いち。
午前2時。
玲はけだるそうに立ち上がって、自分の部屋へと向かいだした。
俺はその背中を呼び止める。
「なんだよ?」
眠たそうな玲の顔。可愛い。
俺は今日こそ、と勇気を振り絞った……ハズだった。
「……なんでもないっ」
「は?なんでもねぇなら呼ぶなバーカ」
玲が呆れて部屋に入っていく。
結局、今日も言えずじまい…
俺、湯島湊は先月とうとう綾瀬玲様とお付きあいすることになった。
仮契約といえど恋人は恋人。世界に一つしかない称号である。
それなのに、それなのに!!
玲とは何も進展していない。恋人になれたらいろいろできると思ってたのに…
例えばそう、キスとか…
「エッチとかさー!!」
「うわぁ今すごい他人のフリしたい」
翌日の大学。赤坂にはここ数日この話ばっかりしてる。
「もーどうしたらいいと思う!?」
「さぁ……お前の勇気次第じゃないか?」
「だって、玲たんに嫌がられたらどうしよう…」
「相手が嫌がってるくらいが一番気持ちいいんじゃないの?」
……なんか今、赤坂の性癖を垣間見てしまったような気がする…
「それか、雰囲気作り?」
お、赤坂やっぱりナイスアドバイスも持ってるんじゃん!!
「雰囲気ね!!どうやって作んの?」
「さぁ?それは自分で考えろ」
「えぇー!!」
赤坂、頼りにしてるのにヒドイ!!
雰囲気なんて言われてもなぁ……今までもっと真面目に恋愛してくれば良かった。
美央と付き合ってた時は、頭の中からっぽだったし…
「あ、湊だ」
「美央!!なんか、久しぶりだね…」
その日の帰り道。マンションのエントランスで当の元彼女と偶然会った。
うちのマンションに引っ越してきて、玲含めいろいろあって、それからあんまり会ってなかったな。
「あたし最近彼氏の部屋に入り浸ってるから。もしかしたらまた引っ越すかも?」
「えっ、そうなんだ!!幸せそうじゃん!!」
さすが美央、ちゃっかりしてるなぁ…
やっぱりフっちゃった過去があるだけに、安心した。そういう意味では、美央って俺と玲のキューピッドだし…
「あ、そうだ美央!!」
「なに?」
「良い雰囲気を作る方法って、知ってる?」
美央は数秒で言いたいことを察してくれたようだった。
「気持ちわる」
「ちょ……そういうこと言う!?」
「そうじゃなくて!!恋愛で悩んでる湊って気持ち悪いなって」
美央にはなんでも見抜かれてるんですね…
「まぁ……例えば部屋で一緒に恋愛映画観てて、距離が接近してきたらそういうサインなんじゃないの?」
「……そういうのが欲しかったー!!」
さすが美央!!なんて名案!!
俺は何度も礼を言って美央と別れる。
一緒に恋愛映画ね。映画の二人が結ばれた後に、俺たちも結ばれる。
素敵すぎる……!!
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