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TALES OF THE ABYSS〜凡愚の意地〜
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「うむむ…………」

「ここ……Чщяёがリンゴに掛かる……です」

「え?何だって?」

「赤い……がリンゴに掛かる……」

「あぁ!ここか〜、なかなか難しいな」

ローレライ教団というものは二千年近い歴史を持ち、当然所有する聖書や書物は膨大な数となる。

ここはその資料を現像する物に限り収納している図書室だ。

といっても重大な機密を記す書類などは存在せず、子供向けの絵本や普通の資料などがあるだけだ。

そこで絵本を難しい顔で広げている少年と隣に腰掛ける少女が一人

「う〜ん……」

「疲れた……ですか?」

伸びをした少年……峻を気遣う少女アリエッタ、彼等は今勉強中なのだ

といってもアリエッタには特に学ぶことはない。

峻がここの言語をさっぱり理解出来ない為、アリエッタが教えているのだ。

何故アリエッタなのかというと、彼女は言葉少な(言ってしまえばボキャブラリーが貧困)な為、何を言ってるかまだわかりやすいというのが理由だ。

「でも……相当上手くなった……です」

「まぁそりゃあ、昼も夜もぶっ通しでやればなぁ……」

もうここに来て一週間、まだ早口で喋られるとわからないが何とか会話は出来るようになってきた。

で、今は書きの練習中というわけだ。

(人間って必要に迫れれば意外と頑張れるもんだな)

眞樹や友里と違い平凡な頭しか持たない峻は(純はあれでかなり頭は可哀想なことになっている)正直習得に何ヶ月かかるのか不安だったが

意外にみんな親切でアリエッタ以外にもリグレットやアッシュが親身になって教えてくれた(かなりスパルタだったが)おかげで何とかなりそうだ。

(喋れるようになっても俺ここじゃなんも出来ないけどな)

と峻はしみじみと一週間前の事を思い出す。







〜〜〜〜〜〜〜

「先ずは名前から聞こうか?いつまでも少年、少女じゃ味気ない」

部屋に入り開口一番ヴァンはそんなことを言った。

「私は香山 友里、こっちは真島 峻です」

それに答えるのは友里だ。峻はこの世界の言語が理解出来ない為、必然的に会話はこの少女とになり。ヴァンが峻と会話するには

「そちらの少年……峻君は我らの言葉がわからないのかね?」

「何?なんて言ったんだ?」

「言葉がわからないのか?だって」

「あぁそうだなさっぱりわからん」

「全然わからない、そうです」

「そうか……」

と友里を通訳にした非常に面倒くさいやり取りが行われることになる。

「それでは友里さん、かいつまんで説明するので峻君には後で説明して貰えるかな?」

「わかりました」

ヴァンの言葉に友里が頷くと、ヴァンは簡単に説明を始めた。

「まず、預言《スコア》についてしっているか?」

「いいえ」

「そうか、ならばそこから教えよう」

とヴァンはこの世界オールドラントは預言により成り立っており、預言は過去のみならず未来すらも詠んでいること、2000年前の譜術戦争《フォニックウォー》、それを終結させたユリア=ジュエという女性、その女性を始祖とし今のローレライ教団があることを簡単に説明した。

「というのが、この世界の簡単な歴史なのだが、理解出来たかね」

「えぇ、あなた達は始祖ユリアの残した預言を守り、人々に伝える為の組織だってことでしょ?」

「ほぉ……大したものだな」

「恐縮です」

聡明な子だ……とヴァンは素直に思った。意志の強そうな目も素晴らしい。部下に欲しいくらいだ

「そして、君達のことも預言に詠まれている」

「!?」

友里の目が驚きに見開かれる。

「驚くのも無理はない。だが事実だ。
その預言はこう記されていた」

ヴァンは詠唱するかのように件の預言を詠み上げる。

「二人……?」

「君達の見たこともない服装や持ち物から私は預言に読まれた者達ではないかと推測し、保護したわけだ」

(二人だけ?眞樹君や純はこの世界にいないということ?)

人数が合わない。眞樹や純も此処にいるなら四人の筈なのに、

「大丈夫かね?」

「え?あ、はい大丈夫です」

「いきなり知らない所に連れてこられたのだから無理はない。楽にしてくれ」

考え事にふけっていた友里をどう思ったのかヴァンが労るような声を出す。

「さて、ここからが本題だ」

「?」

「君達さえ良ければだが、ここに住まないか?」

「え?」

「君達は身よりもこの世界ではないだろうし、良ければ我々の手で保護したいんだ」

「そ、それは願ってもない話です」

何やら裏がありそうだが、だからといって何が出来るわけでもなし、正直ありがたいの一言だ。

「うむ。ならば部屋等は用意させる。今日の所はゆっくりしたまえ」

「ありがとうございます」

頭を下げた友里にヴァンは微笑みを持って答えた。







〜〜〜〜〜〜〜

(て、いう感じだったか?)

峻は友里から説明された事を思い返す。

非常に分かりやすくまとまっており、彼女がこの世界について良く理解出来たのがわかる。

(すげぇな、俺には絶対無理だ)

と苦笑する。

「よし!いつまでも休んでらんね〜!やるぜ!お願いしゃっすアリエッタ先生!」

がいつまでも腐ってられない。とりあえず読み書きぐらいは出来なければと意気込むが

「ごめんなさい……仕事が……あるです」

「ウソ〜ん!?」

「イオン様のお側に……いなきゃ」

本来アリエッタは導師守護役として導師の護衛をしなければならない。それをわざわざ時間を作って見てもらっているのだからワガママは言えない。

「そうか、ゴメンなアリエッタ。ありがとう」

「ううん……勉強……頑張ってね」

アリエッタはぺこりと頭を下げた後うっすらと微笑むと図書室から去って行った。

(あ〜、本当にアリエッタはいい子だな)

あんないい子は見たことがない。幸せになって欲しいものだ。

(死なせたくないな)

そう、彼女はこのまま行けば死んでしまう。チーグルの森で最後の決闘をして……

彼女だけではない。スパルタながらも面倒見がよく姉貴のようなリグレットも、言葉は厳しいが優しいアッシュも、こっそり宿題を手伝ってくれるラルゴも、そして……未だ見たことのないシンクも、ディスト以外の六神将は全員死んでしまう。

(助けたいな……)

だが今の自分には何も出来ない。その事実に歯噛みする峻。

(……騎士団の訓練所にでも行ってみるか)

何となく、本当に何となくそう思い。子供向けの絵本をしまい、訓練所へと足を運ぶ峻であった。



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あきゅろす。
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