ラブファンブル
1
どっかの洋楽バンドを気取ったギタリストが、俺の想いを歌ってる。
青い春は過ぎてからじゃないと気付かない。
俺は、変わったかな。
あいつは、変わったかな。
「結城ー!!こっちこっち」
「あ、楠田…」
3年前の記憶が蘇る。
太陽に溶けていくボール。グラウンドと土の匂い。
そして、熱い恋をしたこと。
俺の中でまだ、あいつは泣き叫んでる。
『ラブファンブル』
「みなさーんジョッキ持ちましたかー?」
そう言って立ち上がったのは、大学の友達である、楠田亮太。
俺はその中で、混乱の中ジョッキを持たされていた。
数人の男女が返事をすると、楠田が「じゃあ今夜の素敵な出逢いに!!」と言ってジョッキを掲げた。
「乾杯!!」
グラス同士がぶつかる音。男女の視線が行き交う。
「……くすだぁ!!」
隣にいる楠田に、小声で怒鳴った。
楠田は状況をごまかすようにヘラヘラと笑っている。
「どう?結城、可愛い子いる?」
「どうもこうもない!!何が『大事な相談』だよ?合コンじゃないか!!」
楠田から電話で呼び出された時は、まさか騙されているとは思わなかった。
「ごめんごめん。どうしても人数が足りなくてさ…」
ほら呑めよ、と楠田がビール瓶を掲げる。
「いいよ、俺車で来たし……この一杯だけで」
乾杯用のジョッキを見せると、楠田に「車?バカじゃん」と笑われた。
「俺は、お前が切羽詰まった様子だったからっ……!!」
「まぁまぁ。結城、中学高校と野球一筋だったんだろ?俺はお前に、チャンスをあげたいんだよ」
「余計なお世話だ…」
「ここで頑張らないと一生童貞だぞっ」
「バカ、童貞じゃねぇって…」
「ちょっとそこ!!こそこそ話さないでよー」
正面に座っている女の子に諭されて、楠田はバツの悪そうな顔をした。
弱ったな。
帰るのは楠田に悪いけど、合コンなんていうノリに、俺がついていけるわけないのに。
「ねぇ、結城くんだっけ?」
さっき怒ってきた正面の女の子が、今度はニコニコと話し掛けてきた。
俺が頷くと、女の子が自己紹介してきた。その子は有香ちゃんというらしい。
「後でね、あたしの友達がもう一人来るんだぁ」
「え、じゃあ女の子の数が多くなるのか?」
そう尋ねると隣の楠田が割り込んできた。
「そこは大丈夫。男ももう一人来るから」
「そうなのか?誰?」
「井上の知り合い。そろそろ来るんじゃね?」
楠田は合コンに来てる友達の一人の名前を挙げた。
まだ増えるのか……ずいぶん騒がしくなりそうだけど、俺は大丈夫だろうか。
そんな心配をしながらビールを飲み干す。
ちょうどその時、テーブルの向こう側が騒がしくなった。
「あ、来た来た」
楠田が反応したってことは、井上の知り合いって奴か。
どんなや…
「……に……じょう…」
我が目を疑った。
まさか二条が、こんなところにいるはずがない。
二条と再会なんて、できるわけがない。
あいつの中の俺は、3年前の夏に死んだのだから。
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