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TALES OF THE ABYSS〜凡愚の意地〜
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「よう、帰ったかジェイド。そいつが例の音素振動の原因か?」

ジェイドという男に連れられて来た大きな宮殿の奥、荘厳な玉座に本来の地位と比べると考えられない程だらけた服装と恰好で鎮座するのはこのマルクト帝国の皇帝ピオニーである。

「そうですよ。陛下」

「陛下……?ってことは王様!?」

ジェイドの隣で驚く眞樹の目にはこんなのが王様なのか?という疑問がありありと浮かんでいる。

「おう、そうだ。よろしくな」

ニヒヒと笑いながら語りかける姿はやはり王様というより気のいいあんちゃんだ。

「そういや名を聞いてなかったな。あんたの名は?」

「東堂眞樹です。」

「む?変わった名だな……」

トウドウが名前なのか?とピオニーは考えたがジェイドが

「どうやら彼のいた所ではファミリーネームが先に来るようです」

とフォローを入れる。

「なるほど……大体の顛末はジェイドから聞いている。こちらもお前がわがマルクト帝国に害を為すために来たのではないと判断した。よってお前を故郷に帰してやろうと思うんだが……」

とここでピオニーが報告書に確認の意味を込めて軽く目を通す。

「ニホン、という国は済まないが俺は聞いたことがない」

「な……っ!?」

眞樹は愕然とする。いきなり知らない所に連れてこられ、しかも話の流れから簡単に帰れそうにもないのだから無理もない。

「今、我が軍でもキムラスカ領ギリギリまで手を伸ばし情報を集めていますが有益な情報はありません」

「そ、それじゃあ……」

「おっと、まだ話は終わっていませんよ」

どうしようもないじゃないか!と怒鳴りそうになった眞樹をジェイドが手の一振りで黙らせる

「ですから、故郷が見つかるまで我々で保護しようと思います。」

「!いい……のか?」

「いいも何も、道もわからぬ人一人ほっぽりだすなんざ人のやることじゃない。いわば当然のことさ」

ピオニーもジェイドに被せるように言う。
「あ、ありがとうございます!」

野垂れ死にだけは嫌だったので眞樹は飛び上がらんばかりに喜ぶ。

ピオニーもその様子を微笑ましく見ていたがジェイドに軽く目配せすると

「じゃあ早速だが、お前さんはどうやら音素も知らないようだから、まずはこの世界について知ってもらう」

「私が時間を見つけてお教えしましょう」

とジェイドも微笑みながら言う。

(すげぇ、いい人達だ……)

「お、お願いします」

眞樹は一種の感動すら覚えるが

「ジェイドは鬼だから気をつけろよ〜」

「え?」

ピオニーの言葉にピシリと固まる。そして油の切れたネジ人形のようにジェイドの方を向くと

「…………」

相変わらずのニコニコ笑顔を向けていた。
が、これはわかる……この微笑みは……邪悪な笑みってやつだッ!!

「あ、あ〜っと……や、優しくしてね?みたいな」

「お断りします」

キラリと星がつく程清々しく断られた眞樹は逃走を図るがあっさりとジェイドに捕まってしまう。

「逃げてもどこにも逃げ場はありませんよ〜?」

「ちょっと待てちょっと待て!おかしいってマジで……ギャアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

ズリズリと引きずられていく眞樹をピオニーは爆笑しながら見送った。






この日の夜、王宮からはタライが落ちる音と眞樹のうめき声がひっきりなしに聞こえてきたらしい


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