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無くしたもの
01 毎日こう






暖房がついた教室はなぜこんも眠くなるのか。
つまらない授業を聞き流しながら頬杖をつき、うつらうつらと船をこぐのはいつものこと。最初のうちは私だって一生懸命授業をする先生のことを考えれば寝るのは申し訳ないとおもったし、それなりに眠気を追い払おうと様々な方法を考えたりした。





「(あーねむい、ねむい、もうだめ)」




ごん、小さく音を立ててわたしの額は机の上に広がるノートとこんにちわする。眠気には勝てないわ。無理だ、無理はよくないと思う。ごめん先生、そんな事を考えながら伏せた顔を何気なく右に向ければ1人の男の子と目が合う。しばらくたった今、これもよくあることだ。




「…なに、黒子」
「いえ、今日は何時もよりもへばるのが早いなあ、と」



彼が私に語りかけてくるのもいつものことである。「あれ?朝からいた?」顔を上げてそう問いかければ「…いました」と少し不服そうに答える。彼の名前は黒子テツヤといい、バスケ部の一軍とやらに所属しているなかなかの強者らしい。入学してからしばらくは、隣の席ということで仲良かったため彼のバスケに関しての悩みを聞くことも多かった。が、もう大丈夫らしい。影が薄くて得したとかなんとか。今でもわたしはたまに気付かない。たまにね。





「いつもより早いってわたしのことそんなに観察してるの?やめてよ黒子く〜ん 」
「やめてください、気味が悪い」
「つめたっ」
「毎日隣でうとうと揺れられたらそれは嫌でも目に入りますよ」
「黒子もそろそろ寝ると思うよわたしは」
「そんな先生に申し訳ないことはできません。君と一緒にしないでください」
「君昨日朝から昼放課まで寝てたよね」
「さあ、夢じゃないですか」
「おい」






夢って、流石に夢じゃないでしょ。え、夢じゃないよね?不安になって黒子に問い詰めれば鼻で笑ってまた黒板に目を向けた。無視するなよ、寂しいじゃん。あー黒子に茶々入れられたら目が覚めた。なかなかやるな透明少年。あくびを一つし、机に伏せていた身体を起こして再び頬杖をつく。






「ねえ黒子」
「…なんですか?」
「黒子と話してたら目覚めちゃった」
「よかったじゃないですか、もうこれで勉強できますね。それじゃ」
「え」





私との会話を早々と切り上げ黒子はシャーペンを手から離す。それじゃってなに?黒子を隣で見つめているとわずか30秒後、彼は静かに寝息を立て始めた。





「(寝てるじゃねーか!)」






私の目を覚まさせといてそんなひどいことするの?このつまらない授業は起きてても私にとっては無意味なの、わたしもどうせなら寝たかったの。このままでは納得がいかない。
どうにかして彼を起こせないだろうか。






「(…そうだ、こういう時にはあいつだ)」






机の下で携帯を起動させる。私の席は後ろの方だから他の生徒からばれたとしても先生にはばれまい。ふふん、こういう時には奴と連携をとるに限る。カチカチ、隣でそれはそれは気持ちよさそうに眠る黒子をみて笑みを漏らす。今の時代ならば必ずほとんどの若者がやっているであろう、BINEを開きある人物の名前を探す。




「(あ、あ、青峰、あった)」






柴田: 青峰!至急!!!





青峰ならば良い案を出してくれるはずだ、まあ彼も授業中寝ることが多いため返事が来るとは限らないが。
メッセージを送り終わって視線を黒板に向ける。ヴヴ、と小さく携帯が震える。どうやら彼は珍しく起きていたらしい。ラッキー。





青峰: なんだよ



柴田: 黒子が寝てるんだよ、隣で


青峰: 部活ハードだからな


柴田: どうにかして起こしてあげようと思う


青峰: まじで?鬼だなお前


柴田: 私さっき起こされたから、仕返し


青峰: テツには悪いけど楽しそうだな







さすが青峰である。あっさりと乗ってきた。
私と同じようにやる気満々の青峰は、黒子が今どんな体制をして寝ているかなどと事細かく聞いてきた。そのやる気が勉強に向けられれば毎回試験直前で焦ることもなくなるだろうに。






青峰: 肩肘ついて寝てるならその手払っちまえばおきるんじゃねえの?


