恋のプロローグ(はやヴィヴィ)
子供の頃読んだ本で、恋にまつわるお話は大抵、王子様とお姫様のお話だった。
自分も、さも当たり前のように受け入れていた。今までは。
物語のような恋でも、相手が王子様とお姫様とは限らないということに気がついたのだ。
そう、例えば十九歳と五歳とか…。
「ただいまー」
「ただいまですーっ」
「おかえりはやて、リィン」
家に帰るとヴィータがすぐ出迎えてくれた。
「さ、はやてちゃんっ制服がしわにならないうちに着替えちゃってくださいねっ」
「はいはい了解やリィン。なんや最近リィンはしっかり者になってきたなぁ」
「リィンは昔からしっかり者ですよーっ」
「うそつけ。最初は赤ん坊みたいだったじゃねーか」
「そんなことないですよーっ!」
ヴィータとリィンのやりとりを微笑ましく思って見ていると、リィンが思い出したように言った。
「あ、はやてちゃん。今日ヴィヴィオがお泊り来るんじゃなかったですか?」
「あ、そやそや。忘れるとこやった」
そう、今日はヴィヴィオがうちに泊まりに来る予定である。
前にヴィヴィオが来たとき、うちに置いてある本を気に入ったらしく、その後も本を読みによくうちに泊りがけで来るようになった。
シャワーを浴びて、ロングスカート型のパーカーの部屋着に着替え、晩御飯の仕度をする。
シグナムとシャマルは出張で今日は帰ってこないので、私とヴィータ、リィン、それとヴィヴィオの四人分を用意しなくてはいけない。
「おし、こんなもんかな」
エプロンをはずしながら、ふぅっと一息つく。
テーブルには料理綺麗に並べられている。
今日はヴィヴィオが大好物なハンバーグ。
「ん、なんやヴィータ?そないな難しい顔して。」
「べ、別に…」
気づくとヴィータが微妙な表情でテーブルに並べられている料理を見つめていた。
「あ、きっとヴィータちゃんやきもち焼いてるんですよ!」
「は、はぁ!?」
「…ははーん、なるほどなぁ」
最近ヴィヴィオよくうち来るから、私をとられてる気がしちゃったんやな?
「もーう、別にヴィータのこと忘れとらんよー?」
「ちょ、はやてっ別にあたしそんなんじゃ…!」
ヴィータに抱きついて頭をわしゃわしゃ撫でる。
ヴィータは恥ずかしくて逃げようとするけど、可愛いので放してあげない。
そうこうしているうちにピンポーンと音が鳴った。
どうやらヴィヴィオが来たようだ。
「あ、はいはーい」
ヴィータを放してあげて玄関に向かい、ドアを開ける。
「こんばんわ、はやてちゃん」
「こんばんわー」
「こんばんわ、なのはちゃん、ヴィヴィオ」
「なんかいつもごめんね、はやてちゃん」
申し訳なさそうになのはちゃんが言った。
「あーかまへん、かまへん。ヴィヴィオが来てくれるとすごい楽しいし。むしろ毎日来てもらいたいくらいや」
「はははっ」
「まぁ、なのはちゃんもフェイトちゃんとゆっくりお楽しみしててや」
「ちょ、はやてちゃん!」
「なはは」
明日のなのはちゃんの書類作業、減らしといてあげよう。
「もう…。それじゃはやてちゃん、ヴィヴィオのことよろしくね」
「はやてさん、今日もよろしくおねがいします」
「はいはい、お願いされますっ」
「ヴィヴィオいい子にしてるんだよ?」
「うん!」
「じゃあまた明日」
なのはちゃんを見送り、ヴィヴィオと家の中に入る。
「それじゃあ、先にご飯とお風呂すませちゃおか」
「はーいっ」
「今日はヴィヴィオが大好きなはやてさん特製ハンバーグやでー?」
「わーいっはやてさんのハンバーグ大好き!ありがとうございます!」
「ふふっ。さ、リィンもヴィータも一緒にご飯食べよー」
「はぁいですっ」
「おー」
食事中、ヴィータもリィンもヴィヴィオも口の周りに同じようにソースをつけながら美味しそうに食べているので、楽しくてしょうがなかった。
ご飯を食べ、三人がお風呂に入っている間に、今日読む本を探す。
ヴィヴィオがお泊り来るようになってからは、ヴィータたちも本を読むようになったので、いい傾向だと感じている。
「私今日なに読もうー…。これ読んだし、あれも読んだしなぁ…」
ぶつぶつ言いながら本を探していると、後ろからヴィヴィオに声をかけられた。
「はやてさん」
「おーヴィヴィオお風呂あがったんかー」
「はいっ」
「ん、ヴィータとリィンは?」
「むこうでアイス食べてます」
「ヴィヴィオはアイス食べないん?」
「ヴィヴィオ、おなかいっぱいだから…」
「あぁ、まぁあの二人の胃袋はSランクものやからなぁ」
ヴィータとリィンは八神家の中でも一二を争う大ぐらいだ。
「あ、はいこれヴィヴィオが読みたがってた『日本昔話』」
「あっ、ありがとうございます!」
ヴィヴィオは嬉しそうに本を抱える。
子供って純真無垢で可愛ええなぁ。
しかしこんなことを思っていられるのも今のうちだけだった。
そう、ヴィヴィオがあんなことを言い出すまでは…。
「はやてさんのおうち、本がたくさんあっていいなぁ」
「そかー?そんならヴィヴィオうちの子になるかー?」
「いいの!?」
「へ?」
「じゃあヴィヴィオ、はやてさんの『およめさん』になる!」
「…えええっぇぇぇぇええ!?」
笑いながら、冗談のつもりで言ったのに。
ヴィヴィオの目は本気と書いてマジと呼ぶほど真剣だった。
「ヴィ、ヴィヴィオ?うちの本が好きなのは嬉しいけど、お嫁さんはどうかなぁ?」
「本だけじゃなくて、はやてさんも大好きなんです!だって、『およめさん』て、大好きな人にならなれるんですよね?」
「え、え、まぁ、そうやけど…」
「それじゃヴィヴィオ、はやてさんの『およめさん』になれますね!」
状況の展開が速すぎて、頭がついてこない。
これは私はどないするべきなんやーっ!?
するとヴィヴィオが手招きしてきた。
「はやてさん、はやてさん」
「え、え、なんや?」
とりあえず言われたとおりヴィヴィオの目線に合わせてしゃがむ。
すると、ほっぺに柔らかい感触。
びっくりして固まってしまったように体が動かなかった。
「ヴィヴィオはやくおとなになるからそれまで待っててくださいね!」
笑顔で私に『嫁宣言』するヴィヴィオ。
明日なのはちゃんにどんな顔して会えばいいんや…。
物語のような恋なんて期待していなかったし、想像もしていなかった。
でもここに、そんな物語のような恋が一ページめくられ、始まろうとしている。
自分では気づいていなかったけど、確実に小さな恋の物語が生まれた瞬間なのだった。
王子様とお姫様ではなく、十九歳と五歳だけども。
end
あとがき
はやヴィヴィというより、はや←ヴィヴィという感じでしたが。(しかも若干ギャグちっくに…!)
櫻田的には、ヴィヴィオはお母さんそっくりの誘い受k(ry
はやては基本へタレです。受けるときも攻めるときも。
はい、はやて総受けが大好きです(告白)
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