[携帯モード] [URL送信]

東方系小説
東方幻想郷〜刀夜録〜第8話 前編
紫の作ったスキマをくぐり抜けると其処には一面の銀世界が「いきなり嘘っぱち言いなや」……などということはなく、博麗神社の鳥居を少しばかり過ぎた境内であった。

「刀夜、誰と話しているのかしら?」ひそひそ

「さぁ? 独り言……なのか?」ひそひそ

霊夢と魔理沙は虚空に向かって冷めた言葉を投げかける刀夜に困惑の表情を向けている。紫は少女らを数秒見つめたかと思うとおもむろにその小さな肩に手を置いた。

「貴女達には無理みたいね、(ツッコミ)素質がないみたいだから」

「「?」」

紫の言葉により少女らは更に困惑することになったのは言うまでもないだろう。

ここからが本編です









「さてと、神社に着いたわけやけど――いつ教えてもらえるんや?」

「せっかちねぇ、とりあえず入りましょう。彼女にはもういてもらってるから」

「彼女? ……ああ、神のことやな?」

「「……うぷっ」」

合点がいった刀夜のすぐ隣では二人の少女が半ばうつ伏せ状態でなにやら苦しみの声を出していた。心なしか顔色も青くなっているように思われる。
「……霊夢と魔理沙はどないしたんや?」

「スキマ酔いでもしたんじゃないかしら。初めてのことな上に弾幕勝負で疲れていたもの」

紫の推測通り、霊夢と魔理沙はスキマ内の不気味な目や色彩、浮遊しているのか落下しているのかわからない奇妙な感覚にグロッキーになってしまったのである。

「……とりあえず運ぼか」

「それはいいけど……刀夜はどっちを運ぶのかしら?」

「「!!」」

紫のからかうような口振りに真っ先に反応したのはグロッキー状態である霊夢と魔理沙であった。それもその筈、自分達のどちらかが刀夜の手によって運ばれるかもしれないのだから。だが刀夜は紫のからかいを予測していたのか動揺の色は見えない。それどころか予想の斜め上をいく行動をとりだした。

「いやこのくらいなら別に」ヒョイヒョイ「この通り問題ないで?」

刀夜はあっという間に霊夢を背中におんぶ、魔理沙を抱きかかえてみせた。

((うわぁ、うわぁ/////))

当然霊夢と魔理沙の顔はこれでもかというほど紅く染まっている。

「あらあら、やるわね♪ ……って貴方何で今の体で同じ体格二人も持ち上げられるのかしら?今の貴方は8歳当時の筈よ?」

「ちょっとしたコツ、それに……俺は3歳位から親父に虐め、もとい鍛え上げられとるから……」

刀夜の目の艶が消え、暗い陰が刺していたのを見た紫は詳しくは聞こうとせず、刀夜に神社の中へ入るよう促した。
刀夜達が居間へと足を踏み入れるとそこには煎餅を片手にボケーッとしている幼女、もとい刀夜と共に幻想郷へとやって来た神様の姿が目に入った。それと同時に向こうも刀夜達に気付いたらしく顔をムスッとし、いかにも不機嫌ですと言わんばかりの雰囲気を露わにしている。

『やっと帰って来たのね、待ちくたびれてどうにかなるかと思ったわよ』

「煎餅片手に言われてもなぁ……それはまぁええとして――半日振りやな」

『そうね――ちゃんといい子にしてた?』

「当たり前やろ? 世話になっとるんやから」

『あら? 昨日みたいに突っ掛かってこないの?』

自らの予想に反して大人しい刀夜の反応に神様は多少つまらなさそうな表情を浮かべている。

「そう何度も同じやり口に引っ掛かりはせんて。……この二人寝かせるから布団出してくれへん?」

刀夜がそう言うとおもむろに紫がスキマを開いた。すると隣の部屋にボスッという音が二度聞こえた。刀夜が二人を布団に寝かすために移動し始めると神様は先程から一応は気になっていたらしく、霊夢と魔理沙に横目を向けて問うた。

