狼たちの幸福
Asahi-2
あの日から数週間経って、星野美月は生徒会長に就任した。
結局、学年の優秀どころが集まっていたから美月も満足なんだろう……なんて俺は思っていた。
そんなある日の放課後、靴を履き替えているとクラスメイトの西岡が背中にのし掛かってきた。
「朝日さーん!カラオケ行こうよー女の子いたらナンパしてよ!」
「やだよバカ」
数人の男子はそれに賛同していたけど、俺は最後まで断った。
西岡は不満そうに愚痴っている。
「朝日は女に食いつかねぇよなぁ……まさか本当に柚樹と付き合ってんの?」
「はぁ?」
「渡辺も高野も言ってたぞー」
西岡がクラスの女子の名前をあげると、他の男子も聞いたことがあるのか笑って頷いた。
「アホらしいこと言うなよ」
「でも、先に柚樹が彼女作っちゃったらどうする?悔しくない?」
「別に……好きにすりゃあ」
言い終わる前に西岡の大声が耳に響いた。
文句を言おうとすると西岡が裏門の方を指差している。
見ると、親友が新生徒会長と向かい合って何か話していた。
「なんで柚樹が星野さんと喋ってんの!?知り合い?」
「いやぁ柚樹は他のクラスに女友達とかいないだろ」
「なんか告白シーンっぽくねぇ?」
男子たちが口々に意見する。
確かに美月もユズも少し照れたような表情をしていた。
本当に告白かもしれねーな…
「ありえない!阻止しに行こうぜ!」
「よっしゃあ!」
相変わらずアホな思考の西岡に引きずられて二人に近づく。
ユズは俺たちを見て一層戸惑っていた。
「お前、なに星野さんと話してんだよ!柚樹の分際で!」
「えぇ……?」
美月も俺の存在に気づいたようだったけど、すぐに目を逸らされた。どうやらしらばっくれるつもりらしい。
西岡たちが邪魔したせいで美月が去ったあと、ユズは美月との関係について糾弾にあった。
「ユズ、告白だったのか?」
俺がそう訊くと、ユズは自分でも信じられないという顔で頷く。
就任前のあの会話と、突然ユズへの告白…
二つが無関係だなんて思えない。
「あの人、俺のこと朝日と間違えてるんじゃないかな…」
「なんだよそれ……お前が言われたんだろ?」
「まぁ、うん…」
ユズの変な思い込みはともかく、あの女は俺からユズを奪ってフラれた復讐をするつもりなんだろうか?
だとしたら、良い笑い者だ。
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