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水面

「おに…」

水面に映した月から視線を逸らさずにぽつりと呟いてみせればその影はぴくりと動きを止めた。

―水面


月が本当に綺麗な夜だった。
部屋の柱に横に掛かって見てもぱっちりと見開いた月が見えるものだから私はばれてしまったら怒られると分かっていながらも裸足で対の屋から庭へ出た。
砂利が多少痛くても気にしなかった。
広過ぎる庭の中央にある池にひょうひょうと月は映っていた。
そう言えばこの間呼んだ草紙には月にはとても美しい姫が住んでいると記してあった。
月に住む姫は不思議な力を持っているとあってその力で貧しさに困る家族を助けたと。
彼女はどんな願いも叶えると云う。
彼女は手を振れば振り返してくれるだろうか――でも彼女からはどんなに大振りに手を降っても見えないかもしれない。
だったら――。
池の水辺ギリギリまで足を運んで水に映った水月に手を伸ばしてみた。
私の姿が見えたら私の願いを聞き届けてくれるだろうか。
私の声を聞いてくれれれば。

その時だった。
びくりと私の体が跳ねたのは。
寒気でもない。
第六感とも呼べる嫌な―予感。
でも感じる気はこの薄汚れた都ではごく普通に感じるもの。私は背中に目がある訳でもない。が、その影の場所がわかる。
「おに…」
私が呟くとその影はぴたりと動きを止めた。同時に砂利を蹴る音が聞こえた。
「居るのは分かってるのよ?」
と、私が初めて振り向くとそこに漆黒の髪、瞳を持つ少年が呆然と立ち尽くしていた。




それは嫌な予感なんかじゃなかった。
これからの私の運命を垣間見たゆえの、畏怖だったのかもしれない。

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あきゅろす。
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