柴田: あーたしかに。やってみるわ。


青峰: おー、結果は昼に教えろよ。


柴田: はーい、ありがと!


青峰: おう、おやすみ







お前も寝るのかよ、起きてたわけじゃなくてこれから寝るところだったらしい。タイミング良かったようだ。携帯をしまって黒子をみる。相変わらずすやすやと肩肘ついて眠っている。狙うべきは先生が黒板を書き始めるとき、いわば生徒から目を話す瞬間だ。





「……はい、これから板書していくからな、しっかり書けよ。」


「(よし来い)」






先生が私たちに背を向け板書を始める。その瞬間にわたしは静かに黒子の机にむかって身を乗りだす。腕を伸ばし、黒子の顔を支えている手を掴む。ふふふ、いくぞいくぞ、


3


2


1



ゴン!!!




「あ」






自分一人で寂しくカウントダウンをし、ゼロになったと同時に黒子の顔を支えている腕を払う。支えをなくした黒子の顔はそれはそれはもう鈍い音を立てて机とこんにちわした。
やばい、思った以上にやばい。音もそうだけど何よりも顔をぶつけることはないと思ってた。いや、運動部だし、反射とかすごいのかなっておもったんだけど。





「………」
「………あの…」




机に顔をぶつけた状態のまましばらく動かない黒子。思ってた以上に鈍い音を立ててしまったため、クラスの生徒の視線は私と黒子に集まっている。板書に一生懸命の先生は気付いてないようだが。


それからしばらく動かなかった黒子は顔を上げ、わたしに視線を向ける。おでこが赤くなっている。なんてことだ。





「……何か言うことはありますか」
「……すみませんでした、本当に。」





いつにも増して無表情でいう黒子。無表情だけど目が語っている。人殺しの目をしてる。
そんな私と黒子をみてクラスメイトはクスクスと笑う。笑えない、これは笑えない。






「あとから話をしましょう」
「ごめんなさい」
「いえ、いいんです。この授業が終わったら教室の外で話しましょう」
「………」






絶対いいと思ってない。この授業が終わったら私は確実に殺られる。黒子の目がギラギラしてる、見たことないよこんな殺伐とした黒子。





「(やばいやばいやばい青峰やばいよ)」






いや、授業が終わるまでまだ大分時間はある。その間にどうにか策を練ろう。まだできることはあるはず。これが先生にばれていれば黒子共々わたしは教室を出され処刑時間は早まっただろうが、バレてないのだ。なんとかなるはず、どうする






「先生〜」




後ろの方で聞き覚えのある声が聞こえる。振り返れば背が高いために後ろの席に移動させられた紫色の巨人が手をあげていた。






「ん?なんだ紫原、質問か?」





「さっきから柴ちんと黒ちんがずっとふざけてて授業に集中できないんだけど〜」





おいおいおいおい、さっきまで寝てただろ!やめろ!今外に出されたら私は





「…まったく本当にお前たちは落ち着きがないな、授業を受ける気がないなら外に出てろ!」
「いや、あの、ごめ」
「すみませんでした、反省してきます」
「え」






先生の言葉に黒子は迷うことなく椅子を引き立ち上がる。そして私に視線をよこし、唖然と見つめ返す私の腕を掴み立ち上がらせ引きずるように教室の扉に向かっていく。


もう逃げられないようだ。
黒子に引っ張られながら呆然と視線を泳がせれば、紫原と目が合う。
黒子が扉を開き外に出る瞬間私が最後に見たものは、それはそれは楽しそうに笑う紫原の顔だった。



あきゅろす。
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