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あれから数日経った。

友雅はあれから一度として、帰って来なかった。

毎夜、女の家を渡り歩くとの噂だったので

はじめは気にしていなかったが、
誰も、あれ以降友雅を見ていないという話を、

女房から聞き、さすがに由岐も焦った。

「私、探しに行くわ。」

意を決して女房達に告げたが、たちまち止められた。

時期が悪かった。

由岐を養子にしてすぐに失踪した為か、

由岐つまり鬼の仕業だと噂する者も少なくない。

だからこそ、由岐が探しに行かなければいけない。

なのに、女房達は一向に聞き入れてはくれなかった。

「そうだわ…神子!」

由岐は思いついた。

あの日見た、女の子のことを…。

直ぐ様、由岐は彼女のことを聞いた。

「ねぇ、神子って呼ばれてる女の子のこと

何か知らない?」

「龍神の神子様のことでございますか?」

龍神の神子、以前シリンの恋敵と聞いていた者と一致した。

(アクラムの趣味ってああいう子なのかな…)

ちょっと可笑しくて笑った。

なんだか洞窟生活が懐かしくなってきた。

何も知らないまま、平和に過ごせていたら

どんなに楽だっただろう。


だが、知ってしまった…真実の断片を。

―――もう、後戻りは出来ない。

「由岐様?」

「私、神子様に会いに行ってくるわ!」

「神子様にですか?」

「しかし、急には…。

今日、文を出して

明日会いに行かれては?」

しかし、時間がない。

今すぐにでも由岐は行きたかった。

――二度と会えなくなるかもしれないという不安が由岐を襲う。

何故だか、由岐はそれを本能的に怖れていた。

――まるで、過去にも『それ』を体験したような…。


それから、女房達をなんとか説得し、

由岐は出かけた。








女房達は心配したが、

由岐はわざわざ道案内人を一人しか連れず、

髪も目も隠さずに往来を急いだ。

結局、由岐は、夕暮れに土御門殿についた。

屋敷の中に案内され、

やがて神子と呼ばれていたあの少女が現れた。

「はじめまして。貴方が神子様なのね?」

「…うん。

友雅さんの娘さん、で良い?」

「えぇ、橘由岐よ。」

「私は元宮あかね。」

まずはお互いを確認しあい、

自己紹介をした。


「既に噂になっているけど、友…

…いえ、父が行方知れずで。

私はそのことで、貴方に協力してもらいたいの。」

『父』と初めて口にした。

なんだか変な感じがした。

「私も貴女のところに行こうかと思ってたので

ちょうど良かったです。由岐さん。」

そう言ってあかねは笑った。

「そう?ぁ、由岐で良いわ。

敬語も…、堅苦しいのは苦手だから。」

「ぁ、実は私も。だからあかねって呼んで。」

「ん…わかったわ。

でも、神子様って言うからどんな子かと思ったけど、

良い人みたいで安心したわ。」

「私も友雅さんの娘さんだって言うから

最初は驚いちゃった。」

そう言って、二人は笑いあう。

あかねはふと

「ぁ、今八葉…あ、ええと。」

「八葉なら知ってるわ。

その人達がどうかしたの?」

(八葉を知ってる…?)

あかねはただ友雅の娘だからかと勘違いして、話をすすめた。

「うん、実は今、

友雅さんのことで情報収集に出てて、

そろそろ帰って来ると思う。」

「…ありがとう。」

由岐は感謝の意を込めて、ふっと微笑んだ。

あかねは、その笑みが誰かとダブって見えた。

(誰かに…似てる?)

「おい、あかね。

誰と話してるんだ?」

「ぁ、天真君。おかえり。」

ランニングに着物の組み合わせの天真が現れ、

続いて、鷹通、泰明、詩紋が帰ってきた。

因みに、頼久はあかねと帰ってきている為、

庭にて待機中。

「ぁ、皆ありがとう。

お疲れさま。」

天真達は多少不審げに由岐を見て、

あかねの近くに腰をおろした。



…ただ一人、詩紋をのぞいて。




――――――どうして、ここに居るの?



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