『どうしたの? その娘達』

「ああ、スキマ酔いやとさ」

『あ、そう(それだけじゃあないみたいだけど、手が早いわね)』

暫くして、二人を布団に寝かせ終わった刀夜が居間に戻るとそこには紫と神様が真剣な表情をしており、居間には緊迫した空気が張り詰めていた。刀夜もまた二人の様子に顔を引き締め、二人から程よく近い所まで歩を進め、正座の姿勢をとった。

「――それじゃあ刀夜の能力について言うとしましょうか」

「……俺の能力、か」

「刀夜の能力、それは――[刀を創り出す程度の能力]よ」

「『……』」

紫の発表に居間の空気がしんとした。神様はいかにも落胆した表情で刀夜もまた何とも言えないといった表情をしている。

「な、何かしら? 何か言いたそうだけど」

紫は刀夜達の反応が薄いことに少なからず戸惑っているようである。そこへ刀夜と神様の容赦ない一言が突き刺さった。

「『なんか微妙』」

見事なまでのハモリに紫の表情がピシリという音と共に凍りついた。しかし二人の酷評はまだまだ止まらない。

「刀て……名前のまんま過ぎやん」グサッ

『外の世界でこう言うみたいね……中二病』

グサッ!

「『そして何より捻りがない』」

ピチューン

「刀夜の能力なんだから私に言わないでもらえるかしら!?」

紫は精神的ダメージを隠そうと必死に冷静を装っているが口の端がひくついている。刀夜もまた、紫の様子から笑いをこらえようとしている。神様? 腹筋が崩壊しました。

十数分後。

「それじゃあ刀夜、さっそく能力を使ってみなさい」

三人共元に戻ったところで紫が話題を次のステップに移行させた。しかし当の本人は困惑の表情を浮かべているばかりである。

「使ってみろって言われても……どうやったらええんや?」

能力の存在なんて全く知らなかった刀夜にそんなことが出来る筈もない。すると紫は刀夜の額に人差し指を数秒押し当てた。そして刀夜が何かを言う前にその指を離し、能力の使用法を教え始めた。

「頭の中で刀を一から創り出すイメージをするのよ。後は霊力と魔力で形成されていくわ」

「(な、何なんや今のは……それに何で紫はそんなこと知ってるんや?)こんな感じか?」

刀夜は目を瞑り、頭の中で記憶の片隅にある刀を一から作る過程イメージをした。するとどんな金属か? どのくらいの大きさか? 刃文の形は? 様々な情報が頭の中を駆け巡り気がついた頃には大まかな刀の設計図が出来てきた。

(なんや? この感覚……初めてやる筈やのに……どこか、懐かしい)

しばし何とも言えない不思議な感覚に浸っていた刀夜であったがその終わりは突然やって来た。

「……うっ? がはぁ!?」

突如猛烈な眩暈が訪れ刀夜はその場に倒れこんでしまったのである。

「な、なんや?」

刀夜は自らの身に何が起きたのか理解出来ずにいると耳元で怒鳴り声が鳴り響いていることに気付いた。

『ちょっと!? 聞こえてる!?』

怒鳴り声の主は神様のようである。刀夜はゆっくりと顔を神様の方へと向けた。

「な、なんだ……いきなり大きな声なんか出して……き、聞こえている」

刀夜の口から出たのはとても小さくか細い声であった。神様は顔を向けた刀夜に一瞬ホッとした表情を浮かべたがすぐさま刀夜の放った言葉を理解し、再び不安気な表情に戻ってしまった。

