フィアリスが制裁を加えたというのに、なかなか肝が座った兵というものが実際は数名いる。
フィアリスは、くすりと笑って、訓練中の兵達の前に現れた。
「皆様、ご苦労様です。」
優雅に手を振りながら挨拶をすると、兵達は顔を赤らめながら会釈した。
「フィアリス様!?」
「ふふっ…様なんて、付けなくても良いわ。」
風に揺れる髪を手で押さえながら、フィアリスはふっと微笑む。
眞王に笑いかける時とは違う、表の顔。
誰もが、フィアリスの微笑みに騙された。
勿論、兵達も例外ではない。
「貴方達、今は休憩中なのですか?」
「ぁ…えと。」
すると、軍曹が頭を掻きながらフィアリスへ歩いてきた。
「フィアリス様、彼らはサボりの常習犯でして…。
ホラ、行くぞ!お前らいい加減にしろ。」
「お待ちなさい。
私が稽古をつけてあげますわ。」
眩しいばかりの微笑みを浮かべるフィアリスの真意をはかりとれるのは眞王くらいなものだ。
その後、兵達に優しげな言葉をかけながら、それとは裏腹にスパルタ訓練を強いた。
―――…口ほどにもないわね。
やがてヘトヘトになった彼らに内心舌打ちした。
ろくな暇つぶしにもならなかったので、フィアリスは思わずため息をついた。
――…つまらない。
そう思うのはある意味で言えば、平和の象徴。
創主と戦っている間、フィアリスはずっと前線で戦っていたのだから尚更だろう。
強い相手と剣を交えることほど、血が騒ぐことはない。
フィアリスにとって、平和とは少しばかり寂しさが募るものだった。
それは武官としての自分が特にすべきことがあまりないこともあるが、何より心に引っかかっているのは眞王のこと。
創主と戦っている間は始終一緒にいたし、二人で作戦を立てたり、大賢者含む三人で語り明かした夜は将に至福の時だった。
しかし今は、眞魔国設立の為に、書類に向かう眞王が頼るのはまず大賢者。
残念ながら頭で彼にかなう者は他に居ない。
それは当然のことで、今までもそうだった。
―――…大賢者に嫉妬?
バカすぎる。
フィアリスは考えを振り切った。
本当は不安でしょうがない。
いつも隣にいたからだろうか。
――…いつから私はこんなに弱くなったのかしら。
考えれば考えるほどに堕ちていく。
―――…貴方に。
―――…この気持ちをどうしよう。
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