TALES OF THE ABYSS〜凡愚の意地〜 @ この日、地球ではない惑星、オールドラントでは三カ所で謎の音素振動が発動した。 それが……オールドラントの未来を変える始まりだったと知るものはまだいない…… やれやれ……最近はキムラスカの動向も不穏だというのに、謎の超振動にも似た音素振動ですか ジェイド=カーティスのこの日の心情を表すなら憂鬱という言葉がピッタリだった。 キムラスカとの外交戦略において戦争か和平かで真っ二つに割れたのだ。 ジェイドの階級ではその会議に参加は出来ないのだが ここ『マルクト帝国』の皇帝がジェイドの幼なじみである為、会議の顛末は間接的には知ることが出来た。 多大なら愚痴と疲労と共に…… あいつらは民のことを考えられてない。だの和平の使者に立候補する奴が誰もいないだの延々と聞かされ、精神的疲労がピークに達し適当に切り上げようとすればブウサギ(という愛玩動物がいる)のジェイドに 「人間のジェイドは俺の話を全く聞いてくれないんだ。どう思う〜ジェイド〜?」 とか言い出す始末。皇帝でさえなかったらお得意の『譜術』で強制的に黙らせていたものを そんな不敬罪も甚だしいことを考えながらジェイドは謎の音素振動があった場所に向かう。 場所は『首都グランコクマ』からそう遠くない『テオルの森』である。 時期が時期なだけにこれはキムラスカの侵略行為だと考える者が多く、真偽を確かめる為にジェイドが派遣されたのであった。 「カーティス中佐、まもなくテオルの森に到着します。ご指示を」 「わかりました。部隊を三つに分けて探索します。異常があれば無理せず合流を待って下さい」 今回の音素振動はテオルの森の何処に起こったのかまではわからなかった為、効率を重視して隊を十人単位で分けて探索させることにした。 ジェイドの指示に部下は了解!と返事をすると迅速に探索へと向かっていった。 (さて……それでは自分も向かいますか) ジェイドは眼鏡をかけ直すと槍をどこからともなく出現させ森へと入っていった。 「カーティス中佐!」 森を探索して20分程経った頃だろうか、別行動の部下の一人が自分に駆け寄ってきた。 「謎の音素振動の原因を発見しましたか?」 「それが、原因かどうかの判断がつかず……」 いまいち歯切れの良くない言葉だ。そんな難しい事態に陥っているのか 「構いません。見たままを話しなさい」 「はっ、一人の少年であります中佐」 少年? 「見たこともない服を着た少年を一人発見しました。遭難して行き倒れたという感じではありませんし、とりあえず周囲を警戒しながら少年を護衛することに」 音素振動の原因……にしてはどうも釈然としない。とりあえず確かめて見るのが一番か 「分かりました。案内して下さい」 「はっ!こちらであります」 部下に案内させ五分程歩くと、 「何だよこれは……一体何処なんだ!?」 混乱しているのかしきりに辺りを見回す、確かに見たこともない服を着た少年がいた。 「ここはテオルの森です。一般人が来るには少々危険な場所ですよ?」 ジェイドが声をかけると少年はこちらをバッと振り返った。 どうやら警戒しているようだ。 「それはもう聞いた。だけど俺はそんな場所聞いたこともねぇ!いったいどうなってるんだ!」 「はて?聞いたこともないと?」 確かにテオルの森はそれ程有名ではないがここら辺に住んでいる者なら知っている筈だ。 (彼の身なりから遠くから来たというわけでもなさそうですし……) 何やらおかしな事態になって来ているなとジェイドは感じた。 「失礼ですが、お名前は?」 「……東堂 眞樹だ」 少年……眞樹はしばらく黙った後自分の名前を言ってくれた。多少警戒心は解けたのかはわからないが、 「わかりました。私はマルクト帝国第三師団副長のジェイド=カーティス中佐です。もしよければマルクト帝国で保護しますが?」 彼以外に森におかしな所は見られなかったのだから彼が音素振動の原因と考える他なさそうだ。 (だが……ただの人間が?) まぁ、それは詳しい話を聞けばわかるかもしれない。キムラスカからの刺客とも考えられないわけではないのだから 「…………」 少年はうんともすんとも言わない。これからのことを打算しているのか、それとも (聞いたこともない集団に連れてかれようとしていることに対しての警戒か) マルクト帝国を知らないなどまるで『異世界の住人』ではないか ジェイドは突拍子もない考えをすぐにかき消した。そんな馬鹿な考えをするのはあの『鼻たれ』だけで充分だと 「行く宛があるというのなら強制はしませんが?」 もちろん嘘だ。状況証拠はそれなりに揃ってる為どう足掻いてもこっちに来てもらう予定である。 「わかった……行こう」 行く宛がなかったのか少年は渋々といった様子で了承した。 「ありがとうございます。散らばっている部下を集めろ。グランコクマに帰還する」 そばにいた部下に命令し帰還準備をさせる。 この時、まさか自分が真っ先に打ち消した馬鹿な考えが真実だったとはこの時のジェイドは微塵も思っていなかった。 [次へ#] |