『いきなりって、もう一時間以上声かけてたわよ!!』

「……そうなのか? 気が付かなかった」

「目が覚めたのね」

「紫……俺は一体」

「貴方が倒れたのは過度の霊力と魔力の放出によるものよ。……初めての使用だから加減がきかなかったというところね」

刀夜の身に起きた事を大体話し終わり、今一度刀夜の様子を見るために顔を覗き込むとそこには申し訳なさそうにしている刀夜の表情があった。

「……すまん」

『(……何か、おかしいわ)とりあえず、今日はもう寝なさい』

「わかった……お休み……」

そう言い終わると刀夜は意識を手放し、眠りに入った。









『(……)まったく、ん? これは?』

神様は刀夜のそばに落ちていた何かを見つけた。それはつい先程まで気がつかなかった、いや“いつのまにか現れた”それは紛れもなく……

「刀の刃先ね。……それが刀夜が創り出したものよ」

長さ15cm程の刃先、刀夜の限界まで込められた霊力と魔力にて創られたものである。しばしその刃先を眺めていた神様であったが急にハッとした顔になり、マジマジと刃先を見つめること一分。

『何よ……これ』

神様の口からは信じらんないといった風の言葉が零れ落ちた。

『これ……本当に鋼で出来てるじゃない!?』

手にした感触、重量、光沢、どれをとってもこの刃先から感じられるのは刀を作る際に用いられる玉鋼にて精製された日本刀そのものなのである。それに対して紫は首を振った。縦にではない、神様の言ったことが間違いであるという横へ、である。

「いいえ、鋼なんかじゃないわ。霊力と魔力で出来た“鋼のようなもの”よ。まぁ99.9%以上鋼と同じなのだけれども」

神様は紫の言葉に尚更信じらんない顔をしている。それもその筈、紫が言っている事が正しいのならば……

『霊力と魔力で出来てる? ありえない。だって、それは』

「そう、ありえない。何故なら霊力も魔力も形なんてないものだから」

『例え霊力と魔力を圧縮結合したとして結晶化は出来ても……物質化なんて出来やしない』

「それを可能にするのが刀夜の能力……刀夜自身の力なのよ。まぁ、刀にしか出来ないのだけれども……ね」

『……』

神様は開いた口が塞がらないのか呆然と立ち尽くしている。

「……そろそろ行きましょう。此処じゃあ刀夜が起きるわ」

『……わかったわ』

二人は静かに部屋を出て行き、一晩が過ぎた。

「ん……ん〜よぉ寝た」

霊力と魔力の枯渇によるの疲労も癒え、刀夜が目を覚ました。そして刀夜が最初に目にしたものは……

「「zzzzz」」

二人の少女が自分を挟んでがぐーすかと寝ているという状況でした。

「――なんや? この状況」

「「……ん」」

刀夜が目を覚まして一分と経たない内に少女達もまた目を覚し始めた。体を起こししばしぼうっとしたと思えばすぐさまその顔を90度真横に回転させるという動作を2、3度繰り返している。

「「……」」

「よぉ、おはようさん」

二人の行動に苦笑を浮かべつつも刀夜は少女らに目覚めの挨拶をかける。しかし少女らの寝ぼけた脳みそでは今の状況の再確認しか行われておらず刀夜の挨拶に気が付いたのは30秒程経過した後であった。

「「と……刀夜!!」」

「はいはい、刀夜さんですよ〜……何で君ら此処で寝てたんか聞いてもええかな?」

「「刀夜のばか!!」」ゴスッ×2

刀夜の質問に対する少女らの答えは顔面目掛けてへの拳であった。

「おぅ!?」

不意打ち気味でああったが為に、幼い頃から剣を叩き込まれている刀夜といえども避けることかなわず綺麗にもらってしまった。しかし少女らは一撃では足りないのか顔面に、腹に、その小さな拳をくり出している。

「何が、刀夜さんですよ〜、よ!!」ゴスッゴスッゴスッ

「思いっきり、やばい、倒れ方してたんだぜ!?」ゴスッゴスッゴスッ

部屋に生々しい音が何度目何度目も鳴り響き、そのたびに「痛っ、ちょっ、止め」といつ懇願が聞こえてきたが刀夜がたこ殴りから解放されたのは少女らが疲れて拳が握れなくなるまで続いた。

