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ラブファンブル

その二条が、今同じ場所にいる。
目を離すことができなかった。
そして、なんとなく周囲を見回していた二条と目が合う。

二条は俺に気付いて一瞬固まったけど、すぐに目を逸らした。

「……結城、知り合いか?」

楠田の質問を曖昧に濁す。

心臓が異常なほど脈打ってる。
他人扱いされるのなんて、当然だ。二条はきっと俺のことを相当恨んでる。
それでも、ショックだった。

もう一度二条の方に目をやる。
姿を見るのは、卒業式以来だ。
『かっこよくなったな』というのが第一印象だった。けど、二条はあんなに冷たい顔つきだっただろうか……?

いや、俺を見つけて機嫌が悪くなったのかもしれない。もう見るのはやめよう…

「ねぇ、結城くんって独り暮らし?」

「あ、いや…」

はじめに話しかけてくれた有香ちゃんと他愛もない話をしていると、有香ちゃんの友達もやってきた。

人数が増えて、周りの席順も入れ替わり立ち替わる。
俺の隣も、いつの間に有香ちゃんでなく他の女の子になってしまっていた。

「二条くんっていうのー?よろしくねー」

そして、二条がさっきよりずっと近くに来た。
女の子と話す二条の声が、はっきり聞こえる…

「二条くん、下の名前はなんていうの?」

「……るい」

「るいくんって呼んでもいい?」

「別に、いいけど」

やっぱり二条、冷たくなったな…
俺の前では丁寧で健気な奴だったのに。

「結城、なんか飲むか?」

「あ、あぁ…」

「あたしもお酒頼むー」

その後も、いろんな女の子と話をしたけど二条のことが気になって仕方なかった。

「るいくん、彼女いるの?」

「いたら来ちゃダメなんじゃないの?」

「いないんだーっ!!なんで?」

「なんでって……わからんよ」

背後で二条の声を盗み聴く。
俺の知ってる二条とあまりに違いすぎてるけど、どうなっているんだろうか…

「ゆーきくんっなんか喋ろー?」

あ、また言われてしまった…
見かねた楠田に「コイツ野球バカだったから喋り下手なんだよ」とフォローをいれられた。
すると女の子の、余計な一言。

「あ、二条くんも野球やってたんだよ!!」

どうやらこの子は二条の知り合いらしい。あまりの焦燥に何も言えずにいると、女の子がとうとう二条に向かって
「ねっ、二条くん」と話しかけてしまった。
万事休すだ…

「……何?」

「二条くん、この人も野球やってたんだって!!仲間だねっ」

振り向いた二条と、間近で顔を合わせてしまった。

二条…
今でもよく覚えてる。お前が懸命にボールを追う姿。屈託のない笑顔。そして……泣き叫ぶ声。
俺はお前の前に、存在してはいけない人間なのに…

「……そんな人、ごまんといるんじゃないの?」

二条が冷ややかに言い放った。

「ねぇ?結城さん」

「……あ…」

「二条つめたーい!!言い方ってもんがあるでしょー?」

「知らん」

二条は女の子から逃げるようにその場を離れた。
びっくりした…
これで実は出身校も同じなんて、バレたらどうなることかわからない。なるべく隠さなきゃな…

『結城さん』

あの時と同じ、二条の声。
だけど決定的に違う。二条はまるで他人かのように、初めて会ったかのように俺の名前を言った。

当然だ。これは当然のことなんだ。

わかっていても、どこか悲しかった。

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あきゅろす。
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