もうちょっとメイクビリーブ
R
俺は犬か。
とか自分でも思うけど、やっぱりチカラの命令には逆らえない。
大体なんだ、あの『お願い』の時の目は。可愛すぎるだろ…
「あー……お前ら、邪魔なんだけど」
よく考えたら、ケンカを止めたことなんて一度もねぇ。とりあえずイジメてる奴らに話しかけてみた。
「あぁ?な……なんだよ、お前…」
中学生たちが狼狽えてる。油断させた隙に蹴りをいれて……いや、ダメだ。加減の仕方わかんねぇし。
「邪魔だっつってんだろ。くだらねぇことやってんじゃねぇよ」
やるならチカラに聞こえない所でやれ!!とまで言ってやりたかったけど、なんとかこらえる。
思いきり睨んでやると中学生たちはバツが悪そうな顔をして去っていった。
やんねぇのかよ……つまんねぇ奴ら。
「あ…」
下を見ると、イジめられてた奴が取り残されていた。
確かに、いかにもイジめれられそうな気弱な感じの男だ。
「えっと……あ、ありがとうございます」
「……別に」
助けたつもりはないのに、礼を言われてしまった。俺は、チカラに言われなきゃお前なんか…
「東郷先輩っ!!」
振り返ると、チカラがコンビニのレジ袋を持って駆け寄ってきた。
「大丈夫でしたか?」
「なんもしてねぇのに逃げてった」
「さすがですね!!絆創膏買ってきたけど、使う?」
後半の言葉はイジめられていた奴に向けられていた。
見ず知らずの奴にそこまでするなんて、優しすぎだろ…
「どうも……何枚もろとこかな…」
「あ、箱ごとあげるから!」
俺の知らない所でも、こういうことしてんだろうか。チカラは優しい上に純粋で無防備だから、いつ他の奴に狙われるかわかったもんじゃない。
「中谷、もういいだろ……行くぞ」
「えっ?あぁ、じゃあ気をつけて帰ってね!!」
そんなことを考えていたら、急に不安になってきた…
チカラの腕を引っ張って俺たちは中学生と別れた。
「あっ、東郷先輩」
「なんだよ」と振り返ると、チカラがレジ袋の中から缶コーヒーを取り出して俺に差し出した。
「これ、お礼です!!」
チカラの満面の笑み。『お礼』って……これかよ!!
俺たちもう何週間してないと思ってんだ。せめてキスとか…
「お前、ワザトじゃねぇからスゴいよな…」
「何がですか?」
「なんでもねぇよ」
「そうですか?……あ、東郷先輩ってやっぱりヒーローみたいでした!!かっこよかったですよ!!」
思わずため息が出てきた。
どんな扱いを受けようと、チカラに褒められただけでどうでも良くなってしまう。
これじゃ、本当に犬みたいなものかもしれない。
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