互いの心互い知らず(5000hit記念作品・シグはや)
「ははっ!冷たくて気持ちーっ」
「転ばないでくださいね」
私は我が主と海に来ていた。
珍しく二人きりで。
主は白いワンピースに麦わら帽子。
対して私は白いシャツにジーンズというラフな格好だ。
浜辺に着いた途端、主は履いていたビーチサンダルを投げ捨てて、海へと駆けていったのだ。
私は主のサンダルを拾い、後を追う。
「シグナムも入らへん?足、気持ちーでー?」
「いえ、私は…」
「そうなん?…ふふっ」
無邪気に海水と戯れる姿に、つい目を奪われた。
こんなに純真に、子供っぽい笑顔は久しぶりに見た気がする。
最近は、大人びた表情ばかりしか見せてくれなかったので少し安心した。
しかし同時に、それ以上に何か愛おしく特別な気持ちも湧き上がる。
最近気づいたこの感情。
自分でもまだ、この感情が何なのか理解していない。
「ん?どうかしたん?」
「あ、いえ、その…う、海が綺麗だなと…」
我ながら似合わない台詞だと思った。
「ほんまやねぇ」
そんなことは気にもせずに、主は海を見渡す。
「ヴィータたちにも見せてやりたかったなぁ」
「そうですね…今日は私たちだけ仕事が休みですから」
「何か私だけのんびり遊んでて、悪いなぁ」
「いえ、主は普段全く休暇を取られないのですから、今ぐらい羽を伸ばさないといけませんよ」
「そうかー?じゃあお言葉に甘えて目一杯遊ぼうかな?」
主はくすくす笑って、また海水と戯れる。
しばらく海を見つめていたと思うと、主がぽつりと言った。
「…シグナム、ちょっと甘えてもええかな?」
「はい、かまいませんよ」
主の頬は少し朱を帯びていた。
「手、繋いでくれへん?」
「…どうぞ」
手を差し出すと、へへ、と照れながら私の手を握った主が、また愛おしくてたまらなかった。
それから二人で浜辺をゆっくりと、たわいもない話をしながら歩いた。
今日の晩ご飯のこと。
最近アギトが八神家に馴染んできてくれたこと。
仕事の休憩時間何をしているかとか。
本当に本当にささやかな話。
「なぁ、シグナム」
「何ですか?」
主は立ち止まって海を見つめた。
その顔は伺えない。
「私、あの頃に比べて強くなれとるかな?」
「……」
あの頃、とは闇の書事件の頃のことだろう。
あの事件で私たちはやっとできた家族を一人失った。
「はい、ずっと、ずっと強くなられてます」
「そうかー?でもまだ一人じゃろくに何も守れへん」
主は顔を俯いて足元を見る。
顔は笑っているようだったが、声が沈んでいた。
主のひとりで抱え込む癖が実直に表れていた。
ああ、もっと人を頼って欲しい!
「ひとりで守れなくてもいいんですよ」
「へ?」
「だって主はやてには私たちがついているんですから」
そう、主がひとりで苦しまないために、私たち守護騎士たちが、家族がいるのだ。
そうか、わかった。
主をこんなに愛おしく思うのも、家族としての愛情からなのか!
細い肩を抱きしめたいとか。
気づくといつも主を目で追っているのも、みんな。
これら全て、家族としての愛情からなのだな!(後でシャマルにそう言ったら呆れてため息をつかれたが、それはなぜだろう)
「…そっか、そうやな。うちには家族がおるもんなっ」
嬉しそうにぱぁっと、笑ってくれた。
「家族は時に壁やな」
と、直後に苦笑いをして小さく呟いていたが、よくわからなかった。
そして、主は繋いでいる手の指を絡め直してぎゅっと握った。
「シグナム、ずっと一緒におってくれる?」
「一緒にいれない理由がありません」
二人でふふふ、と笑った。
「もう少し歩こうか」
「はい、仰せのままに」
二人分だけの足跡が長く続いていた。
end
あとがき
シグはやです。
シグはやというよりシグ→←はやという感じ?
途中自分何書いてんだかわからなくなりました。
とりあえずシグナムは恐ろしく鈍感がいいなと。(^O^)
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