夢
それは夢と呼ぶには、
鮮明過ぎて、
残酷で、
そして……。
(完璧に寝坊したわ)
やや高く上がる日を見て、フィアリスはため息をついた。
先ほど見た夢の反動か、まだ頭が痛い。
寝たはずなのに、全く疲れのとれていないようなダルい身体を起こし、大きく伸びをした。
「寝坊だな」
「ええ…そうね。って、何してんの?」
「心配になって起こしに来たんだが、あまりに可愛い寝顔だったんでな」
「いや、お世辞は要らないから。はっきり言いなさい」
あの夢のおかげでうなされていたという自覚があった。
当然、お世辞にも「可愛い」などと言える顔ではなかったはずだ。
眞王には話したくはなかったが、
既にバレているだろうとフィアリスは肩を落とす。
眞王が手を伸ばして、フィアリスのほほに触れた。
そのままキスされるかと思いきや、
眞王はただフィアリスの頬の涙の通り道をなぞっただけ。
「泣いてたの…私?」
「ああ」
「どうして…」
自分でもわからなかった。
何が哀しいのか。
どうして、涙が出たのか。
――…きっと、あの夢のせい。
思い出すだけで震えた。
もう、決まっていたことなのに。
自分で決めたことなのに。
思わず震えた身体を後ろから包み込んでくれる眞王。
優しくて愛しい温もりが、現実だとフィアリスに知らせてくれる。
もう夢ではない、と。
「眞王―…」
「なんだ?」
「もう少し、このままで居ても良い?」
「当たり前だ」
さも当然と言わんばかりに、腕の力を強めてくる眞王。
(心に、身体に、その温もりが残るように抱きしめて)
――…そして、あの夢の震えを忘れさせて。
「…ん……」
「起きたか?」
(あれ?)
ついさっきも似たような構図があった気がする。
違うのは窓ガラス越しに見える空の色だけ。
(完全に寝過ごした)
既に夕暮れとなった空を見て、フィアリスはため息をついた。
眞王に抱き締められたまま、爆睡してしまったらしい。
「疲れが溜まっていたんだろう。たまには休みも必要だ」
そう言って、ポンと頭を叩く。
「…ごめん」
眞王は気づいていないのだろうか。
何も聞いてこない。
そのことにホッとしながらも、気づいて欲しいと願う自分がいた。
「お前も起きたし、そろそろ大賢者の堪忍袋の緒も切れそうだから、戻る」
「うん……」
フィアリスの反応が薄い。
本当は心配で仕方ない。
一日中側にいてやりたい気もしたが、眞王は仮にも一国の主だ。
それは叶わない。
「また、来るからな」
「……大丈夫だよ」
ふっとフィアリスが笑う。
フィアリスの笑顔を見て安心したのか、眞王は渋りながらも部屋を後にした。
――…そう、この時フィアリスに聞いていれば良かったんだ。
――…何か、怖い夢でも見たのか?と。
ただ一言。
それが、徐々に彼女を蝕んでいく前に。
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