TALES OF THE ABYSS〜凡愚の意地〜 A こ、これは一体どういう状況ですか? 「あ〜う〜?だれ?」 「え〜とぉ……」 目の前には歳不相応な幼い仕草で首を傾げる赤い髪の子供 そしてその子供の部屋に突如として現れた私、西丸 純…… どう見ても不審者です本当にあり(ry (ヤバいぃぃ!どうする!?いや、まずは落ち着け、落ち着いて素数を数えるんだ) 1……3……5……7……11……よし大丈夫。何が大丈夫かわからんけど大丈夫 さて……目の前の状況をどうしましょうか。 ていうかこの子供、明らかにルークだよね…… しかも見た感じ誘拐された後のまだ何もないまっさらな状態の どうする!?どうやって切り抜けようか?う〜ん 「どっかしたの?おねえちゃん?」 「っ!?」 な、何だこの可愛い生物は!?抱きしめたくなるじゃないか これが後数年もすればあんな生意気少年になるんだもんな〜 ってそんなこと考えている場合じゃない!どうにかしないと と考えていると目の前の子供が…… 「がいいないしひ〜ま〜、あそぼー?」 と服を引っ張る。くっ……そんなつぶらな瞳で見られても私にはやらなきゃならんことがある。 「あ〜……悪いけど、遊ぶのは……」 「がいにあたらしいおもちゃ作ってもらった〜。おねえちゃんとあそぶの〜」 オーケイ……疲れ果てるまで遊んであげよう。決してルークの可愛さにやられたとかそんなんじゃないんだからねっ! 「ルーク様〜!どこですか〜?」 陽が暮れ始め、オレンジ色の太陽光が窓から差し込む高級な絨毯が敷かれた廊下をアチコチを見回しながら駆ける青年の姿 彼の名はガイ=セシル、ここキムラスカ王国のファブレ家に仕える使用人の一人だ。 「やれやれ、どこ行ったんだか」 金髪を短く切りそろえた彼は立ち止まると息を吐きながら軽く愚痴る。 というのもガイが仕えるファブレ公爵家の一人息子ルークが家庭教師の授業途中で脱走したため、使用人達が総出で探しているのだがルークはかくれんぼや鬼ごっこに関しては天才の域に達しているようでまるで見つかる気配がない。 「勘弁してくれよな〜、お館様に怒られんのはこっちなんだからさ〜」 と愚痴りながらも彼の顔には迷惑とかそういう感情は感じ取れない。手の掛かる子供程可愛いというやつだろうか、メイドや使用人達の中には『昔の聡明なルーク様』とは変わられてしまった。と嘆く者もいるがガイとしては今のイタズラ好きな子供らしいルークの方が好感が持てた。 もっと奥の方を探してみるかとガイが再び駆け出そうとすると (ん……物音?) 近くで人が騒いでいるような音が聞こえ足を止める。 (何だ?ゴキブリでも出て騒いでるのか?) 実際にメイドからゴキブリ退治に駆り出されたこともあるガイはそう考えながら音がする方へ向かう。 (この部屋か……) やがてある部屋の前で立ち止まると騒ぎの元凶の声がガイの耳に詳細に届く (二人いるのか、っ!?片方はルークだがもう片方は知らない声だ!まさか誘拐か!) ルークは七年前に誘拐された事がある。しかもルークはその時のショックで記憶喪失になってしまった。 その時は助け出されたがまた誘拐されないとも限らない、そう考えればいてもたってもいられない。ガイはドアを蹴破る勢いでこじ開ける。片手は油断なく腰に提げてる剣に添えて しかしそんな覚悟でドアを開けたガイが見たものは 「くれあぁぁぁぁぁぁぁ!!」 「いけない!フォルスの暴走!?止めなければ!」 「ぴーちぱぁぁぁぁぁぁぁぁい!!」 「ピーチパイだ!ピーチパイを持ってくるんだ〜!」 自分がいつか作ってあげた。寡黙なピーチパイとクレア大好き剣士とその仲間の人形で遊ぶルークと金髪をツインテールにした見慣れない服を着た少女だった。 「はい?」 侵入者?いや侵入者がなんで侵入した家の子供と遊んでるんだ?ていうかこの状況は一体…… ガイが頭の中にはてなマークを大量に生産していると侵入者?の少女がこちらを向き 面白いくらいに顔を青くした。 (しまったぁぁぁぁ!ルークと遊んでる場合じゃなかったぁぁぁ!) 今更気付いても後の祭りである。 「で?君は謎の発光に巻き込まれて気付いたらここにいた……と?」 