ラブファンブル
2
空高く、弧を描いて落ちていくボール。
甲子園予選敗退と共に、俺たちの野球人生は終わった。
「……結城さん」
「二条、どうした?」
引退の日。俺は夜まで部室に残っていた。仲間と過ごしたこの場所で、余韻に浸っていたかったのだ。
10年続けた野球。もう、サヨナラなんだ。
「部室の灯りがついてたので……すみません」
「別にいいよ」
二条は俺の一個下で、もちろん野球部の部員だった。
「結城さん。キャプテン、本当にお疲れさまでした」
「ん?ありがとな」
「僕、結城さんがキャプテンで良かったって……いっつも思ってたんです」
「そんなことねぇよ。もっと適任はいっぱいいたって」
「そんな!!だって結城さんは、いつも僕たちのこと考えてくれてて……ずっと、僕の憧れでした」
「……二条」
嬉しかった。
二条の、俺への憧れが格段と強いことはなんとなく知っていた。他の部員たちに俺のことを熱く語っていたと聞いたことがある。
そして、俺もまた二条の好意が嬉しかった。
嬉しくて嬉しくて
頭がどうかしていた。
「二条……俺も、お前みたいな部員がいて良かった」
「……結城さん、そんな…」
「本当だ。お前は本当によく頑張ってるし……可愛い後輩だった」
必死になってわけのわからないことを言ってしまったけど、二条は目を潤ませて「ありがとうございます」と呟いた。
「……二条」
「結城さん?」
この瞬間、俺の頭の中は真っ白になった。
気がついたら二条を押し倒して、腕を押さえつけていた。二条は必死に抵抗していたけど、体格差からしても無駄なことは明らかだった。
「やっ……結城さん!?待っ…」
『ごめん』と謝るのは、ズルい気がした。
だから口を開くことなく、俺は二条のベルトを外した。
「結城さん!!だめっ……あっ!!」
二条のそれを、俺は見たことがなかった。
着替え中、合宿のお風呂、見る機会なんていくらでもあったのに……きっと、無意識に見ないようにしていたんだと思う。
見たら、こんな感情が沸き起こるってわかっていたからだ。
「二条……二条…」
「い、やっ……結城……さん……触っちゃ、だめっ…」
あの夏、
『キャプテン』を辞めた日。
俺は、二条の『憧れ』を辞めた。
俺は、二条の体を自分のものにしたかった。
そして、
二条の中の俺は死んだのだ。
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