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狼たちの幸福
Yuzuki-1
「あの……俺と朝日のこと、間違えてません?」

放課後の裏門。
『付き合ってほしい』と言われて、こんな返しをしたのにはわけがあった。

目の前に立っている美女は星野美月さんといって、先月生徒会長に就任したお方だ。
まぁ言ってしまえば典型的な“高嶺の花”で、俺は話したことさえなかった。

それでもまだ、彼女が告白した相手が俺の親友、坂井朝日だって言うんなら納得がいく。
朝日は顔も頭も良いし、ちょっと素っ気ないところがまた人気を呼んでる。
だけど俺は、自分でいうのもなんだけど“朝日の引き立て役”がやっとだ。

だからきっと何かの間違い…

「なんで朝日くんが出てくるの?わたしは柚樹くんに言ってるのに」

生徒会長は上品に微笑んだ。
なんで俺の下の名前まで知ってるんだろう?
そう訊くと「調べたの」と返ってきた。

「調べた?」

「タイプだなって思ったから」

タイプ?俺が……?

「柚樹ぃー!」

その時、後ろから友達に呼ばれて振り向くと、クラスメイトの男子が集団で俺たちを見ていた。
中には朝日の姿もある。

「お前、なに星野さんと話してんだよ!柚樹の分際で!」

ひときわ騒がしい西岡の言葉に戸惑った。俺だって信じられないっていうのに…

星野さんはそんな様子を見て少し笑うと、「返事はいつでも良いから」と言ってその場を去ってしまった。

「じゃあね、柚樹くん」

「え、はい。お気をつけて…」

なんだか高貴な人と話してる気分になる。
クラスの男子たちが駆け寄ってきて、俺は質問攻めにあった。

「で、なんだったんだよ!?もしかしてもしかして……告白?」

西岡は『まさかな』って顔をして笑う。他の男子も引きつりながら笑い始めた。

「ユズ、告白だったのか?」

朝日にそう訊かれて曖昧に頷くと、男子たちの騒がしさがいっそう増した。

「処刑だ処刑ー!」

「まさか柚樹に……あぁー!」

騒ぐ男子たちに辟易しつつ、朝日の顔をこっそり窺った。
朝日は泣き叫ぶ男子たちを見て呆れてるだけだった。

「あの人、俺のこと朝日と間違えてるんじゃないかな…」

星野さん本人にも言った疑問を口にすると、朝日が「なんだよそれ」と俺を嘲笑った。

「お前が言われたんだろ?」

「まぁ、うん…」

朝日は、なんとも思ってないのかな…

隠れていたもう一人の俺が顔を出す。それはこの親友に支配されることを選んだ俺だ。
本当は、ちょっとでも良いから気にしてほしかった…

「ユズ、うち来るか?」

「い……行く!」

朝日の言葉にホッとした。
きっと星野さんが俺に告白しようが、俺たちの関係にはなんの問題もないってことだ。

朝日の言うことだけを聞いてきた俺が、今さら恋人なんてできるわけない…

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