君も詐欺師。 一 いつも通りの放課後。 「千川先輩っさようならー!!」 すれ違う女子共の挨拶を交わして、俺は校門に向かう。 「あっ、杏奈ー!!千川くん通ってるよ!!」 「えーどこ!?」 女の騒ぎ声は大抵筒抜けだ。だからってそっちを見てやることもせず、俺は歩き続ける。 「ぅわっ……!!」 前を歩く男が派手に転んだ。 通りすがるついでに腕を引いて、そいつを起こしてやる。 「大丈夫か。気を付けろよ」 「あ、ありがとうございますっ」 無駄な時間を使った。 別に“人と付き合うのが面倒”とかそういうわけではないけど、俺は急いでいるんだ。会わなきゃいけない奴がある。 「あ、お兄ちゃんおかえりー」 家に着くと妹も無視して、すぐに自室のテレビをつける。17:30まであと2分。 もしもの為に録画もしてあるけど、やっぱりリアルタイムで観ることは重要だ。 『ミュージックアイドルアカリ!!今日もアカリと一緒に踊ろうよ!!』 オープニング曲が流れて、アニメキャラクターの女の子と猫が出てきた。 小学生向けのこの番組は、女の子がアイドルになって仕事に恋に奮闘するサクセスストーリーだ。 『ねぇミケ、わたしもうユウスケくんに嫌われちゃったのかなぁ?』 『そんなことないにゃ!!諦めたらダメにゃ!!』 『ミケ……そうだよね!!わたし、歌の力を信じるよ!!』 主人公のアカリがよくわからない宣言をして30分のアニメが終わった。 今回も、良い声してたな。アカリ… 俺が毎日早足で帰る理由、それは愛してやまない「ミュージックアイドルアカリ」を観る為だ。 より正確に言うと、愛しているのはアカリの声を演じている声優なんだけれど。 《今日もアカリ可愛かったな!!》 《日に日に成長してる》 余韻に浸りつつ、SNSのファンページを閲覧することにした。これも日課にしている。 俺自身は書き込みしないが、やっぱり今の時代ネットの情報網は便利だ。 「お兄ちゃん、アニメ終わった?パソコン借りてもいい?」 一通り読んでパソコンを閉じようとすると、妹が部屋に来た。この世で唯一俺の秘密を知る人物だ。 断る理由もないので承諾する。 「そういえばさぁ、あたしの友達がお兄ちゃんのことすごいかっこいいって言ってるんだけど紹介してもいい?」 妹がパソコンで遊びながら尋ねる。 「興味ないって言っとけ」 即答すると、妹は俺を蔑んだ目で見てため息をついた。 「お兄ちゃんせっかく王子様とか言われてるのに……声優ファンなんて知ったらみんなに引かれるよ?この詐欺師」 [次へ#] [戻る] |