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夕暮れセンチメンタリズム(アリはや)
「あ…」
「おー、お疲れー」



今日は委員会だっからすっかり遅くなってしまった。
塾の予定が入っているすずかは先に帰ったし、残る三人も今日は朝から管理局の仕事。



の、はずなのに。




「なんでいんの?」




鞄を取りに夕暮れの朱に染まった教室へ入ると、仕事でいないはずの彼女が私の席にゆったりと座っていたのだ。





「なんでいんの、は失礼やない?」
「仕事は?」
「うちのは早めに終わってしもたから先に上がらしてもろうた」
「…バカップルは?」
「まだかかりそうやったなぁー。まぁ、いちゃいちゃする二人待ってるよりは学校来た方がええかなって」





はやてはうーんっと背伸びをした。
どうやら少しお疲れのようである。目が少し、とろんとしていた。


私は徐に自分の席の前の席に座る。
はやてはうーっと唸って机に張り付いた。





「あんたこそお疲れみたいじゃない」
「まぁ、仕事をしてきた身やし」





いつものようにへにゃへにゃと笑う彼女に少し安堵感を覚える。


信じてはいるけど、やはり彼女たちの仕事は心配である。
特に、なのはの一件があって以来、余計に気にしてしまうのだ。




「…お疲れさま」




そう言って頭を撫でてやると、はやてはくすぐったそうに、またへにゃと笑った。





「なんやアリサちゃんが優しいんやけど」
「…私だって偶には優しくするわ」
「うん、知ってる」




アリサちゃんは見栄っ張りさんやもんな、とだらしない顔をして言うので、撫でる手を止めて代わりにでこぴんをお見舞いさせた。






「いったー、何すんねん」
「あんたがお喋りだからよ」




はやては口を尖らせ痛い痛いと額をさする。
その様子がなんだか小さな子供のようで少し可笑しかった。




「ほら、早く帰るわよ。暗くなっちゃう」
「…なぁ、さっき学校来た方がましって言ったやん?」




未だ机にへばりつく肩を叩いて下校を促すと、はやては唐突に口を開いた。
そのまま鞄を取って立ち上がるのを見て私も鞄を取って席を立つ。



「あれ、ほんまはアリサちゃんに会える気がしたからなんや」
「…そ」





はやてのなんとも言えない言い方に、私も歯切れの悪い返事をする。




廊下に出ると夕方の寒さが体中に染みた。


校内とは言え、人がいなくなると空気は外と変わらないくらい冷たくなる。



「ひゃー、やっぱり夕方は寒なるなぁ」



はやては寒そうにその小柄な体をさすった。
その手は雪のように白かった。




どれだけの時間、私を待っていたのだろうか。
ふと、そんなことが頭に浮かんだ。



長くあの寒い教室で待たせてしまったのだろうか。
そうだと決まっていなくても、急に申し訳ない気持ちになる。



謝るようにはやての手を取ると氷のように冷たかった。

ああ、待たせてしまったのか。



当の本人は吃驚した顔で手と私を交互に見た。





「なんや、ほんまどないしたん」
「ただの気まぐれよ」





それだけ言って私はその手を引いて昇降口へと向かった。

なのはとフェイトがするような指を絡めるものでなく、ただ握るだけ。



それでも充分互いの手の温度が伝わってきた。







外の木枯らしが頬撫でて初めて自分の頬が熱を持っていたことに気がついた。



目を合わせられなくてちらっと横目で見れば、はやての頬もほのかに赤くなっている。




それを見たとき、胸の中のもやもやした感情が静かに騒ぎ立てるのがわかった。


もうしばらくは彼女の顔をまともに見ることはできないだろう。






end




あとがき
踏み越えそうで踏み越えない中学生アリはやが書きたかったのです。マイナーとか無問題!\(^O^)/

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