「はいぃ……信じられないかもしんないけどそうなんです〜」 もうどう取り繕っても無駄だと観念した純は真っ正直にありのまま起こったことを話す。 「う〜ん……確かに俄には信じられないな〜」 と首を捻るガイ。そりゃそうだと純は思う。立場が逆なら自分だって信じないだろう。 「がい!がい!おねえちゃんといっぱいあそんだの!」 仮にも侵入者と普通に会話している、そんな微妙な空気をものともせずにルークは少女の膝に乗りながらカラカラと笑う。 (ル、ルーク……懐いてくれるのは嬉しいけど重いぃ〜……) いくら仕草が幼くてもルークは12歳である。人によっては急激に背が伸び始める年頃だ。幸いにもルークはまだそんなに大きくないがそれでも重いものは重い、膝がそろそろ痺れてきた。 (ルークが懐いてるってことは悪いやつじゃないんだろうけど……) 自分一人では判断の難しい状況に困ったガイは 「それは良かったなルーク、でも授業抜け出しちゃ駄目じゃないか」 とりあえず本来の用事を済ますべく少女の膝で御満悦といった表情を浮かべるルークに眉を八の字にしながら諭すように言う。 「うぅ……べんきょ、きらい〜」 するとさっきまで太陽のように笑っていたルークの顔が一気に曇る。 「嫌いでも後々お前の為になるんだぞ、一緒に謝りに行ってやるから……」 戻るぞと言おうとしたガイの言葉は再びけたたましく開いた扉によって遮られた。 扉の向こう側にいたのはファブレ公爵家が個人で所有している白光騎士団の一人で兜で顔は見えないが何やら焦っているようだった。 「大変だ!この屋敷を発生源として正体不明の音素振動があったらしい!」 「なっ!?」 騎士は部屋に入るや否や早口で一気にまくし立てるがそれも無理もない。 正体不明ということは超振動でもない全くもって謎の音素振動、しかもそれがこの屋敷だというのだから仕方のないことだ。 「今、公爵様や奥方様は城に避難なされた。ルーク様もお急ぎ避難の方をお願いしたい。」 「了解、ルーク様は城に避難させます。それで我々使用人達は?」 ガイは居住まいを正すと、自分はどうするべきか指示を仰ぐ、剣の心得のある自分も場合によっては駆り出されるかもしれないからだ 「使用人達も避難させている。発生源を探すのは我々、白光騎士団の役目ここは任せてもらおう」 「了解」 流石に剣が使えるからといってもただの使用人でしかない者を危険に晒すわけにはいかないようだ。 「避難途中、何か不審な物や人物を見かけたら別ルートを探し白光騎士団に連……ら……くを……」 「?……あ」 今までスラスラと要件だけを伝えていた騎士の言葉が途切れる。 疑問に思ったガイが何気なく後ろを振り返ると メイド達お気に入りの使用人 守るべき、公爵家の一人息子ルーク そのルークを膝に乗せている見たことのない服を着たこれまた見たことのない少女 そこから導き出せる答えは一つ…… 「ふ、不審者だーーーーッ!!」 騎士は目の前の状況に迅速に答えを出すと思いっきり叫ぶ。守るべき対象の手前逃げ出すことはしなかったが、ズザザと後退りし部屋の外まで後退する。 しかも騎士の叫び声を聞いて他の騎士も何事かと駆けつけている様子が鎧の音でわかる。 「ちょっと待ってぇぇぇ!!私は不審者じゃ……ないわけじゃないけど違うのぉぉぉぉ!」 このままだと処刑すらされてしまいそうな雰囲気に純は一縷の望みをかけて叫ぶが 「どうした!?」 「不審者だ!音素振動の原因かもしれない!」 「何っ!?しかもルーク様を人質に!?なんと卑劣な……!」 話はどんどん大きくなり純の魂の叫びはまるで無駄となった。 「く……そこの女!一体ルーク様を攫って何が目的だ!」 「そうだ!国のお母さんも泣いているぞ!」 「やかましぃぃぃぃ!!お母さんより先にこっちが泣きたいわっ!!」 まるで立てこもり犯に対する説得のような言葉を投げかけられ、純はひとしきり叫んだ後、もう何もかも諦めたかのように頭を垂れた。 (夢なら早くさめて〜) 「おねえちゃん、おねんね?」 そしてこの状況を恐らく何も理解出来ていないであろうルークの無邪気な声が今だけは憎らしかった。 [*前へ][次へ#] |