[携帯モード] [URL送信]

ラブファンブル

空高く、弧を描いて落ちていくボール。
甲子園予選敗退と共に、俺たちの野球人生は終わった。

「……結城さん」

「二条、どうした?」

引退の日。俺は夜まで部室に残っていた。仲間と過ごしたこの場所で、余韻に浸っていたかったのだ。

10年続けた野球。もう、サヨナラなんだ。

「部室の灯りがついてたので……すみません」

「別にいいよ」

二条は俺の一個下で、もちろん野球部の部員だった。

「結城さん。キャプテン、本当にお疲れさまでした」

「ん?ありがとな」

「僕、結城さんがキャプテンで良かったって……いっつも思ってたんです」

「そんなことねぇよ。もっと適任はいっぱいいたって」

「そんな!!だって結城さんは、いつも僕たちのこと考えてくれてて……ずっと、僕の憧れでした」

「……二条」

嬉しかった。
二条の、俺への憧れが格段と強いことはなんとなく知っていた。他の部員たちに俺のことを熱く語っていたと聞いたことがある。

そして、俺もまた二条の好意が嬉しかった。
嬉しくて嬉しくて

頭がどうかしていた。

「二条……俺も、お前みたいな部員がいて良かった」

「……結城さん、そんな…」

「本当だ。お前は本当によく頑張ってるし……可愛い後輩だった」

必死になってわけのわからないことを言ってしまったけど、二条は目を潤ませて「ありがとうございます」と呟いた。

「……二条」

「結城さん?」

この瞬間、俺の頭の中は真っ白になった。

気がついたら二条を押し倒して、腕を押さえつけていた。二条は必死に抵抗していたけど、体格差からしても無駄なことは明らかだった。

「やっ……結城さん!?待っ…」

『ごめん』と謝るのは、ズルい気がした。
だから口を開くことなく、俺は二条のベルトを外した。

「結城さん!!だめっ……あっ!!」

二条のそれを、俺は見たことがなかった。
着替え中、合宿のお風呂、見る機会なんていくらでもあったのに……きっと、無意識に見ないようにしていたんだと思う。

見たら、こんな感情が沸き起こるってわかっていたからだ。

「二条……二条…」

「い、やっ……結城……さん……触っちゃ、だめっ…」

あの夏、
『キャプテン』を辞めた日。

俺は、二条の『憧れ』を辞めた。
俺は、二条の体を自分のものにしたかった。

そして、
二条の中の俺は死んだのだ。

[*前へ][次へ#]
[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!