B−2
「はい。」
「なんだ?」
「バレンタインのチョコ。さっき良い匂いがするって言ってたのは、たぶんコレね。」
そうか、といって得意げに眞王は薫からチョコを受け取った。
「お前もやっと、俺の騎士になると…。」
「そんなこと、一言も言ってないし…。」
眞王があまりに自信満々に語りだしたので、薫は即否定の返事を返した。
しかし、眞王は全く動じていない様子で…いやむしろ先ほどより自身ありげだ。
タチが悪い。
「照れるな。」
「いや、だから違うって。」
「一番最初にチョコをあげる時点で…。」
「いや、一番にあげたのはウルリーケだし。」
「お前の愛は、ありがたく受け取っておく。」
薫の言葉を聴いていないのか、眞王はなおも機嫌がよさそうである。
薫の言葉など聴く耳持たぬといったところか、さすがの薫もはいはいと言って、眞王から離れた。
(いったい、あの愛の自信はどこから来るんだか…。)
眞王廟を離れて苦笑い気味に、そんなことを考えた。
(まぁ、でもストレートに言えるってうらやましいわ。)
何故だろう、眞王のウザったいくらいのあの態度が急にうらやましくなった。
きっと、バレンタインと言う行事のせいだ。
そう思うことにして、薫は足を進めて、血盟城へと向かった。
「帰ってきたのか、ご苦労だな。」
血盟城に帰ってすぐ会ったのは、グウェンダルだった。
相変わらずしわを寄せたまま不機嫌そうな表情をしているが、薫を見て少しでも表情が緩んだのは決して気のせいではない。
「グウェンも、お疲れ様。」
「あぁ。」
そんなグウェンは、いつもよりちょっと不機嫌そうだった。
「どうかしたの?」
「いや、われらが陛下が現れてからバレンタインというものが流行りだしてな。
私も先ほど何人かに受け取って欲しいといわれて困っていたのだ。」
グウェンダルが有利を陛下呼ばわりするときは、大抵あまりよくないことがグウェンダルの身に降りかかっているときのことである。
その証にグウェンダルの眉間のしわがいつもより多い気がした。
「そっか、グウェンダルはそういうの苦手よね。」
(せっかく作ってきたのにな。)
薫は残念に思いながらも、グウェンダルの迷惑にはなりたくないとチョコを渡すのをあきらめかけた。
しかし、
「いや、あまり交友のない者から贈り物を渡されるという行為が苦手でな。
お前のように顔見知りで、料理の腕も保障できる奴ならともかく…。」
そこまで言ってグウェンダルははっとしたように口を閉ざした。
思わずうっかり口が滑ってしまったらしい、グウェンダルの頬はほのかに赤かった。
それを見た薫も思わず自分が褒められていたことを自覚して、急に恥ずかしくなってきた。
(ていうか、これはもしや私のチョコが欲しいってことなのかな…。)
ちらっとグウェンダルを見上げて、薫は軽く咳払いをし、
義理チョコを渡す
本命チョコを渡す
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