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狼たちの幸福
Yuzuki-3
朝日の口から信じられない命令が飛び出したのは、朝日と寝転んでセックスの余韻を噛み締めていた時だった。

「ユズ、美月に返事したのか?」

「……あぁ、星野さん?まだ…」

朝日、生徒会長と仲良いのかな。
美月って呼び捨てだし…

「どうしてそんなこと訊くの?」

そんなことも説明してくれることを願って尋ねると、朝日はいつもの冷静なトーンでのたまった。

「……ユズ、美月と付き合え」

「……えっ!?」

さすがの朝日からの命令でも、それに従うわけにはいかない。
俺が好きなのは朝日だけだって、朝日もわかってるハズなのに…

「なんでそんなこと言うの?星野さんとは付き合えないよ…」

「断らねぇと不自然だろ。お前の気にしてた噂だって消えるだろうし」

朝日が言っている噂っていうのは、俺たちが付き合ってるんじゃないかっていう噂だ。
朝日はバカな女子たちが面白がってるだけだって言ったけど、いつ冗談が本気になるかわからない。
俺はそれが怖かった。

「でも……それは…」

「お前がやらないなら俺がやる」

「え?」

「ユズはイヤなんだろ?俺が彼女作って、俺たちが付き合ってるなんて噂消してやる」

「い……イヤだよ!だって朝日…」

朝日が他の女の子と抱き合ってるところを想像して急激に怖くなった。
それだけは絶対イヤだ!
でも、朝日はあんな噂気にしないって言ってたのに…

「それに……朝日はそれで良いの?俺が星野さんと…」

その先は現実味がなさすぎて言えなかった。だけど、恋人になったらそれなりの展開になるかも……しれないし。

「ユズ、俺を想いながら美月を抱け」

「あ、朝日……?」

「俺に支配された体で、美月を欺いてみろよ」

朝日の絶対的な口調に、頭の奥がクラクラした。
理由なんて別になんでもいいか…
朝日の命令で人を騙すなんて……ちょっとイヤだけど、なんだか共犯めいてて素敵にも思える。

「……わ、わかった!生徒会長と……星野さんと、付き合う」

朝日が満足げに頷いた。

「でも、すぐにフラれちゃうかもしれないよ?俺、会話とか下手だし…」

「わかってるよ…」

「その時はその時」と朝日が言ったから安心した。
朝日に心配してほしかったのに、それどころか「付き合え」なんて、朝日はなに考えてるんだろう?

そんな疑惑より、朝日の命令に従う幸福感が勝ってしまった。

******

「ありがとう、よろしくね」

星野さんが差し出した細くて白い手を、震えながら受け取った。
その微笑みには嬉しさというより余裕みたいなものが見える。
生まれつきの気品だろうか…

「俺、あんまりこういうの慣れてないんだけど…」

「わたしも。ちょっと緊張しちゃう」

「あ、そう。俺も、どうすればいいのか…」

「うーん、デートとかかな?」

デートという言葉に反応したのをきっかけに、星野さんと土曜日映画を観ることになった。

「じゃあ楽しみにしてるね」

星野さんの言葉に胸が痛んだ。
申し訳ないことをしてるよなぁ…

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あきゅろす。
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