「ど……どれだけ心配したと思ってるの」

「死んだかと思っちゃったじゃないか……」

「……ゴメン」

少女らは殴るだけ殴った次は泣きながら刀夜を責め立てた。殴られることには慣れ親しんだ刀夜ではあったが女の子の涙にはあまり慣れていない。これは彼にとっては殴られるのよりずっと堪えてしまった。
その後数十分にわたり、霊夢と魔理沙は泣き続け、刀夜はそれに謝るという光景が続いたのであった。









「まったく」

「もうこんな真似はしないでくれよ」

「すんませんでした。許してください」

霊夢と魔理沙は未だに目尻が赤いが落ち着いてきたようである。慣れない事に状況に参ってしまった刀夜は土下座の姿勢のまま許しを請うている。だが心底心配していた少女らが簡単に許すこと決してない。

「「いや」」

「いやて、そんなこと言わんと」

そこまで言った時に意外なところから刀夜の助け舟となる人物がやって来た。

「あら、泣き声が聞こえなくなったからもう終わったのかと思ったのだけれど」

「「「うわ!?」」」

いきなり目の前の畳から紫が体の上半分だけを出現させていた。完全にお互いにしか意識していない状態であった刀夜達にとって紫の出現方法はかなり心臓に悪い。

「(……結構傷つくわね)それにしても貴方も中々の寝坊助ね」

「……そんなに寝てたんか?」

「ええ、もう昼過ぎよ」

「昼過ぎ!? ほぼ丸一日寝てたっことかいな!?」

既に昼過ぎと聞き、自分がかなりの時間眠りについていた事に驚きを隠せない様子である。

「そしてそこのお嬢さん方が眠りについた貴方を看病を買って出た、というわけよ。……その途中で自分達も寝てしまったみたいだけど」

((うっ/////))

霊夢と魔理沙は図星を突かれたのか顔を赤くして俯いてしまった。その様子に紫はクスリと笑ったが次の瞬間には真剣な面持ち切り替わっていた。

「刀夜、居間に来なさい。食事と……大事な話があるわ」

「――わかった」

そう言うとトンという軽い着地音と共に紫はスキマから完全に抜け出し、部屋を後にした。無論刀夜もである。霊夢と魔理沙? フリーズしてますよ。









「腹減ったな〜。そういや幻想郷に来てから食事してへんなぁ〜。あ、団子食ったか」

「あら、そうなの。だめよ? 食事はとらないと」

「まぁ、色々あったんよ。……此処の巫女さんとか」

そう言うと紫は軽い溜め息を零し、かの巫女の痴態に呆れてる表情を浮かべている。

「全くあの娘は……まぁ、今も人里の修理してるんじゃないかしら?」




「うう、壊したのは私だけど何も私一人で直さなくてもいいじゃない」




「……今何か聞こえt「気のせいだと思いなさい」……さいか」

そんなやり取りをしていたからか、はたまた空腹によって気が入ってなかったためか、いつの間にか居間を通り過ぎている事に気づき、2、3部屋戻り居間の襖を開いた。

「飯飯〜♪ ……え?」

『あ、刀夜起きたの』モグモグ

意気揚々と襖を開けた先で神様がご飯を食べていた。膳は一つ、目の前の幼女がつついている物のみ、それが指すこととは……

「――それ、刀夜の食事よ?」

『……え?』

思わず目の前の膳と刀夜を交互に見比べている神様、そして気まずそうな表情で刀夜を見やり一言呟いた。

『ゴメン、まだ起きないと思ってたから』

そう言うと再び箸を進め始めた。刀夜達が入った時には既に大半が腹に収まっていたので完食するまでそれ程時間は掛からず、刀夜は目の前で全ての食事が無くなっていくのをただただ見つめることしか出来なかった。









