上陸、迷走 『そんなに泣かないで――』 私は辛くもないし、悲しくもない。 『そんな顔しないで――』 あなたは悪くない、悪いのはあなたを守れなかった、私――。 「…うわぁ…。凄いですね…」 自分がとても小さく感じた。 田舎から出てきたと言う訳でもない。 東京、日本では最重要都市とも呼べるこの場所で、私、ソラ・アルロッテと隣で高層ビルを見上げるアネモネは途方にくれていた。 池袋、そう書かれたガイドブックを片手に人の波に埋もれて。 時間はもう夕刻、 人々は疲れたように駅に向かうものや笑いながら遊びに向かうものと色々。 こう見ると今の日本人は自由なのだなと思う。 「ソラ様。何を呆けているんですか。地図をちゃんと見てください。日本語が読めるのはソラ様だけなんですから」 「こんな事になるなら…ちゃんとアネモネにも喋りだけじゃなくて読み書きも教えとけば良かったわ…」 「どうしようもない事をいつまでも言ってないで地図を見てください。じゃないと今日野宿ですよ」 確か日本の都市で野宿なるものをすると後ろ指を指されるらしい。うん、せちがない世の中だ。 「よし、こうなったら。アネモネ」 「なんです?」 「君の持ち霊を使ってアドネスと連絡を。アドネスなら場所を特定くらいは…」 「リーフでしたら。アドネスと一緒です」 持ち霊だのなんだのを大声で言うのは気が引けるので小さく声を掛ければ絶望的な言葉。 そう、私は今流行りの…よくいえば夢見る少女ではない。 私達はシャーマン。 外国ではシャーマニズムと呼ばれる独自な言葉があるように普通の人間では見えも、感じもしない人間の霊魂や精霊やがては神と交信できる人間を指す。日本では霊能力者、巫女、陰陽師、そして拝み屋など。 「…アネモネ…。明日から修行メニュー増やそうかしら」 「えぇっ!!なんんで!」 「なんでぇ?持ち霊もまともに使役できないならねぇ…」 「そう言うソラ様はどうなんですか」 「……さぁて…アドネスとどう連絡を取ろうかしらぁ…」 「ソラ様だって変わらないじゃないですか!」 あぁ、聞こえない、聞こえない。私のシャーマンとしての能力の一部である、使役霊(私の持ち霊は幽霊ではないが)かなりの気分屋なのでね。 「あのぅ…」 足元から小さな声が聞こえた。 足元、下…。 見下ろしてみればそこには腰くらいまでしかない、少年がいた。 小学生?にしては老けてるような、いやいや失礼だよね。自分。 ジャパニーズスチューデントが着るのを義務づけられている制服とやらを着ている。 「ちっさ…」 「んなっ…!」 「アーネモーネ」 いつも初代面の人に対して失礼な事を言うなって言ってるじゃないか。本当の事だけども 「ソラ様…笑顔が怖いです……」 別になにかしてやろうと笑ってるわけじゃないから。 「ごめんなさいね。この子言葉がすぐに出ちゃって…」 英語で呟いたのだけど相手は意味を受け取ったみたいだし…。 「そりゃあ…ぼくだってこの身長の事を気にしてるさ…。でもそれを初対面の人に直接言われると傷付く――」 「あのぅ…」 これじゃあさっきと逆立場しゃないか。いきなり話しかけてきたのはそっちだし、こうして道端で揉めていると目立つし。 「なにかご用で?」 日本語で言ってみると、彼は我に帰ったように言った。 「あ…そだ。ねぇ……君たちもしかして…シャーマン…なの?」 アネモネは驚いて、そしてどう返事したのものかと言う風にこちらを見上げた。確かにこうやって街中で話をしていたらバレるかもしれないが…日本人の若者は英語は単語、単語でしか聞き取れないと聞いた。 それをこんな小さい子が…。 「君…もしかして噂の天才少年…」 「はっ?!!」 私達は日本に上陸しました。 まだまだ前途多難です。 [次へ] |