は200円までね」




そう小さく呟けばむすっとしてた表情から一転、ぱあっと顔を綻ばせた。
おい、かわいいなんて言わないからな。





「さすがしばちん。太っ腹ー」
「…なんか悪意を感じるな」
「なににしよっかなー」
「…わたし野菜コーナーにいるから、終わったら来てね」






「はいはーい」気だるそうに返事をしてお菓子を手に取る紫原を置いて一人野菜コーナーに向かう。

玉ねぎあったっけ?あった気もするなあ、うーん。野菜コーナーで玉ねぎを探す。お、あった。手に取り再び考える。まあ、一つ買ってけばいっか。カゴに玉ねぎを一玉ほおりこみ再び歩き出す。
しかし本当になぜ紫原がいるのか。もう部活は終わったのだろうか。なんでスーパーに?わけがわからん。





ふう、一つため息を吐き出していつまでも戻ってこない彼の元へ向かう。
いつまで選んでるんだよ、お菓子に執着しすぎじゃないのかな。






「むらさ、ぶっ」





曲がり角を曲がってお菓子コーナーに足を運ぼうとすれば、同時に出てきた人影にぶつかる。
くそう、災難ばかりだ…。豪快にぶつけた鼻を押さえ、一言謝ろうと思い顔をあげる。






「あ、わりぃ、…って柴田じゃねーか!」
「……青峰」





まさかの青峰。








「青峰くん、何やってるんですか。…柴田さん、なんでこんなところに」
「テツくんどうしたの?あ!ゆうちゃん!!も〜全然来てくれないんだからあ!」
「え、さつきちゃんもいたの?」





青峰の後ろからひょっこりと顔を覗かせたのは黒子。わたしも黒子もきょとん、と目を丸くする。なんだ、みんないるのか。

その奥からお菓子を持った紫原がのそりと姿をあらわす。……みんな居るってなんで言わないのだろうか。
そんな疑問を胸に抱いて紫原を見上げれば「言ってなかったっけ?」と紫原。とぼけてるのか……紫原のことだから無意識だろう。




わたしにたからずに青峰とかに言えばいいのに。わたしは彼にとって財布扱いなのだろうか。そんなわたしの顔を見て笑みを浮かべたた青峰が「ちょっとオレアイスみてくるわ」と一言残し、隣を通り過ぎる。アイスって、今冬ですけど。







「みんな揃って何してるの?」
「むっくんがスーパーでしか手に入らないお菓子があるからって言うから来たの!」
「部活ってこんな終わるの早かった?」
「ううん、今日は特別。もうすぐ雪で荒れるからって、監督が部活切り上げたの」
「え、雪降るんだ。」

「あ、赤司くんとミドリンはまだ学校にいるみたい。なんだか虹村先輩からお呼び出しがあったみたいで」





近くにいたさつきちゃんに疑問をぶつける。
紫原とはまともに会話が成立するとは思えない。なるほど、と頷けば隣にいた紫原がわたしのカゴにお菓子を放り込む。


そのまま持っていたカゴをわたしから奪うと「他何買うの〜」とわたしの隣を通り過ぎる。……こう言う優しい一面を見せられるとついついわたしも甘やかしてしまう。




「……あ」黒子が呟く。



「ん?」
「雪、降ってきましたね」




黒子が見る先は外。いつから降ってたのか結構な本降りだ。げ、と言葉を漏らせば「もう降って来ちゃったんだ」とさつきちゃん。




「うわ!ガチで降ってるじゃねえか」アイスを持ってやって来た青峰が眉をひそめる。アイスはわたしのカゴの中に放り込まれた。
もう何も言うまい。






「わたし家近いからいいけど、みんな早く帰らないとでしょ。お菓子はまた今度買うから今日はもう行ったら?」
「…そうですね。」
「誰か傘持ってる?」





さつきちゃんの問いかけに「オレ持ってなーい」と紫原。続いて「邪魔になるから持ってきてねぇ」と青峰が言う。黒子も首を横に降って黙りこくった。
なんで4人中4人が持ってきてないのか。

ちらりと外に視線を向ければ雪はどか降り。
これは止みそうにないぞ。
さすがにこの雪の中放り出して1人帰るほど私も鬼ではない。さつきちゃんもいる事だし。

……となればする事はひとつだ。








「わたしの家くる?」





丸い目をした5人がわたしを見る。
お、そろった。






あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!