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有利ルート
公園に行くと、見知った人物がいた。

どうやら少年達の草野球を眺めているらしい。

「有利!」

「薫じゃん!?どうかしたの?」

有利は驚いたように薫を見た。

確かに薫と有利は、地元なのにあまり会ったことがないくらいだ。

薫は滅多に公園になどはいかなかった。

「うーん、ちょっと色々考えててね。」

そう言いながら、有利の横に腰を下ろす。

「悩み事?

俺でよければ相談に乗るけど?」

有利は、心配げに薫を見た。

「有利、私と付き合ってくれない?」

「ん、良いけど何処に?」

天然というのは、こういう際にはちょっと困り者だ。

薫は、気をとりなおして言い直した。

「違うの。お付き合いの方よ。

1日だけお願いしたいの」

「お付き合いね、別に良いけど……




ってえぇ!?マジで!?

彼女いない歴=年齢卒業バンザイ!!

あれ?でも今1日って言った?」

有利の激しい感情の起伏に、

半ば罪悪感を感じた。

「うん、1日。
やっぱり無理よね、ごめん。

変なこと言って…。」

薫はすくと立ち上がって、その場を去ろうとした。

その瞳があまりにも哀しげで今にも泣きそうに見えた有利は、

慌てて自分も立ち上がって薫の腕をつかんだ。

「良いよ。

薫が言うならさ。

何か理由があるんだろ?」


「…うん。

でも本当に良いの?」

「だって、俺たち友達だろ?」

有利はニカッと笑ってみせる。

薫も釣られて笑った。

そのまま、二人並んで渋谷家に向かいながら話をした。

「でも、急にどうしたんだ?」

「え〜とね、

私の叔父が勝手にお見合いしろって。

今日、お見合いしなきゃいけないの。」

「えぇ!?今日かよ!?」

薫は肩を落として言う。

「うん、

私の彼氏連れてきたら、考えてやるって言われたの。」

「はぁ、それでかぁ。

薫も大変だな。」


有利の言葉はどれも素直で、

暖かくて、話すたびに心が軽くなっていく気がした。

「それなら、俺のおふくろにも相談してみないか?」

「美子さんに?」

「あぁ、もしかしたら協力してくれるかもしれないし…。」

そう言う有利の心中には、

(おふくろなら、絶対に黙って見過ごさないよな…)

という確信があった。

案の定、美子に話したら、

「私も行きます!」

と言われた。


急遽、使用人の老婆に連絡し、


渋谷家に迎えの車を寄越すように手配した。

そして、迎えの車が来るまで、渋谷家で待機することになった。

美子は着ていく服をあれこれと試着している。


薫も、見合い用の衣装などを

老婆の手配で自宅から届けてもらい、

美子に手伝ってもらい、着付けや薄い化粧をした。

有利はといえば、急な話故に服もないので

とりあえず制服という話になった。


「見て見て!ゆーちゃん凄く綺麗よ!」

美子がセッティングの終わった薫を連れてきた。

有利はあまりの驚きに飲みかけの牛乳を落としそうになった。

「ね?ママって天才?」

「……。」

言葉もないほど綺麗な薫を前に

有利は硬直した。


(もともと綺麗だとは思ってたけど…)

薫はいつもより、どこか気品を備えたような面持ちだった。

「うわぁ、おふくろ天才だよ。」

なるべく普段通りにそう言うものの、

鼓動は破裂しそうなくらい高鳴っている。

自分の鼓動の音が薫に聞こえるんじゃないかと、
内心有利はヒヤヒヤしたほどだ。

「本当?」

続いて、恐る恐る薫が聞く。

(頼むから、そんな上目遣いで俺を見ないでくれ…)


ツェリとは違う上級コースに

有利はどぎまぎしながら空笑いをするしかなかった。

「うん。マジで似合ってるよ。」

と言いながら、顔が緊張のあまりちょっとひきつった気がする。

それでも薫は納得したらしく、ほっと一息ついて

「ありがとう。」

と、微笑んだ。

「…う、うん。」

曖昧に返しながら

(今なら、少し…いやかなりギュンターが汁ふく気持ちがわかるかも。)

有利は嫌な共感を覚えた。


やがて、時間は刻々と過ぎ、迎えの車に乗って

本家に向かった。


親戚達の矢のように突き刺さる冷たい視線も

有利と美子のおかげか、いつもより気にならなかった。


「良く、来たね。」

叔父が入り口で出迎えた。

相変わらず意地悪い笑みを浮かべている。

「えぇ…。」

「此方は?」

叔父の醒めた瞳が渋谷親子へ向く。

有利は少々たじろいだが、美子はむしろ堂々としている。

「渋谷美子と言います。」

「ぁ、渋谷有利です。」

「ふむ、彼がそうなのかな?」

叔父は不審げに有利を見る。


「えぇ、そうよ。

わかったでしょう?

