もうちょっとメイクビリーブ
C
そんなことがあった翌日。
いつも通り夏樹と黒坂先輩と別れて、東郷先輩と帰り道を歩いている時だった。
「あぁっ!!」
あまりの大声にキョロキョロすると、昨日イジめられていた男の子がこっちを指差している。
「良かった……めっちゃ探しました」
そう言いながら駆け寄ってくると、東郷先輩の方を見て深くお辞儀をした。
「昨日はホンマに、ありがとうございましたっ」
「……誰」
もう忘れちゃったのかよ!!
「昨日の…」と教えると、東郷先輩は「あぁ、そういえば」と気の抜けた返事をした。
「あの、俺あなたにお願いがあって来ました!!」
この子、ちょっと訛ってるよな。どこか地方から来た子なんだろうか……?
「……何」
「あの……弟子にしてください!!」
……えぇっ!?
な、何を…
「でし?」
東郷先輩も動揺してる。そりゃそうだ。先輩にそんなこと言った人、たぶん今までいない…
「あなたのように強くなりたいです!!弟子入りさせてくれませんか?」
冗談で言ってる様子はない。そりゃ東郷先輩は強いけど、今時弟子入りって…
「何言ってんだコイツ……中谷、早く帰るぞ」
「そんな!!お願いします!!」
「なんなんだよお前…」
「……あの、話だけでも聞いてあげたらどうですか?」
なんか、かわいそうだし。
その子は『真木ゆうや』という名前で、中学2年生らしい。
先月転校してきて、ずっとイジめに遭っているという。
「やっぱりそうなんだ。ちょっと訛ってるよね……?」
真木くんは『やっぱりか』という顔をした。話によると、関西弁だからという理由でイジめられているそうだ。
「直してるつもりなんですけど、わかってまうもんですね…」
うーん、本当になんとなくだけど。
逆にそういう違和感が、イジメっ子たちの勘に障ったのかもしれないなぁ。
「でも!!これからは師匠のように強くなって、見返してみせます!!」
東郷先輩はずっと聞こえてないフリしてる。そんなに嫌なのかなぁ?
師匠って響きは、ちょっと嫌かもしれないけどさ。
「東郷先輩、助けてあげたらどうでしょうか……?」
「嫌だ」
「お願いします!!師匠!!」
「師匠じゃねぇし…」
「えーでも…」
「うっせーな!!俺は別に強かねぇし、ガキにかまうヒマなんかねぇんだよ!!」
東郷先輩が珍しく本気で怒ってる。もしかして俺のせいでもあるのかな?元はと言えば俺が助けるように頼んだから…
でも、真木くんかわいそうだし…
うんうん唸っていると、東郷先輩がこっちを見て目を丸くした。
「な、中谷……なんでそんな泣きそうな顔してんだ?」
「え……?」
俺、そんな顔してるかなぁ…
「おい、泣くなよ?中谷…」
「……だって、東郷先輩怒ってるから…」
「お、怒ってねぇ!!」
いや、怒ってるだろ…
なんて思っていたら、真木くんが「あのー……俺の弟子入り、どうしてもアカンでしょうか?」と尋ねる。
「……わかったよ」
だから泣くなよ、中谷…
と東郷先輩。
こうして東郷先輩は初弟子をとったのであった。
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