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狼たちの幸福
Asahi-4
土曜日、ユズは美月と映画を観て早速セックスもしたらしい。

それでも結局ユズが選んだのは俺の方だった。
他の女と寝たばかりのユズを壊れるまで抱いて、あっさりと傷つける。
支配欲が満たされていくのが心地よくて、頭がどうにかなりそうだった。

ユズの涙声が耳に残る。
『嘘で良いから……好きって言って』
あの言葉に『嘘で良いなら言ってやる。愛してるよ』と返したのは、嘘でもなんでもなかった。

「おはよ、朝日くん」

「……美月」

「柚樹くん来てる?」

朝の教室を見回してユズを探すけど、姿は見えない。

「まだ来てねぇな」

美月は拗ねた顔で「来るの遅いんだ」と呟いた。
俺にわざと聞かせてるみたいだ。
反応もせずに立ち去ろうとすると、美月が今度は話しかけてきた。

「ごめんね?親友奪っちゃって」

「……別に、好きにすれば?」

美月はじっと俺を睨んで、あくまで明るく尋ねた。

「でも悔しいでしょう?」

……ダメだ。
こんなの、ユズの前でしか見せちゃいけないのに。
どうしても勝ち誇りたい。

「悔しいのは、そっちの方だろ?」

「え?」

「他の女と寝たくらいで俺がアイツを抱かなくなるとでも思ったのかよ」

美月の表情がぐしゃりと歪んだ。
ユズを手にいれたつもりでいるなら、とんだ笑い者だ。
アイツは俺の言うことを聞くために、そして俺に支配されるために存在してるっていうのに。

「……何それ、気持ち悪い」

美月の侮蔑に答える必要性は感じなかった。

「無駄なことは嫌いなんじゃなかったの?」

“アンタといるのは俺にとって無駄なことなんだけど。この時間も”
そんなことを言ったような気もする。
ユズといることは、わざと浮気させて楽しむことは、無駄なことなのか?

「無駄なわけないだろ。こんな楽しいこと、他にねーよ」

「……最低!頭おかしい!」

「ユズのこと、よろしくな」

美月が走り去っていくのと入れ替わるように、ちょうどユズが教室に入ってきた。

「朝日、おはよ…」

「おー」

「星野さん、どうしたの?」

酷い形相の美月とすれ違ったらしい。
俺は「なんもねーよ」とだけ返しておいた。

「あ、朝日が言ってた漫画の新刊買ったよ!放課後うち来る?」

「……行く」

美月はユズと別れるんだろうか?意地で付き合い続けるかもしれない。
どっちにしろ、俺には関係のないことだけど。

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