私には見合いする理由なんてないのよ。」

「待て。見たところ、同い年のただの高校生じゃないか。

お前にはふさわしくないだろう?」

さすがにこの発言にカチンときたのか、

薫が言い返す前に美子が口をはさんだ。

「貴方が、私のゆーちゃんの何を知ってると言うんですか?
それに貴方、薫ちゃんのこともちゃんと見てないじゃない。

保護者として失格よ。」

「これは、勝ち気なご婦人だな…

あれ?ジェニファー?」

叔父が突然ぽかんと口を開けて美子を見た。

「君は、ハマのジェニファーか?」

「昔はね、

今は、二人の息子のママよ。」

すると、突然がっくり肩を落とした叔父。

「え…何?どうしたの?」


有利は意味がわからずに、言った。

叔父は急に有利に向き直り、思いきり睨んだ。

「君も災難だな。

だが、君が来たところでどのみち何も変わらない。

この女は幸村家の恥さらしだ。

婚約ぐらいでしか役に立たん葛だ。

君はその役割すら彼女から取り上げる気なのかい?」

薫は耳をおおいたくなった。


聞きたくなかった。

―自分が望まれてはいないことを…。

「ふざけんな!」

しかし、有利は叔父に向かって怒鳴った。

「薫が何したって言うんだよ!?

あんたは何にもわかっちゃいない!」



「ほう…では、君にはわかるのか?

この女に価値などない。

それで充分だ。」

叔父は吐き捨てるように言った。

薫が耐えきれずに、拳を震わせて、

血が出るほど握りしめて耐えている。

有利は、その手を優しく握って微笑んだ。

「大丈夫。

俺は知ってる。

薫が何に対しても一生懸命頑張ってて、

料理や剣道も出来るぐらいしっかりしてて、

グレタにもすぐなつかれるぐらい面倒見もよくて、

実は凄く可愛いところ。」

「…え?」

「薫は俺なんかより、ずっとスゴいよ。

逆に一人で色々背負い込みすぎて、押し潰されないか凄く不安になるんだ。」

そして、叔父に向き直って、きっと睨み付けた。

「あんたは何もわかってない!

薫は価値がない人間なんかじゃない!

今すぐ訂正しろ。」

一瞬、圧倒された叔父だが、

「口のききかたに気を付けるんだな、少年。

…面倒だ。

今日の見合いは君に免じて許してやろう。

早く帰れ。」


叔父は場が悪そうにその場から去った。

「こら、待て!

訂正しろ!」

しかし、有利の怒りはおさまらず、

叔父につかみかかろうとする。

「もう良いよ!」

薫は慌てて有利を止めた。

「でもさ、許せないよ。」

有利の中から暖かい何かを感じた。

薫はそれだけで幸せになれる気がした。

「本当にもう良いの。

有利の言葉ですっきりしたから。」

そう言いながら、必死に笑顔を取り繕った。

有利も何か感じ取ったのか、

怒鳴るのをやめた。

「じゃあ、帰りましょ?

ゆーちゃん、薫ちゃん。」

美子も珍しく顔をしかめながら二人を促した。




――――帰り道、


美子は夕飯の買い出しにと、途中で別れた。

去り際、

『ゆーちゃん、ファイト。』

と耳打ちして去っていった。

有利と薫を二人きりにしたかったらしい。

美子が居なくなって、

先に話し出したのは薫だった。


「…今日は本当にごめんね。」

薫の絞り出すような声に

有利は胸が締め付けられるようだった。

「何言ってんだよ

薫は悪くないだろ?」

「でも、私の叔父さんだし…。」

―そう、どんなに否定しても、彼は薫の保護者にはかわりない。


「でもさ、さっきのは…。」

有利は未だ冷めやらぬ怒りを、

拳を握りしめることで必死に抑えた。

「今日、嬉しかった。」

「え…?」


突然明るく薫が言った。

「有利が私をかばってくれたこと、

凄く凄く嬉しかったの。


だから、それで充分!」

薫の顔はとても晴れ晴れとしていた。

しかし、有利はいまいち腑に落ちなかった。

「まぁ薫がそう言うなら…。」

「ん、ありがと。有利。」

「でも、俺もさ、嬉しかった。」

「何が?」

「薫が俺に相談してくれたこと。

やっぱり、頼られるのって嬉しいし。」

「有利は優しいね。」

薫はふっと微笑みながら、

有利の手をとった。

「薫?」

「今日だけ、私の彼氏なんでしょ?

じゃあ手ぐらい繋いでも良いよね?」


有利としては、毎日でも繋ぎたいぐらいだったが、

「うん、勿論。」


そう言って、手を握り返した。


(好きだよ、薫)


有利は握った手に想いをこめて、

夕暮れの中を寄り添いながら帰った。






―ずっと側にいたいって、思ったんだ。








甘ー!!
シリアス入ってすみません。

再チャレンジ


ネタバレは此方


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