狼たちの幸福
Asahi-1
「生徒会長?」
「うん。この前任命されて、引き受けようと思ってるんだ」
星野美月は1年の時に同じ委員会で、以来顔が合えば今みたいに話しかけてくる所謂“うっとうしい奴”だった。
その美月が近々、生徒会長になるらしい。
「良いんじゃねぇの。おめでとー」
「朝日くん、副会長やらない?」
「……はぁ?」
生徒会役員は基本任命制だけど、新しい生徒会長が適材を推薦することもできる。
そして美月は俺を推薦したいみたいだ。
「ダメかな?」
「悪いけど、やらねー」
きっぱり答えると美月は心外そうな顔をした。
美人でお嬢様の自分が頼めば二つ返事で引き受けるとでも思っていたんだろうか?
「……どうしてもダメかな」
「ダメっつーか……なんで俺なんだよ。どういう下心?」
“下心”という言葉に、美月は思惑を知られて諦めたようなため息をついた。
「無駄がないかなって、思ったの」
「無駄?」
「朝日くんは副会長としても理想的だし、あたしの隣にいる男の子としても理想的。だから、朝日くんが良いなって」
女らしい、合理的でくだらない論理だ。1年生の冬、誰もいない教室で美月に告白された時のことを思い出した。
「どうかな、朝日くん」
自信に満ちた目で美月が見つめてくる。そんな改まった問いかけが、俺に効くと思ってるのか?
「……俺も、無駄は嫌いだから」
「え?」
「アンタといるのは俺にとって無駄なことなんだけど。この時間も」
美月の顔が歪んだ。
もう話すことはないと踵を返すと、最後に美月の小さな声が聞こえた。
「許さない…」
どう許さないんだよ。
そう返すのも面倒に感じて俺は立ち去った。
校舎の階段を降りていると、背後から別の声。
「朝日!帰るの?」
「……ユズ」
親友が嬉しそうに階段を駆け降りてきた。そして、俺の顔を見て首を傾げる。
「なんかイヤなことでもあった?」
「別に、なんもねーよ」
不機嫌さが顔に出ているんだろうか。
ユズは明らかに気にしていたけど、触れないことに決めたみたいだった。
「朝日、校門まで一緒に行こ!」
「すぐそこだろ?」
「そうだけど!」
俺の可愛いユズ。
この優越感に勝るものがあるなら、教えてほしい。
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