『はい、出来たわよ』

「飯!!」

十数分後、流石に悪いと思ったのか食事を終えた神様が刀夜の分を作った。刀夜はそれを見た瞬間飛びかかる勢いで食べ始めている。

「……」がつがつ、むしゃむしゃ

「すごい食べっぷりねぇ」

『もっと味わいなさいよ……神が人間の為に作ったというのに……』

そのあまりの光景に紫は感心半分呆れ半分といった顔をしており、神様は刀夜が味わうことなく流し込む様に食べていることに不満を述べている。

がつがつ、ごくん「――ふぅ〜ごっそさんでした」

結局の所ものの数分程で完食した刀夜は満足気な表情を浮かべながら食後の一服をすすり余韻を噛みしめていた。どうやら神様の作った食事は大層美味であったらしい。







「それで大事な話しって?」

「先ずはこれから見てもらうわ」

紫は机の上にとある物、昨日刀夜が創った刃先を置いた。

「なんやこれ? 刀の刃先か?」

刀夜は机の上の刃先を誤って切らぬように指で摘み目の前で多少動かしながら刃先を観察し始めた。紫はその行動に一瞬憂いの表情を浮かべたがすぐにピシッとした顔に戻したため誰にもそれを見られることはなかった。

「――昨日貴方が創った物がそれよ」

自分が創った物、すなわち自分の能力によるものと即座に理解すると同時にとある事実の判明に刀夜は眉を顰めた。

「へぇ〜……俺がぶっ倒れるまでやってこの長さなんかいな」

刃先の長さはおよそ15cm、刀は基本70cmから90cm程の物が主流である。中子(なかご)の部分も合わせると更に長くなる。それと比べたら刃先15cm等話しにならない長さでしかない。

『長さが問題なんじゃないわよ』

「……金属、鋼で出来てるってことか?」

「そうよ、そこがポイント」

「確か……霊力と魔力で出来てるて記憶してるんやけど」

「ええ、確かにそう言ったわ」

「霊力と魔力で金属を作ることなんて出来るもんなんか?」

「作るんじゃなくて“創る”よ。普通は不可能よ。でも貴方はそれを可能にする」

「能力によって、ってことか」

「それもあるわ、でも基本的には貴方自身の力よ」

「? どういうことや?」

「貴方は霊力、魔力を実際の金属のように原子レベルで組み合わせることで刀を創り出してるのよ」

「『……はい?』」

金属とはその金属の原子が独特の配列をなし、それが幾重にも重なり形と成っているということは刀夜も学校で習ったことはあるがその専門的な知識、分子がどの様に繋がるか、炭素を混ぜた場合にはどの様な構造式になるかなどまでは習っていない。そもそも刀夜が学校で選んでいる分野は文系なのだから理系の応用を言われてもさっぱり理解が出来ないのである。神様に至ってはまるで外国語を聞いているような顔をしている。

「もっとかみ砕いて言うと超圧縮して創るってことよ」

紫は二人の表情を見てため息を一つ零し、二人に分かり易く解読してみせた。

「ああ、なるほど。だからこんなに短いんか」

「いいえ、ただ貴方の力不足なだけよ」

「……さいか」

『この長さで大体どれ位の霊力と魔力が圧縮されてるの?』

「そうねぇ……半径10m以内にある物は根こそぎ吹き飛ばせる程度かしら」

紫は呑気にお茶を飲みながら言った。彼女が余りに軽く言ったので刀夜は一瞬反応が遅れてしまった。

「……まじ?」

手に持っている小さな刃先がそれ程までの威力を秘めている事に驚きが隠せないのか、刃先を机の上に置くなりジリジリと後退し始めている。
心配しなくても安定しているから大丈夫よと紫が言っているが刀夜には目の前の刃先が爆弾並みの破壊力を持つことに少なからず衝撃を受けていた。しかしそんな彼を更に驚愕させたのは現在その刃先になんの躊躇もなく触れている神様の平淡とした言葉である。

