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ラブファンブル

どっかの洋楽バンドを気取ったギタリストが、俺の想いを歌ってる。
青い春は過ぎてからじゃないと気付かない。
俺は、変わったかな。
あいつは、変わったかな。

「結城ー!!こっちこっち」

「あ、楠田…」

3年前の記憶が蘇る。
太陽に溶けていくボール。グラウンドと土の匂い。
そして、熱い恋をしたこと。
俺の中でまだ、あいつは泣き叫んでる。



『ラブファンブル』



「みなさーんジョッキ持ちましたかー?」

そう言って立ち上がったのは、大学の友達である、楠田亮太。
俺はその中で、混乱の中ジョッキを持たされていた。

数人の男女が返事をすると、楠田が「じゃあ今夜の素敵な出逢いに!!」と言ってジョッキを掲げた。

「乾杯!!」

グラス同士がぶつかる音。男女の視線が行き交う。

「……くすだぁ!!」

隣にいる楠田に、小声で怒鳴った。
楠田は状況をごまかすようにヘラヘラと笑っている。

「どう?結城、可愛い子いる?」

「どうもこうもない!!何が『大事な相談』だよ?合コンじゃないか!!」

楠田から電話で呼び出された時は、まさか騙されているとは思わなかった。

「ごめんごめん。どうしても人数が足りなくてさ…」

ほら呑めよ、と楠田がビール瓶を掲げる。

「いいよ、俺車で来たし……この一杯だけで」
乾杯用のジョッキを見せると、楠田に「車?バカじゃん」と笑われた。

「俺は、お前が切羽詰まった様子だったからっ……!!」

「まぁまぁ。結城、中学高校と野球一筋だったんだろ?俺はお前に、チャンスをあげたいんだよ」

「余計なお世話だ…」

「ここで頑張らないと一生童貞だぞっ」

「バカ、童貞じゃねぇって…」

「ちょっとそこ!!こそこそ話さないでよー」

正面に座っている女の子に諭されて、楠田はバツの悪そうな顔をした。

弱ったな。
帰るのは楠田に悪いけど、合コンなんていうノリに、俺がついていけるわけないのに。

「ねぇ、結城くんだっけ?」

さっき怒ってきた正面の女の子が、今度はニコニコと話し掛けてきた。
俺が頷くと、女の子が自己紹介してきた。その子は有香ちゃんというらしい。

「後でね、あたしの友達がもう一人来るんだぁ」

「え、じゃあ女の子の数が多くなるのか?」

そう尋ねると隣の楠田が割り込んできた。

「そこは大丈夫。男ももう一人来るから」

「そうなのか?誰?」

「井上の知り合い。そろそろ来るんじゃね?」

楠田は合コンに来てる友達の一人の名前を挙げた。
まだ増えるのか……ずいぶん騒がしくなりそうだけど、俺は大丈夫だろうか。

そんな心配をしながらビールを飲み干す。
ちょうどその時、テーブルの向こう側が騒がしくなった。

「あ、来た来た」

楠田が反応したってことは、井上の知り合いって奴か。
どんなや…

「……に……じょう…」

我が目を疑った。
まさか二条が、こんなところにいるはずがない。
二条と再会なんて、できるわけがない。

あいつの中の俺は、3年前の夏に死んだのだから。

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