TALES OF THE ABYSS〜凡愚の意地〜
D
まるで理解出来ない言語を唯一理解出来る友里についてきてたどり着いたのはローレライ教団の教会だ。
(余りのショックで聞き流してたけど、ローレライ教団ということはここはアビスの世界なのか)
峻は周りを見ながら思う。よく考えれば確かにゲームにあったダアトの風景によく似てる。
「ここが教会ね。ついさっきまで礼拝が行われてたみたい」
「わかんのか?」
「これに書いてあったわ」
と友里がどこから貰ったのか紙を見せてくれた。
(やっぱり読めん……)
どうやら文字も理解出来ないようだ。
(こんなんマジどうしようもねぇじゃねぇか!)
うがぁ!と叫びたくなる気持ちを抑え、峻は友里についていく。
「ЮщъДЁσИЦЧё│я?」
すると友里は信者らしき人に向かってまた理解不能な言語で会話する。
(あ〜マジ俺蚊帳の外)
峻には何も出来ないので話しているのを見るしかない。
それにしても友里には本当に頭が下がる。
見知らぬ世界に来て不安だろうにそれを殺してやるべきことをやっている。
(こんなどうしようもないダメ男とは大違いだな)
思えば空回りばかりで何も役に立っていない。おまけにコミュニケーションすらまともにとれない有り様だ。
彼なら……眞樹ならそんなことはなかっただろう。
眞樹なら友里のように凜と前を向いていただろう。
ふと教団員と話している友里の隣で一緒に話している眞樹の姿を幻視する。
(くそっ……絵になるな)
それこそ嫉妬すら起きないくらいに、
ここまで完璧な敗北だと笑えてくるくらいだ。
(やっぱりさ、主人公はアイツなんだよな)
自分が主役だ。なんていう妄想はもう捨てた。あの日、あの時に……
(そうさ、アイツは主人公、アイツは主役、アイツは俺なんかとは違うんだ)
アイツは俺とは別の何か、神様と喧嘩で負けても悔しくはない。そんな風に眞樹を別存在と思わなければ峻は押し潰されてしまいそうだった。
それは一種の逃げだった。そう彼は『諦めた』のではない『逃げた』のだ。
逃げたからこそ今でもこんな風に未練たらしく二年も引きずっているのだ。
(おや?)
思考のネガティブゲイトに捕らわれていた峻だがなんか友里と教団員の会話の雲行きがおかしい
教団員は驚いたような声を上げると友里が止める間もなく行ってしまった。
「どうしたんだ?」
「わからないわ。まさか預言の?とか何とか言ってどこかへ……」
峻が聞くも友里は軽く首を振るだけだった。
(預言?てことは俺らのことは詠まれているってことか)
正確には峻を除いた三人だろう。峻も含まれてるなら彼だけ言語がわからない理由がない。
ただのトリップさせた奴の気まぐれとかだったらソイツを思いっきりぶん殴ると決めている。
「っておいおいおい!兵士が沢山来てねぇか!?」
見れば瞬く間にローレライ教団自慢の騎士団『オラクル騎士団』に囲まれていた。
剣は抜いていないが何やら物々しい雰囲気だ。
「どうするよ!ヤバくないか?」
「落ち着いて、何とか話してわかって貰うしかないわ」
「あ……そ、そうだよな」
みっともなく騒いだ自分が急に恥ずかしくなりまともに前を見れなくなる。
思えば友里もあまり自分と目を合わせてくれない。(といっても今に始まったことではなかったが)
こんな情けない男なんてとっくに幻滅しきっているだろう。
(はぁ、やってられんわ……マジで)
思いっきりため息を吐きたい気持ちになるが兵士の中でも特別階級の高そうな奴がやってきてそれどころではなくなる。
法衣と後ろで束ねた髪、意志の強そうな目とそして髭……
(おい……あれヴァンじゃね?)
現れたのはオラクル騎士団の主席総長、言ってしまえばオラクル騎士団を実質的に束ねる者……ヴァン=グランツだった。
(いきなりあんなお偉いさんの登場かよ……)
てっきり六神将の誰かが来ると思っていた峻は面食らう。
そのヴァンは友里と軽く話すときびすを返して行ってしまった。
「なんだって?」
「ついて来い、だって」
友里に聞くと彼女もおかしいと思ったのか訝しげに答えた。
(まさか、オラクル入団フラグ?なんてな)
よくあるよねそういうの預言に詠まれた〜みたいな、とどこか他人ごとのように考え、ヴァンの後を友里と共について行った。
この後、まさか本当に預言に詠まれオラクルに入団することになり、咳き込む程に驚き、周りから変な目で見られるのはまた別の話
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