『なんだ、その程度なの』

「……え?」

刀夜はその言葉に思わず思考を停止させていた。だが神様は間違いなくその程度と言った。そして紫も同意見なのかなんら反論を唱えない。

「今は大したことがなくとも、この刀が完成をみたならば、相当なものになるわ。それこそ今の桁違いな程、ね」

『1日10cm程度を目安にすれば倒れたりはしないだろうから……後8〜9日位で完成ね』

つまりは約10日で一振り創ることが出来るということ、そう中りをつけた刀夜は重く溜まったいた空気を長く、深く吐き出した。全てを吐き出した後の刀夜の表情には既に憂いは消え、いつもの明るい顔に戻っていた。

「速いなぁ。実際の刀はもっと掛かるもんやけど」

「まぁこっちは材料も製法も根本的に違うから当たり前ね」

刀夜の気負いを感じさせない口調に紫もまたいつもの胡散臭さを漂わせる口調で応じてみせる、そこには既に真剣な話の空気は完全に消え失せていた。









「それじゃあさっそく続きを創ろか」

そう言うと刀夜は刃先を持ち、昨日と同じように頭の中で刀を創るイメージをする。

(今回はちゃんと加減しながら……)

手にした刃先が徐々に伸びていき、20cmを超えた長さになったところで体に倦怠感が訪れてたため止めた。どうやら1日眠った位では枯渇した霊力と魔力は回復しきっていなかったらしい。

「――こんなもんやな、もうスッカラカンなってもうた」

刀夜は未だに短刀にも満たない程の長さの刃先を苦笑を交えた笑みで見つめている。しかし紫はしばし無言で何かを考えると刀夜に気になる一言を投げかけた。

「まぁ、とりあえずはそれ位あれば“十分”でしょう」

そう言うと何処からともなく厚手の布を取り出してそれを根元に巻き付けよう言い渡した。

「何が“十分”なんや?」

刀夜は疑問を投げかけつつも言われたまま布を巻き付けていく、中子がなく、刃が剥き出しになっているにもかかわらず布は全く切れることなく、あっという間に即席の柄として機能することとなり小さい刀夜の掌に包まれている。それを見届けていた紫はすっと立ち上がると今の襖の前まで歩を進め、クルリと身を翻した。

「これから刀夜には実戦を行なってもらうわ」

「――は?」

『ちょっと紫? いきなり何を言い出すのよ?』

「幻想郷では最低限の力は付けておいた方がいいのよ。……死にたくないのなら尚更ね」

「……わかった。でもこれだけやとちと不安やから家から持って来た小太刀も持ってくで」

「ええ、かまわないわ。でもただの金属の小太刀じゃあ妖怪にはさほど効かないからとどめはその短刀を使いなさい」

「了解。じゃあ小太刀取ってくるわ」

紫の忠告を頭の片隅に置き、刀夜は小太刀を取りに行くために居間を出ていった。

『刀夜って順応性高すぎじゃない?』

刀夜の異常とも言える順応性に神様は溜め息をついて問いかけている。

「半ばヤケになってるのかしらね。もしくは戦うことに慣れてるか」

対する紫は刀夜が出て行った襖を眺めてポツリと自分の推測を述べている。

『慣れてる、ねぇ。……ずいぶんと刀夜を知っている風な口振りに聞こえるわね』

「ッ!!」

『さぁ、何を隠しているのかしら? 教えてもらうわよ? 八雲 紫』

神様はじりじりと紫に詰め寄っていく。その表情は全てを聞かなければ納得しないと如実に物語っている。そして紫もしまったという顔をしてどうしたものか思考を巡らせている。そして重い空気の中、紫が口にした言葉は……









後半へ続く

あとがきは後半に纏めて出します。

[*前へ][次へ#]

10/14ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!