A−3
「マジで!?ありがとう。」
有利はチョコを貰っただけで有頂天で、義理か否かは気にしてはいないようだ。
なんとなくホッとした。
「義理でも嬉しいよ!
初めてだし。」
(あぁ、ごめん。有利。)
あまりに無垢な有利の笑顔に多少の罪悪感を感じて、心中で謝った。
「頑張れ。薫なら大丈夫だよ。」
「え?」
「本命チョコに決まってるだろ。」
意外に有利は薫を理解していたらしい。
言われてはじめて、顔が真っ赤になる。
そんな薫を見て、有利は言った。
「薫にこんなに思われてるなんて、幸せなやつだな!」
「そう、かな?」
「自信持ちなって……なんて彼女いない歴=年齢の俺が言っても説得力ないんだけど。」
あはは…と頭をかきながら、有利が苦笑いを浮かべる。
有利の言葉を聞いて、勇気が湧いてきた。
「うん、頑張るわ。」
自分に言い聞かせるようにそう呟き、有利に手を降って別れた。
「ぁ〜、薫の本命チョコか。羨ましいな。」
薫が去った後で有利が呟いた言葉は、風に乗って消えた。
有利と別れて、思案しながらなんとなく眞王廟に戻ってきてしまった。
「薫?」
見慣れた眼鏡の少年がひょっこり薫の前に現れた。
「村田君…。」
「何か悩みこんでるみたいだったけど、何かあった?」
「え?あぁ、大したことじゃないんだけどね。」
だんだんとか細くなっていく声。
感の良い村田ならば、気付いてしまったかもしれない。
だが、薫には平然と装える余裕などなかった。
「そう?まぁ、話したくないなら僕も聞かないけど。」
そう言いながら、近くの石の上に腰を下ろした村田。
なんとなく薫も隣に腰を下ろす。
沈黙が重くて、思わず口を開いた。
「あ〜、村田君は今日がなんの日か知ってる?」
「知ってるよ。バレンタインでしょ。
だから眞王廟まで逃げてきたんだ。」
意外な答えが返ってきて、薫は目を丸くして村田を見た。
「そうだったの。」
「うん。渋谷が言った一言から、眞魔国行事に発展しちゃってさ。
しかも此方の世界じゃ双黒ってだけで追いかけ回される上に、僕は一応大賢者だからね。」
村田はため息混じりにそう言った。
なかなかチョコを貰う側も大変らしい。
確かにメイド達のいつもの様子からして、バレンタインは凄まじいであろうことが予想された。
でも、何処か寂しい。
「村田君は、バレンタインとか苦手?」
「苦手というか、馴れてなくてね。
向こうの世界じゃバレンタインってあんまり縁無いし。」
勝利、有利に続き村田までもが『縁無し』発言。
なんだか地球産魔族に同情した。
「そっか、嫌いなワケじゃないのね?」
「甘いものとかは好きだしね。」
心の何処かでほっとする自分がいるのを感じた。
「村田君。」
「何?」
「これ、良ければ受け取って?」
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