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神様の言う通り!
後編1
『女みたいに可愛い』

高階にそう言われた時、俺は初めて女の子になりたいって思った。

高階は、女の子が好きだから。

「……神楽のコスチューム、それ?」

「えっ、ダメかなぁ?」

文化祭当日。出し物より何より、学校中が浮き足立ってるこの空気感が俺はすごく好き。

いつもの教室にテーブルと椅子を並べて、さながら本当のカフェみたいだ。教室の隣が資料室だから、みんなが着替えたりする準備室に使っている。

「耳とか、可愛いと思うんだけど」

そして、俺が着ている……というか被っているのは遊園地なんかにいるウサギの着ぐるみ。
バニーガールにはなれないから、ウサギにしたんだ。

「北川は何にしたの?」

着ぐるみのモコモコした手を振って北川に尋ねた。

「俺は警察官。実は直前まで悩んでて、まだ着てないんだ」

「大丈夫?もう当日なのに!」

「大丈夫」と言いかけた北川の声をかき消して、女の子たちの甲高い声が聞こえた。

反射的にそっちを見ると、和服姿で堂々歩く高階の姿があった。視界が狭いからよく見えないけど、周りの女子が騒いでるらしい。

「お、神楽。どうだ俺様の美貌は」

「そりゃあ、かっこい……いや!かっこよくないもん!」

「まだ意地張ってんのかよ……おい北川、お前ならわかんだろ」

「え、うん。かっこいい…」

素直に褒める北川の隣で俺はそっぽを向いた。高階とはあの日からずっとこんな感じだ。
高階は自分から謝ったりしないし、俺だって許すつもりはないけど話しかけられると反応してしまう。

それにしても、なんで着ぐるみ被ってるのに俺だってわかったんだろう…

「……高階、なんでこれが俺だってわかったの?」

「わかるよ。神楽だってことも、神楽がウサギを選んだ理由も」

「ちっ……違うよ!」

密かに悔しがっていると、次は男子たちのどよめきが聞こえた。
また視界を動かすと、そこにいたのはチャイナドレスに身を包んだ水沢さんの姿。

う……美しすぎる!

「真綾ちゃん可愛いー!似合う!」

「あ、ありがとう…」

水沢さんは高階の姿を見つけてこっちに近づいてきた。
間近で見るといよいよ目が眩む。

「高階くん、ありがとう!高階くんの言う通りチャイナドレスにして正解だった」

えっ!?これ高階が選んだのか!

「当たり前だろ?俺は目が良いんだよ」

「へぇ〜裸眼なんだ〜」

「……お前と話してると、本当疲れる」

高階は呆れたように水沢さんの額を軽く叩いて教室へ行ってしまった。

「いたーい!本当に意地悪だよね?高階くんって」

「えっ、うん…」

「でもかっこいいもんなぁ」

水沢さんは素直にそう言って笑った。自然な笑いでここまで魅力がある人って、雑誌の中にしかいないと思ってた。

「あの、もしかして水沢さんも高階のこと…」

「え?何か言った?」

「……なんでも、ない…」

俺の質問は声が小さすぎて、着ぐるみの中でこもってしまったみたいだ。

******************

「成井、交替の時間だぞー」

クラスメイトに声をかけられて、俺は準備室に戻った。今まで休憩してた数人が、またコスチュームに着替えてる。

「すげぇ混んできたなー」

「やっぱ榊と水沢の力がデカいだろ!ほとんどあの2人目当てじゃん」

「こりゃあこの後のミスコンはあの2人で決まりそうだな……成井も、アイツらに投票しただろ?」

「えっ?」

着ぐるみを脱いでる途中で話を振られて、ビックリした。当の高階と水沢さんはずっと店に出ている。本当は交代制なのに、2人が引っ込むのを客が許さないらしい。

「お、俺は違う人に投票しちゃった…」

「マジ?珍しいな」

あの2人に投票なんて、できるわけがない!
高階と水沢さんが体育館のステージに上がる姿を想像して、なんかまたモヤモヤしてきた。こんなハズじゃなかったのになぁ…

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